上 下
240 / 262
第四章

238話 魔王

しおりを挟む
「リッチの魔法は数こそ多いが威力は大したことない! こちらの魔法で相殺しろ!」

 ナポレオンの激励で、こちらの魔導師や魔法付与のできる弓兵たちが一瞬優勢を取った。
 この好機を逃さずルーデル率いる空軍が絨毯爆撃を行う。ここまで撃ち落とされず生き残っているのは皆揃って手練である。

「歳三! 正面のオークをやれ!」

「任せろ──『血桜』ァ!」

「爆撃が終わった! 孔明、暴風を起こせ!」

「了解しました! ──『暴風怒涛』!」

 追い風に背中を押され、私たちは更に加速し敵の陣中央を抉るよう深く攻め入った。

「うぉぉぉぉ!!!」






 五時間ほど経っただろうか。
 私たちは猛攻を続けたが、ナポレオンの『葡萄月将軍』があってしても部隊に息切れが見え始めた。

 だが私たちは第三区域を取り戻すことができた。多大な犠牲を払って。
 そして無限に湧き出る敵の後続部隊を叩くべく第四区域に攻め入り、魔王城を遥か遠くに、しかし確かにこの目に捉えた。

 そんな時だった。

「レオ様! 空が変でござる!」

 私の護衛としてピッタリ馬を付けていたサツキがそう言った。
 確かに見上げて見ると、霧がかって薄暗かった空が妖しく赤紫に染まっている。そしてまだそんな時間ではないというのに、魔王城の後ろには真っ赤な月が二つ、煌々と光を放っていた。

「孔明、どうなっている!?」

「私の天候操作ではありません!」

「なんだと……!?」

 その不穏な空気に、私は思わず馬を止めた。

「あ、あれはなんでしょうか……」

 タリオが朧げに影が浮かぶ魔王城の方を指差す。

 目を凝らすと、城の影に重なるように、一匹の青白い龍がとぐろを巻くようにしながら空へ駆け上がっていくのが見えた。

「あれはなんだハオラン! ドラゴンは魔王城に住んでるのか!?」

「知らん! あれは我らが信仰するドラゴンとは違う!」

 やがて魔王城の天守まで登りつめた龍は青白い焔を残して消えてしまった。
 そしてその跡には一人の人影があった。

「あれは……」

 翼がある訳でもないのに空を飛び続けるその人物はマントを翻し両手を広げた。
 その瞬間真っ赤な月には髑髏のような模様が浮かび上がるように光を増し、人物の全体が照らされた。

「注視せよ!」

 ナポレオンの号令で私の目に強力な身体強化魔法が掛けられ、視力が増強される。

 その人物は髪を髷に結い、銀色の鎧に身を包み、朱のマントを羽織っていた。鎧の胸元にはドス黒い赤色の宝石が埋まっている。
 腰には刀を差し、左手には私たちの銃のようなものを、右手には黄金の杯のようなものを持っているように見える。

「……貴様が人間の王か」

「ぐ……!」

 頭に直接語りかけてくるような、重低音の声が大地に轟いた。

「今すぐ軍を退け。今はその時ではない」

「敵城を眼前にして敵に背を向ける将がいるか? ……魔物を統べる者、魔の王よ、名を名乗れ! 私は人間の王、全人類を統べる者、レオ=フォン=プロメリトスだ!」

「貴様が軍を退かねば、退けるまでよ。

 魔王のその言葉に応じるように、どこからともなく大太刀を持った魔人が現れた。
 その魔人がたった一振したその瞬間、見えない斬撃によって私の前方にいた近衛騎士数十人が瞬く間に胴体が真っ二つに切り落とされ、主人を失った馬が嘶きと共に去っていった。

「……レオ! 強さが違いすぎる! 撤退するしかないぜ!」

 歳三の心すら打ち砕いたその魔人は大太刀を構え、魔王の命令を待っていた。魔王が腕を振り下ろせば、次に飛ぶのは私の首だろう。

「……魔王よ! 私はお前を知っている!」

「戯け! 儂は貴様のような南蛮人は知らぬわ」

「平朝臣織田上総介三郎信長……」

「……ほう、その名を知る者とはな」

「魔王とは良く言ったものだな! 第六天魔王、織田信長!」

 伝説で人類が魔王と対峙したのは約五百年前とされている。信長が死んだのも、私が死んだ時から遡ればそのぐらいだ。

「マタサ」という名の魔人はつまり「槍の又佐」の二つ名を持つ前田利家。今呼ばれた「カカレシバタ」とはそのまま「かかれ柴田」、つまり柴田勝家だ。
 ろくな知能を持たないモンスターたちの寄せ集めのはずである敵軍の動きが妙にいいのは、歴史に名だたる織田家臣団の指揮があるからだろう。

 五つの花弁が描かれた旗印は五瓜に唐花の織田木瓜。
 今まで私たちが甚大な被害を被った敵の攻撃も、どれもが信長の得意戦法の数々だったのである。

「私は魔王という存在は、文字通り魔物の王であり、理知的な会話は不可能であると思っていた。だが、魔王が織田信長公であるとなれば別だ。柔軟な発想を持つ貴君ならば、武力ではなく言葉で今後について話し合えるのではないだろうか!」

 魔王が現れてから、私たちは進軍する手を止め、モンスターたちも動きを止めている。
 これはすなわち、私と信長が合意すれば戦いは終わるということだ。これ以上の犠牲を出さずに戦争が終わるのであれば、それが一番だ。

「……問おう、レオとやら。貴様の目指す天下は如何様なものか」

「争いのない、誰もが幸せに暮らせる平和な世界だ! 日の本を統一しようと目指した貴公なら分かってくれるはずだ! これ以上の分断を生まないよう、私たちで話し合おう!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...