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第三章
206話 出向
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冬は平和なものだ。地域差はあれど雪の積もるこの大陸では冬には戦争はほぼ不可能であり、寒いと魔物やモンスターたちの活動も収まり魔王領からの侵攻もない。
その間私たちは内政に集中することができた。
魔王領調査は先の皇帝から北鎮将軍の地位を与えられた父に依頼した。
身内だからと安全な内地に置くのではなく、敢えて危険な魔王領に行ってもらうことで周囲への政治的なアピールになる。
教科書製作に当たって必要とされた印刷機が完成した。
これは私の書いた本を量産し各地に出版するのにも役立った。これでより効率的な農業を広め、税収のアップを目指す。
税収と言えば、帝国内では最近偽造通貨が出回り対応に追われた。
だがこれを機に国立銀行を設立。新しい通貨を発行し金銀複本位制へ移行した。それまでの通貨は額面ではなく金や銀の配合割合のみで換算し、新通貨へと交換対応を行った。
銀行は積極的に融資を行い、産業・経済の発展を促す。
そして産業について。
ついに蒸気機関が完成した。魔石と石炭を両用し、より効率的な仕事ができる蒸気機関は、これから帝国中に広まり産業革命を成すだろう。
帝国は群を抜いて時代を一歩先取りしているのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
やがて季節は巡り、春。
真っ先に動き出したのはアキードであった。
「──レオ、アキード協商連合から招待状が届いています。王国の代表を交えた会合に出席して欲しい、だとか」
「ほう……」
結局あの時話した独立保障の国際条約は成立しなかった。
エルシャの提案した折衷案も、後からアキードに送った外交官がそれを完全に否定されて帰ってくるという始末で、私たちは落とし所を失ったままだった。
「まあ行くだけ行ってやろうじゃないか」
「危険ですよ。それに、一国の主を呼びつけるなどこちらを試しているのでしょう。端的に言えば、レオは舐められているのです」
「それは承知の上だ。だが私が直接出向くということ自体に意味はあるだろう。……そして、他の国にも行ってみたいという気持ちもある」
「ふふ……、そっちが本心でしょう? ですが、分かりました。それなら後はこちらで調整します。レオを安全に護衛できて、それでいて相手に拒否されない最低限度の兵数。こちらから持ち出す交渉の内容と、それの事前承認。更には国を空ける間の国家運営指針。……やることは山積みですね」
「孔明、私は気付いたのだが、実は私は忙しい方が好きみたいだ」
「それは奇遇ですね。私も多事多端には燃える性です」
広い書斎で二人、クックックと笑いあった。
向こうは余裕を持って連絡するということを知らない。……いや、敢えて出れるか出れないかのギリギリを設定しているのだろう。
一ヶ月後に設定された会合に向け、私たちは連日打ち合わせを行った。
しかし皇都から向こうの指定する会合の場までは二十日はかかる。
絶対に遅れてはならない。そんなくだらない理由で我が国に不利な内容の条約を結ばされたらたまったもんじゃない。
一週間全てを打ち合わせに費やし、三日余裕を持たせた出発の日はすぐにやってきた。
馬車の中でも、最悪通信機を使えばいつでもどこでも打ち合わせはできる。
「それじゃあ行ってくるよ、エル」
「大丈夫だと信じているけれど、気をつけてね」
「君もな」
「大丈夫よ。ほとんどの軍は残っているし、大砲も沢山あるんでしょう?」
「まあそうなんだけどな」
戦場へ持っていく牽引式の大砲は重量制限が厳しい。逆に言えば固定砲台なら地盤が沈下するまでというほぼ制限なしに巨大化させることができる。
かの真珠湾も50口径の16インチ砲、つまり銃身20mから直径41cmの砲弾を発射する化け物で固められた当時最強の要塞であった。その総重量は約13tにものぼる。
流石に私たちの技術力ではそこまではいかないが、とは言え皇都は40口径の20cm砲、つまり8mの銃身から直径20cmの砲弾を発射する、この国最大の砲門を32門、皇都を囲うように32方位に配備した。総重量は約2tである。
ちなみにここも技術力不足が祟り前装式であるためリロードの際は毎回砲を地面まで下ろして、前から弾や火薬を詰めなければならなかった。よって連射速度はお察しの通りだ。
こうした事情もあり多少の不安は残るが、まあそもそも火薬自体扱えない他の貴族たちにとっては十分な脅威であり、反乱など起こす気にはならないだろう。
私はそうした思案を巡らせた後、全て忘れるようにそっとエルと口付けを交わした。
「じゃあ孔明、私が空けている間、国のことは頼んだぞ」
「はい、確かに」
私は御璽を孔明に手渡す。
往復とどれだけ掛かるか分からない会合を合わせると、二ヶ月近く国を空けることになる。流石にその間、国の全てが停止するのは論外だ。
皇帝の印と共に内務大臣である孔明に全権を委任し、私が戻るまでの全てを任せることとした。
「では行くぞ」
「おう」
「ああ」
「は!」
「はい!」
アキードへ連れていく兵力は一万を切るというかなり攻めた決断をした。その内訳は、
全体指揮ナポレオン。
空からの警戒にルーデルとハオラン率いる竜人100。
身辺警護として団長率いる近衛騎士団100。
主力部隊として歳三率いる陸軍5000。
そして今回の目玉である、タリオ率いる魔導銃500。
試作された威力の低い方を順当に強化し制式一号魔導銃とした。
有効射程は50~100m程であり弓より劣るがその分威力は高い。至近距離なら金属製のプレートアーマーを貫徹できる威力に調整してある。
「アキードに向け、出発だ!」
その間私たちは内政に集中することができた。
魔王領調査は先の皇帝から北鎮将軍の地位を与えられた父に依頼した。
身内だからと安全な内地に置くのではなく、敢えて危険な魔王領に行ってもらうことで周囲への政治的なアピールになる。
教科書製作に当たって必要とされた印刷機が完成した。
これは私の書いた本を量産し各地に出版するのにも役立った。これでより効率的な農業を広め、税収のアップを目指す。
税収と言えば、帝国内では最近偽造通貨が出回り対応に追われた。
だがこれを機に国立銀行を設立。新しい通貨を発行し金銀複本位制へ移行した。それまでの通貨は額面ではなく金や銀の配合割合のみで換算し、新通貨へと交換対応を行った。
銀行は積極的に融資を行い、産業・経済の発展を促す。
そして産業について。
ついに蒸気機関が完成した。魔石と石炭を両用し、より効率的な仕事ができる蒸気機関は、これから帝国中に広まり産業革命を成すだろう。
帝国は群を抜いて時代を一歩先取りしているのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
やがて季節は巡り、春。
真っ先に動き出したのはアキードであった。
「──レオ、アキード協商連合から招待状が届いています。王国の代表を交えた会合に出席して欲しい、だとか」
「ほう……」
結局あの時話した独立保障の国際条約は成立しなかった。
エルシャの提案した折衷案も、後からアキードに送った外交官がそれを完全に否定されて帰ってくるという始末で、私たちは落とし所を失ったままだった。
「まあ行くだけ行ってやろうじゃないか」
「危険ですよ。それに、一国の主を呼びつけるなどこちらを試しているのでしょう。端的に言えば、レオは舐められているのです」
「それは承知の上だ。だが私が直接出向くということ自体に意味はあるだろう。……そして、他の国にも行ってみたいという気持ちもある」
「ふふ……、そっちが本心でしょう? ですが、分かりました。それなら後はこちらで調整します。レオを安全に護衛できて、それでいて相手に拒否されない最低限度の兵数。こちらから持ち出す交渉の内容と、それの事前承認。更には国を空ける間の国家運営指針。……やることは山積みですね」
「孔明、私は気付いたのだが、実は私は忙しい方が好きみたいだ」
「それは奇遇ですね。私も多事多端には燃える性です」
広い書斎で二人、クックックと笑いあった。
向こうは余裕を持って連絡するということを知らない。……いや、敢えて出れるか出れないかのギリギリを設定しているのだろう。
一ヶ月後に設定された会合に向け、私たちは連日打ち合わせを行った。
しかし皇都から向こうの指定する会合の場までは二十日はかかる。
絶対に遅れてはならない。そんなくだらない理由で我が国に不利な内容の条約を結ばされたらたまったもんじゃない。
一週間全てを打ち合わせに費やし、三日余裕を持たせた出発の日はすぐにやってきた。
馬車の中でも、最悪通信機を使えばいつでもどこでも打ち合わせはできる。
「それじゃあ行ってくるよ、エル」
「大丈夫だと信じているけれど、気をつけてね」
「君もな」
「大丈夫よ。ほとんどの軍は残っているし、大砲も沢山あるんでしょう?」
「まあそうなんだけどな」
戦場へ持っていく牽引式の大砲は重量制限が厳しい。逆に言えば固定砲台なら地盤が沈下するまでというほぼ制限なしに巨大化させることができる。
かの真珠湾も50口径の16インチ砲、つまり銃身20mから直径41cmの砲弾を発射する化け物で固められた当時最強の要塞であった。その総重量は約13tにものぼる。
流石に私たちの技術力ではそこまではいかないが、とは言え皇都は40口径の20cm砲、つまり8mの銃身から直径20cmの砲弾を発射する、この国最大の砲門を32門、皇都を囲うように32方位に配備した。総重量は約2tである。
ちなみにここも技術力不足が祟り前装式であるためリロードの際は毎回砲を地面まで下ろして、前から弾や火薬を詰めなければならなかった。よって連射速度はお察しの通りだ。
こうした事情もあり多少の不安は残るが、まあそもそも火薬自体扱えない他の貴族たちにとっては十分な脅威であり、反乱など起こす気にはならないだろう。
私はそうした思案を巡らせた後、全て忘れるようにそっとエルと口付けを交わした。
「じゃあ孔明、私が空けている間、国のことは頼んだぞ」
「はい、確かに」
私は御璽を孔明に手渡す。
往復とどれだけ掛かるか分からない会合を合わせると、二ヶ月近く国を空けることになる。流石にその間、国の全てが停止するのは論外だ。
皇帝の印と共に内務大臣である孔明に全権を委任し、私が戻るまでの全てを任せることとした。
「では行くぞ」
「おう」
「ああ」
「は!」
「はい!」
アキードへ連れていく兵力は一万を切るというかなり攻めた決断をした。その内訳は、
全体指揮ナポレオン。
空からの警戒にルーデルとハオラン率いる竜人100。
身辺警護として団長率いる近衛騎士団100。
主力部隊として歳三率いる陸軍5000。
そして今回の目玉である、タリオ率いる魔導銃500。
試作された威力の低い方を順当に強化し制式一号魔導銃とした。
有効射程は50~100m程であり弓より劣るがその分威力は高い。至近距離なら金属製のプレートアーマーを貫徹できる威力に調整してある。
「アキードに向け、出発だ!」
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