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第三章

197話 信仰者

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「次はあちらに、ファルンホストからの使者です。……先程は見事な立ち回りでしたよレオ。次も油断せず臨みましょう」

 危険度で言えば帝国にとって長年の宿敵であるファルンホスト王国の方が余程怖い。
 新兵器はあるとはいえ帝国内で争い兵力を大きく落とした現在の帝国では、今攻められたら勝てる確証はない。せめてナポレオンによる軍備再編が終わるまでは今の同盟関係を維持し続けなければならない。

「……ああ」

 私は重たい足取りで純白の法衣に身を包んだ白髪の老人の元へ向かった。

「ご機嫌いかがでしょうか。本日は遠くからお越し頂きありがとうございます」

「おお、これは皇帝陛下に皇后陛下。結構な料理を頂き光栄であります。……改めましてわたくし、ファルンホスト王国の使者として参りましたプリスタと申します。以後よろしくお願いします」

 柔らかな物腰でそう頭を下げたプリスタは胸に下げた十字架のペンダントを握りしめた。

「どうか両陛下に神の御加護があらんことを……」

「これはどうも……」

 彼らの宗教のしきたりはよく分からないがとりあえず会釈だけしといた。

「おや、帝国では無神教が主流ではありませんでしたかな?」

「私自身はこの世界のどの宗教も信仰していません。そしてこれからの私の国では宗教の自由を認めるので、どのような宗教に対しても敬意を持って接しますよ」

 歴史上、王国と帝国では宗教戦争じみたこともやっていた。よって帝国内でも、王国の国家宗教である聖教の神を否定するという宗教が国家宗教というなんとも敵対心丸出しの状態だった。
 しかしそれでは無駄な争いを招くだけだ。

 帝国法の参考にしようと思っているナポレオン法典では信教の自由を認めている。これからは帝国にどのような考えを持つ人間であってもいていいのだ。

 そもそも龍を崇めている竜人族、木の精霊を守護するという教えを守っているエルフ、そうした人々と共に生きていくためには国が宗教の縛りを設けるのは良くない。
 宗教勢力との癒着など、不健全な部分は正していく必要もある。

「そうですか。それは大変宜しいことかと思います。つまりこれからはわたくしどもの聖教を布教しても良いということでしょうか?」

「もちろん、帝国内の法律に違反しない限りはご自由にどうぞ。ただしトラブルなどが起きた場合は厳粛に対応させて頂きますのでご注意下さい」

「それはそれは……。新たな皇帝陛下は寛大な御心の持ち主だと、王国にも伝えましょう」

 プリスタは深いシワの刻まれた両手で私の手を握り、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。私としても王国とは過去の遺恨を消し、友好関係を築きたいと思っています。是非、対魔王同盟の延長についてもお考え頂けませんか?」

 本題を切り出すタイミングは今しかないと思った。

「確かに友好関係は大切です。ですが現状、魔王領の魔物たちの活動はほとんどない。対魔王という形は既に時代遅れなのです」

 魔王という言葉を出すとプリスタの表情が一変した。
 王国の、特に聖教の教えでは魔族のことが厳しく批判されており、口に出すのも憚る程の禁忌となっているのだ。魔王領に踏み込んで調査など彼らにはもってのほかだろう。

「いえ、どのような事態にも備えるための同盟です。そのような油断は危険だ」

「そうでしょうか。魔物を言い訳に軍備を拡大した帝国の姿を何度も見ましたので、わたくしは信じられません。新たな同盟の形、軍縮、これはセットです」

 最終的に軍備を縮小するのというのは私も同じ願いだ。しかしそれは今すぐやるべき事じゃない。王国やアキード、不穏な空気が漂う魔王領の脅威に、むざむざと帝国民を晒す訳にはいかない。

「私が望むのは平和な世界、ただそれだけです。そしてその平和には、人智を超えた脅威である魔王領の存在が道を阻んでいます。なので魔王領調査のための軍事力は必要だと私は考えます」

「やはり信じられませんね。残念ですがわたくしの目には陛下は今までの帝国皇帝と同じように映ります」

 プリスタの言い分もよく分かる。
 常に帝国と戦争をしてきた王国としては、そんな因縁の相手の都合のいい言葉を簡単には信じられないだろう。

 だからこそ、私は策を用意してきている。

「……これは私たちだけで解決できる問題ではありません。この大陸全体の平和に関わることです。──孔明、ディプロマ殿をお連れしろ」

「はい、ただ今」
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