232 / 262
第四章
230話 旅行
しおりを挟む
せっかく平和になったのだから私もそれを享受して良いだろう。
その考えの元私はエルシャを連れて旅行に出掛けることにした。いつまでも皇都に押し込められているのは人間的な生活ではない。
「悪いな孔明。留守は頼んだぞ」
「はい、お任せ下さい。一路平安にございます」
「それから団長、アルド、世話になる」
私の身の回りの安全を守るとなれば保安局と情報局が動くことになる。
「歳三さんが任務を放棄して戻ってこようとするほど心配してましたよ……」
「私ももう子供ではない。歳三に心配無用だと団長からも伝えてくれ」
「はい」
私の元まで届く報告書を見る限り、大戦後の大陸における治安自体は極めて良好だ。
それもこれも彼らの努力のおかげなのだが、戦争が終わって三ヶ月も経てば復興も進み戦後の混乱や反乱の風潮も治まっているだろう。
「レオ様、私は局長として全体の司令塔となりますのでお傍にお仕えすることができません。代わりにこちらの者を──」
そう言ってアルドに紹介されたのは一人の妖狐族の娘であった。しかしその背格好というのがまた奇妙なもので……
「初めましてレオ様! サツキでござる! にんにん!」
着物っぽい何かを切り貼りして忍者っぽい衣装に仕立て、背中には中くらいの大きさの刀を背負っている。
忍者のように隠密性があるのかと問われれば、黒地ではあるもののピンクや赤の花柄で彩られている服や簪などは目立つし、何より本人に忍ぶつもりが全く見られない。
「あの……、こう見えて彼女はウチでも指折りの諜報員です……。歳三さん仕込みの戦闘能力と私にも劣らない幻影魔法の使い手であり、レオ様のご安全は必ずお守りします」
「その通りでござる! にんにん!」
この喋り方といい服装といい、歳三から聞いた日本像が歪んで伝わっているようだ。まあ腕が確かならなんでもいいのだが。
「分かったアルド。お前の言葉は常に信じている。……よろしくサツキ」
「にん!」
そんなこんなで、私たちは保安局の護衛及び情報局の監視の元、旅行に行けることとなったのだった。
「──では出してくれ」
「は!」
私はせっかくなので機関車に乗りたいと要望し、こうして一等車に乗っている。
私の指示でゆっくりと動き出した機関車は、黒煙を吐きながらレールの上をガタンゴトンと進んで行った。
戦前に存在した線路は帝国と亜人・獣人の国々を結ぶ一本だけであったが、大陸全土の資源と労働力を使えるようになった今、路線は拡大を続け王国と協商連合にも一本ずつ、帝国内には複数の線路が引かれた。
「こ、これ速すぎじゃない!? こんな鉄の塊がこんな速さで動いたら死んでしまうわ!」
「大丈夫だ。安全実証はされているし、今まで何度も無事に運行している」
そう言ったがエルシャは初めて乗る機関車に酷く怯え、私の手を握る彼女の震える手は驚くほど冷たかった。
エルシャは速いと言うが、ルーデルの目測によると実際は80~100km/hで走っているらしい。
元の世界の特急と変わらないぐらいであり、新幹線などに比べたら遅すぎるほどだ。ルーデルやハオランの背中の方がよっぽど怖かった。
だが普通の機関車に比べたら速いのかもしれない。
石炭に魔石を混ぜた特殊な燃料を使っているし、車体も鉄とミスリルだかなんだかの合金で強度はそのままに軽量化されているとのことだ。
「ほら、窓の外を見てみろ。いい景色だ」
機関車は皇都を出て亜人・獣人の国方面へと進んでいる。
よって今見えているのは皇都からエアネストにかけての街道とその周辺の街並みである。
「……意外とこの辺まで発展しているのね」
エルシャも私にしがみつきながら、窓の外を流れる景色に目を向けていた。
「首都の近くはすぐに開発されるさ。それに沿線上はこれから物資のやり取りが簡単になる。皇都や帝国はもっと大きな街になるな」
「そう……。でもあんまり人ばっかりだと疲れるから、たまには自然の中でゆっくりしたいわ」
「そう言えば君は皇城の庭を散歩するのが好きだったな。これからまずエルフの森に向かうから、エルが見たこともない大きさの木や不思議な花なんかが見られるぞ」
「そう、それは楽しみね……」
彼女は鉄道が緩やかなカーブに差し掛かるとその度に不安そうな顔をしながら、それでもレールが奏でる一定のリズムに揺られすやすやと眠ってしまった。
『レオ様! 異常なしでござる! にんにん!』
インカム型まで小型化された通信機には定期的にサツキからの報告が入る。
「サツキ、お前どこにいるんだ? 保安局の兵士が乗る方の客室か?」
一等車には私とエルシャ、そして軽食などを言いつけるメイドが隅に一人しか乗っていない。
『いや、機関車の“上”でござるよ!』
「……危ないから降りろ」
『えぇー! ここが一番見晴らしがいいのに! ……サツキはここから落っこちるほどどん臭くないでござるよ?』
「……好きにしろ」
盗賊なんかは事前に保安局が排除しているし、爆弾が線路に仕掛けられたりしていないかも情報局が調査済みだ。
せいぜい野生動物が線路に出てこないかの確認ぐらいしか仕事はないように思えるが、サツキも張り切っているので全て任せよう。
『ああー! レオ様!』
「どうした!?」
『十時の方向に虹でござるよ!』
「……そうだな」
『いやー、綺麗でござるなぁ!』
少なくともこの旅は退屈することはなさそうだった。
その考えの元私はエルシャを連れて旅行に出掛けることにした。いつまでも皇都に押し込められているのは人間的な生活ではない。
「悪いな孔明。留守は頼んだぞ」
「はい、お任せ下さい。一路平安にございます」
「それから団長、アルド、世話になる」
私の身の回りの安全を守るとなれば保安局と情報局が動くことになる。
「歳三さんが任務を放棄して戻ってこようとするほど心配してましたよ……」
「私ももう子供ではない。歳三に心配無用だと団長からも伝えてくれ」
「はい」
私の元まで届く報告書を見る限り、大戦後の大陸における治安自体は極めて良好だ。
それもこれも彼らの努力のおかげなのだが、戦争が終わって三ヶ月も経てば復興も進み戦後の混乱や反乱の風潮も治まっているだろう。
「レオ様、私は局長として全体の司令塔となりますのでお傍にお仕えすることができません。代わりにこちらの者を──」
そう言ってアルドに紹介されたのは一人の妖狐族の娘であった。しかしその背格好というのがまた奇妙なもので……
「初めましてレオ様! サツキでござる! にんにん!」
着物っぽい何かを切り貼りして忍者っぽい衣装に仕立て、背中には中くらいの大きさの刀を背負っている。
忍者のように隠密性があるのかと問われれば、黒地ではあるもののピンクや赤の花柄で彩られている服や簪などは目立つし、何より本人に忍ぶつもりが全く見られない。
「あの……、こう見えて彼女はウチでも指折りの諜報員です……。歳三さん仕込みの戦闘能力と私にも劣らない幻影魔法の使い手であり、レオ様のご安全は必ずお守りします」
「その通りでござる! にんにん!」
この喋り方といい服装といい、歳三から聞いた日本像が歪んで伝わっているようだ。まあ腕が確かならなんでもいいのだが。
「分かったアルド。お前の言葉は常に信じている。……よろしくサツキ」
「にん!」
そんなこんなで、私たちは保安局の護衛及び情報局の監視の元、旅行に行けることとなったのだった。
「──では出してくれ」
「は!」
私はせっかくなので機関車に乗りたいと要望し、こうして一等車に乗っている。
私の指示でゆっくりと動き出した機関車は、黒煙を吐きながらレールの上をガタンゴトンと進んで行った。
戦前に存在した線路は帝国と亜人・獣人の国々を結ぶ一本だけであったが、大陸全土の資源と労働力を使えるようになった今、路線は拡大を続け王国と協商連合にも一本ずつ、帝国内には複数の線路が引かれた。
「こ、これ速すぎじゃない!? こんな鉄の塊がこんな速さで動いたら死んでしまうわ!」
「大丈夫だ。安全実証はされているし、今まで何度も無事に運行している」
そう言ったがエルシャは初めて乗る機関車に酷く怯え、私の手を握る彼女の震える手は驚くほど冷たかった。
エルシャは速いと言うが、ルーデルの目測によると実際は80~100km/hで走っているらしい。
元の世界の特急と変わらないぐらいであり、新幹線などに比べたら遅すぎるほどだ。ルーデルやハオランの背中の方がよっぽど怖かった。
だが普通の機関車に比べたら速いのかもしれない。
石炭に魔石を混ぜた特殊な燃料を使っているし、車体も鉄とミスリルだかなんだかの合金で強度はそのままに軽量化されているとのことだ。
「ほら、窓の外を見てみろ。いい景色だ」
機関車は皇都を出て亜人・獣人の国方面へと進んでいる。
よって今見えているのは皇都からエアネストにかけての街道とその周辺の街並みである。
「……意外とこの辺まで発展しているのね」
エルシャも私にしがみつきながら、窓の外を流れる景色に目を向けていた。
「首都の近くはすぐに開発されるさ。それに沿線上はこれから物資のやり取りが簡単になる。皇都や帝国はもっと大きな街になるな」
「そう……。でもあんまり人ばっかりだと疲れるから、たまには自然の中でゆっくりしたいわ」
「そう言えば君は皇城の庭を散歩するのが好きだったな。これからまずエルフの森に向かうから、エルが見たこともない大きさの木や不思議な花なんかが見られるぞ」
「そう、それは楽しみね……」
彼女は鉄道が緩やかなカーブに差し掛かるとその度に不安そうな顔をしながら、それでもレールが奏でる一定のリズムに揺られすやすやと眠ってしまった。
『レオ様! 異常なしでござる! にんにん!』
インカム型まで小型化された通信機には定期的にサツキからの報告が入る。
「サツキ、お前どこにいるんだ? 保安局の兵士が乗る方の客室か?」
一等車には私とエルシャ、そして軽食などを言いつけるメイドが隅に一人しか乗っていない。
『いや、機関車の“上”でござるよ!』
「……危ないから降りろ」
『えぇー! ここが一番見晴らしがいいのに! ……サツキはここから落っこちるほどどん臭くないでござるよ?』
「……好きにしろ」
盗賊なんかは事前に保安局が排除しているし、爆弾が線路に仕掛けられたりしていないかも情報局が調査済みだ。
せいぜい野生動物が線路に出てこないかの確認ぐらいしか仕事はないように思えるが、サツキも張り切っているので全て任せよう。
『ああー! レオ様!』
「どうした!?」
『十時の方向に虹でござるよ!』
「……そうだな」
『いやー、綺麗でござるなぁ!』
少なくともこの旅は退屈することはなさそうだった。
22
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる