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第三章

191話 英雄か、暴君か

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 終戦宣言の翌日、私は自室とした宿の大部屋で書類を眺めていた。
 皇都に侵入を許したことにより大人しく降伏してくれたが、それでも帝国全体で見れば目を覆いたくなるほどの被害規模であった。
 地盤が大陸の覇者とも呼べるほど強い帝国であったから耐えられたものの、正直に言ってここまで国が弱ってしまってはファルンホスト王国やアキード自由協商連合からの政治的圧力を受けることは間違いない。

「どうしたらいいと思う、歳三……?」

「おいおい、そんな暗い顔すんな! そっちはそんなに大変だったのか?」

 無事に降伏した敵軍を連れて戻ってきた、歳三から聞かされた向こうの戦況の推移は見事なものだった。
 西洋での本格的な砲術を学んでいた歳三は五稜郭よろしく簡易的な砲撃陣地を築き、被害をほぼゼロに抑え敵軍を完封していたらしい。
 実際歳三の部隊に疲れの様子はなく、歳三自身もとても元気であった。

「まァ、お前には“それ”があるだろ?」

「その事だ……」

 歳三に指さされ、私は袖を捲りブレスレットを眺める。そこには大量の命が奪われたこの戦いで大量の魔力を吸い取り、煌々と輝く「暴食龍の邪眼」があった。
 母から貰い大切にしていたこの魔石付きブレスレットも、ハオランにその正体を聞かされてからは若干の忌々しさがまとわりついていた。

「次の英雄はどうすべきか……」

「まだ見当もつかないって感じか?」

「いや、その逆だ。この状況で私の頭にはたった一人しか浮かばない。……しかしその人物は評価が二分される上に、私の言葉に応じてくれるかも分からない」

「あァ……、お前の力は俺たち過去の英雄に会えるだけ。そこから先は自力で何とかしねェといけねェからな。まあ、今日一日ゆっくり考えたらどうだ?休みになっているんだろ?」

「ああ、孔明に休めと言われたからな……。しかし、私如きでは彼を制御する術があるとは思えないな……」

 下手したらルーデル以上に制御が難しくなるかもしれない。そんな人物なのだ。

「……そういえばルーデルはどうなったんだ?」

「俺は知らねェぞ? そっちについて行っただろ?」

「そうなんだが実はこっちではだな────」

 その後、軍服が焼け焦げ全裸でボロボロになりながら、自軍のいた方へ泥の中を匍匐前進している男がいるとの通報があったのは半日後のことだった……。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




一晩中考えた末に、結局孔明に相談することにした。孔明ならいつでも私に正しい答えを与えてくれると信じている。

「……孔明、少しいいか?」

「おや、どうされました?」

「いや、少しな……」

 宿屋の一番広い部屋は会議室となっており、役人連中が詰めかけ大騒ぎである。
 孔明はその隣の部屋を自室とし、大量の書類に目を通し適切な処理業務に当たっていた。

「……まずは私たちの現状を教えてくれ」

「そいつは俺も気になるな。戻ってきたのはついさっきだからよ」

 同じ召喚された身である孔明には何となく相談しずらく思い、変な切り出し方をしてしまった。そんな様子を察してか歳三が上手くフォローしてくれた。

「そうですね……。まず、ファリア、ウィルフリード、リーン、エアネストは全ての軍を自領へ撤退させました。これは私たちが自ら一番に軍を引くことで、他の地方貴族たちにもこれ以上の攻撃や占領を止め軍を引くように示すためです。……一部例外もありますが、大々的にはそうしています」

 ウィルフリードからはアルドたち諜報部が皇都に残された。
 元から中央での諜報活動に当たっていたため、戦後の調査でも役に立ってくれている。

 ファリアからは、まず私たちが残った。私、エルシャ、歳三、孔明、あとルーデル。但し兵はタリオに任せてファリアに帰還させた。
 団長はこちらに残り、近衛騎士団の立て直しを任せた。
 その他亜人・獣人たちはこれ以上共闘を頼む理由もないので解散としたが、ハオランは私の監視があるため竜人たちも皇都に残っている。何やらあの戦いでワイバーン竜騎兵に興味を示しているようで、まあ自由にやらせている。

「──それで、本題はそれではないのでしょう?」

「……ああ。次の『英雄召喚』について、相談したい」

「ほう、レオを悩ませるほどの人物ですか……。是非詳しくお聞かせください……」

 私はある英雄の名前を口にした。そして彼の成し遂げた偉業、その功罪を孔明と歳三に話した。
 そしてそうした結果、世界はどうなったか、彼はどのような最期を遂げたのかを……。

「……成程。それでは私の方でも『神算鬼謀』を用いてその人物について見てみましょう」

 孔明のスキルである『神算鬼謀』は便利なものだ。私の知る全ての戦争についての詳細を実際に覗くことができる。
 実際、孔明の生きた時代に大砲などないが、勝利の決定打となった突撃を援護する突撃支援射撃のタイミングなどは完璧だった。

 五分程経っただろうか。戦争映画を飛ばし見したような状態だろうが、孔明は何か掴んだものがあったような顔をして目を開けた。

「彼が生きた時代はまさに烽火連天ほうかれんてん……。この忙しい時には見切れない程の戦争があったのですね。レオが彼を呼ぶことに躊躇する理由が分かりました。……ですが大丈夫でしょう。レオには私たちがついています。彼が暴走することないよう、しっかりと手網を握りましょう」

「まァ、なんだかよく分からねェが、もしものことがあれば俺がきっちりソイツを殺す。これで心配はなくなったか?」

 歳三と孔明の手厚いサポートがあれば大丈夫。私もそう思う。
 だが結局は私自身が彼に何を話し、何を頼むかによるのだ。

「……もしこの英雄召喚が失敗しても、お前たちならこの国をなんとかしてくれると信じているぞ」

 私は胸につっかえた一抹の不安からそう弱気な言葉を残し、宿屋の裏庭へ向かった。
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