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第三章

201話 国家改革

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「……では次。航空交通運輸局局長、ハオラン=リューシェン。緊急時の移動や輸送、及び航空からの地図作成などを任せる」

「盟友の為、この竜の翼を授けよう」

 正直わざわざ局を作ってまでやる仕事ではない。だが他の種族には位を与えて仕事をしてもらうのに、竜人にだけ頼まないのでは彼らのプライドが傷つけられる。
 そうした多少の配慮もありつつ、しかしこれで未だ竜の谷に住む人間との生活に興味がない竜人たちもハオランの権限で動員できるらしいのでメリットもある。
 ハオランが勝手に地方領地に移り住み何人か連れて一緒に働くのと、国として竜人に役職を与えるのでは向こうの竜人たちへの心象が大きく違うとの事だ。

「……では次。森林環境局局長、シャルフ=バルデマー。森林の管理や林業など、環境保護に木材生産などの適切な運用を頼んだ」

「森は我らエルフの誇りにかけて守り抜く」

 エルフの森に生い茂る巨大樹は、あれ一本で十軒は家が建つほど大量に丈夫な木材を生み出す。
 また広大な帝国の領土の至る所にある手付かずの森林は、エルフたちの知恵と技術によって宝の山へと姿を変えるだろう。

「……では次。水産管理局局長、アイデクス。帝国は湖や川しかないが亜人・獣人諸国では漁業も本格的に行えるだろう。妖狐族との約束を果たすべく遠洋を目指す船の開発も進めている。漁業のこれからを任せる」

「私などを取り立てて下さりこの上ない光栄です。全力で臨ませていただきます」

 しかし船の開発は文字通り難航を極めている。手漕ぎではどう頑張っても二つの月から生み出される複雑な潮流から逃れることができない。
 研究開発局による蒸気機関の発明が待たれるところだ。

「……では次。害獣魔獣対策局局長。リカード=ティーゲル、ヴォルフ=アードルフ両名。主に森林に生息する脅威に対する対策を任せる。基本は機動力に優れる人狼族が、人狼で対処できない強大な魔獣などには人虎族が対処に当たってくれ」

「……分かった」
「……了解した……」

 モンスターや魔獣に対応する兵を削減できれば、それだけ別のところに予算を回せる。
 彼らは元から森に住む者たちで、魔獣やらへの対処も人間の数倍は長けている。

「……以上だ。これよりこのメンバーでこの国を運営していく。各機関は独立した組織でありながら綿密な協力を要する。万が一トラブルがあれば孔明か私に知らせてくれ。──では最後に全員の署名を持って内閣の組閣を完了とする」

 後ろに控えていた文官が孔明に薄い冊子を渡した。革張りの表紙を開くと、中は見開きで白紙のページが広がっている。

 孔明から順にそこへペンで名前を記していく。
 ある者は震える手で、ある者は満足そうな表情で署名をする。

 一周して私にまで回ってきた冊子には、それぞれの国、種族の文字でずらっと名前が並んでいた。
 私はそれを指でなぞりしっかり確かめた後、両ページにまたがるように一番上の所へ、レオ=フォン=プロメリトスと書き記す。そして皇帝の印をその横に捺印した。

「……よし、これで終わりだ。今この時をもって諸君らは帝国の官僚である。気を引き締めて公務に当たってくれ」

「「おう!」」
「「はい」」
「「は!」」
「「了解しました!」」
「「……了解」」

 任命式もなく、彼らは次々に立ち上がり各自の仕事場へと向かった。






 そして広い会合スペースには私と孔明、そしてナポレオンと数名の文官だけが残された。

「……次は憲法の制定だ。ナポレオン」

「ああ、これだ」

 私の前に分厚い一冊の本が置かれる。
 憲法は私の朧気な記憶から日本国憲法を引っ張り出し、それとナポレオン法典を掛け合わせ、最終的に孔明に調整してもらったのがこの帝国憲法である。

 またその二つ以外から私たちが独自に作った重要な所を挙げると、それは議会制度についてだ。

 まず形骸化した元老院は解体した。権力者の老人連中が騒いでいたが、後ろ盾の中央貴族が力を失いろくな反抗もできなかった。

 その代わりに選挙を行い一般市民による議会の設立を目指す。しかし急には無理なので、十年後に選挙を行うこととした。それまでに教育を拡充する狙いだ。

 そして議会は二院制。市民たちによる下院とは別に、全貴族による上院も設立する。
 上院は選挙がない世襲議員による議会となるため、下院の優位性が認められる。これはイギリスの貴族院と庶民院とちょうど同じようなものだ。

 そしてここがポイントだが、先程述べたように十年間は市民による下院が開けない。その間は我々内閣が下院の代わりとして立法などを行う。
 つまり十年間は私たちが好きにできるという訳だ。元は永久的にそうしていたが、いずれは民主化も果たしたいという願いからこの様な形をとった。

 そしてもうひとつ大きな変更点。それは皇帝の罷免。無血革命条項である。
 下院・上院の両院で2/3以上の賛成、そして内閣で丞相含む過半数の賛成があった場合、皇帝が反対したとしても皇位の剥奪が可能になる。

 難易度はかなり高いだろう。しかし軍事力による政変よりはまだ現実的に見える。
 皇帝としても、貴族と市民両方に対して誠実な政治を行わなければならない。そして身内の内閣にも見捨てられないように立ち回らなければならない。

 皇帝が自らの行動を制限するこの憲法を、自分から承認するという行為。これは今後数百年の帝国史を左右する、大きな一歩であろう。
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