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第四章

242話 万能人

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「……立派な部屋だ。それに、見た事のない建築様式。……本当に知らない世界か」

 レオナルドは謁見の間に出てくるや否や、周りの人間など気にもとめずに柱や窓をまじまじと観察し始めた。

「こりゃ随分癖の強い奴が増えたもんだぜ」







 飽きるまで部屋の装飾を見せたあと、事前に用意しておいたこの世界についての様々なことが書かれた本を彼に渡した。
 孔明の時もそうだったが、やはり天才には私のような凡人の口から説明するより集積された知識の塊を直接渡した方が手っ取り早い。

「──だいたい分かった。次は本物を見せてくれ」

 私たちは外に移動し、パフォーマンス大会のようなものを催すことになった。

「そうだな、ここではまずナポレオンに頼もうか」

「うむ。……注目せよ!」

「……!」

葡萄月ヴァンデミエール将軍』の効果により頭の中が透き通ったような、思考が加速する感覚を覚える。

「歳三、魔法を」

「おう。──不知火しらぬい!」

 歳三の新技は、刀に炎魔法を乗せたシンプルなものだ。しかし、刀から放たれる超音速のそれは鉄板を切断するほど高温高圧を生み出し、トロールの装甲を破る一つの対抗策となるだろう。

「次、孔明」

「はい──」

 次に孔明の天候操作、最後にルーデルの『Drachen Stuka』を見せた。

「……恐らく、このような特別な能力──スキルと呼ばれるものが与えられているはずだ。レオナルド、何か感じるか?」

「いや、まだ何も……」

「そうか。だが焦ることはない。……では先に魔導具を見せよう。午後から亜人・獣人たちも大臣の仕事で皇城まで来るので、そちらは後程」

 見せるものが全てなくなった頃にレオナルドはスケッチを始めた。
 形あるものを分解するのが好きなようで、魔導具をカチャカチャといじり分解し、部品単位でその詳細をスケッチブックに書き記していった。

「ほう、見事なものだな」

 レオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図は今でも有名だ。それは単に医学的な観点から見た解剖学だけでなく、人体の構造を理解する芸術的な観点からの解剖学としての評価が高い。
 つまりそれだけ本物に忠実に、緻密な筆致で観察を記録に残したということである。

「──魔力の籠った、画材道具はあるか?」

「ん? ……私は魔法はからっきしでな。ヘクセルというこのまどうの発明者がこの国で一番魔法に詳しい。ついでにドワーフたちにも会えるし、ここに持って来れないものもあるからこのまま研究開発局と製造産業局の方へ行くか」






 またまた場所を変えて城下へやって来た。
 ここで孔明やルーデルたちと別れ、久しぶりに歳三が私の護衛としてついてきた。

「──ここが!」

 私も久しぶりに来たが、戦争関連で予算を増額した甲斐あってか巨大な製造機械などが局内に建てられていた。

「いや、いつも急に来てすまないなヘクセル。実は彼が色々知りたいことがあると言ってね」

「あなたが開発者のヘクセルさんですか。私はレオナルド・ダ・ヴィンチです。少しお聞きしたいことがありまして」

「あわわわわわわ、これはどうも……。──ツァッ、あの、えっと……、ミラじゃダメかな……?」

 今日のヘクセルは十代の少女のような見た目をしていた。彼女(?)彼(?)の後ろで苦笑いするミラよりも若い見た目である。
 いつになったら幻影魔法を外した本物の姿が見れるのか楽しみにしているのだが、知らない方がいいこともあるのだといつも黙っている。

「早速、この魔導具の仕組みについて聞きたいのですが……」

「あ、ああ……、それはだね…………」

 解説モードに入ったヘクセルは饒舌である。
 レオナルドもふんふんと鼻を鳴らしながらヘクセルの言葉を必死にメモっていた。

 その間私たちは暇なので歳三と製造産業局の方へ行き、新兵器の開発状況などを見て回った。
 こういう工場見学というのはいくつになってもワクワクするものだ。

「そういえば、雷管の量産化に成功したらしいな。新しい武器が楽しみだぜ」

「元から魔石粉の爆発性は雷管に適してたからな。無事安定的に供給できるようになって何よりだ」

 そんなこんなで時間を潰して小一時間後、ヘクセルたちの元へ戻ると、レオナルドは巨大な一枚の紙を机の上に広げ、それに覆い被さるようにしながらものすごいスピードで絵を描いていた。

「これは君たちが?」

「はい! これはレオナルドさんに言われてご用意しました! 魔力の籠った画材ということで、魔石粉を混ぜたインクとマジックゴートの羊皮紙です! これは魔導師の方が魔導書なんかを書く時に使う道具なんですよ! ね、お師匠様!」

「えッ! ……あ、……う、うん、その通りだよミラ……」

 五分ほどして中身の部品類が書き終わったのか、レオナルドは羊皮紙を裏返してそちらに完成図を描いた。
 完成図を見るにどうやら彼は帝国でも最新の技術である魔導カメラを描いていたようだ。

 そしてそれを持ち上げると、なんと彼は絵の中に腕を突っ込んだ。

「え……」

 呆気に取られる私たちをよそに、レオナルドがずるずると絵の中から腕を引き抜くと、彼の手には完成品の魔導カメラがあった。

「ちょ、ちょちょちょ……!」

 ヘクセルが半ば強引にその魔導カメラを奪い取り、パシャパシャとその辺に向けてシャッターを切る。
 慣れた手つきでフィルムを引き抜きライトにかざすと、ヘクセルは「撮れてる……」と声を漏らした。

「どうやら、これが神から与えられた“スキル”とやらのようだ」

「ははは……。これは今までとはまた別次元の能力だな……」
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