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第三章

182話 皇都へ

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「レオ、遂にエアネストと合流できたようです。ウィルフリードが先鋒、エアネストが中堅、ウィルフリードが大将、リーンが西方及び後方警戒として皇都へ進軍を再開しようかと思います」

 歳三を見送り再び寝ていると、向こうでの話し合いが終わったのか今度は孔明がやってきた。

「分かった」

「それで、皇女殿下はウィルフリードと共に行くのがよろしいでしょう。微妙な立場のイレリヴァントが守るトーアよりも安全でしょうし、何より皇女殿下の持つ皇族の御旗を我々が掲げて皇都に向かうことは強烈な政治的メッセージとなるでしょう」

 正統性がこちらにあると示す。それがこの戦いの後に最も重要になることだ。

「エルシャを呼び寄せる間に、ウィルフリードらを含めた全体での再編成を任せる」

「了解致しました」

 それから孔明は袖から紙と筆を取り出し何かメモを取りながら去っていった。
 私もそろそろ寝ている場合ではなさそうだ。戦況が動き出すのなら、私も同じく動き出さなければいけない。

 服と髪を整え外に出るとタリオが私を待っていた。

「レオ様、こちら装備です」

「うん」

 いつもの鎧と、私の刀の代わりに皇帝から賜った宝剣を渡された。これも政治的なアピールになるからだろう。

「ファリア軍の所まで戻ろうか」

「はい」







 歳三にいくらか引き抜かれたファリア軍を視察していると、右の方から大軍がやって来た。

「来たな」

 事前に連絡を取っている分、速やかに陣形を展開することができた。
 ウィルフリード、エアネスト、ファリア、リーンを合わせた我々は五万弱。正面の敵は少しずつ撤退しているため正確には分からないが七万以下。正面切ってぶつかるのに十分な兵力が揃った。

「やあ、元気だったかな」

「エアネスト公爵!」

 護衛を伴ってやって来た鎧姿のエアネスト公爵。多少の疲れの色は見えるが精悍な彼の顔はとても頼もしく見えた。

「五万で援軍に行くと行ったが四万まで減ってしまった。申し訳ない」

「いえ、そこまで兵を失ってでも救援に来てくれたこと、感謝します」

「私がここまでしたんだ。必ず勝つぞ」

「はい……!」

 そう言いながら私の胸を叩き笑みを見せた後、彼はエアネスト軍の方へ戻って行った。

「──さてタリオ、始めようか」

「はい! こちらをどうぞ」

 私は魔導拡声器を受け取る。そして全軍に対し、進軍開始の号令を掛けた。

「総員、皇都へ向け進軍開始! 我らの行く手を阻むものは誰であれ打ち破れ!」

「「ウオォォー!!!」」

 号令に合わせて、まるで進軍開始の合図であるかのように魔装カノン砲による一斉射撃が行われた。






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 攻撃は至って順調であった。
 私たちが近づけば続々と撤退を始める敵軍の姿はとんだ肩透かしを食らった思いだ。初めは圧倒的な数の暴力で包囲を目論んでいた彼らが私たちの新兵器でここまで落ちるとは。それだけ時代をいくつも飛ばしたようなこの技術に価値があるという意味でもあるのだろう。

 殿しんがりに残された不運な敵も、指揮官をほとんど爆撃と砲撃で失っている上、生き残っている優秀な人材も既に皇都に引き揚げていたのだろう。
 私たちの皇都への道程は、ほとんど捨て石のように使われている雑兵を蹴散らしながら真っ直ぐ進むだけだった。腐っても大陸で名高い強さのはずである帝国軍なだけに、無駄にこれだけの損失を出していることが惜しまれた。

 しかし明らかに手応えは感じなかった。偵察情報を併せて考えると、敵は皇都の手前で最終決戦の準備をしているようである。

「レオ様、お知らせします。西方に残されていた敵軍でありますが、ファリア第二軍と援軍に来たホルニッセ軍により釘付けに。また近隣都市から冒険者や傭兵も集まり、敵軍の退路は完全に絶たれたとの事です」

「民たちもこの戦いの勝者に気が付き始めたか……。いいだろう。その期待に応えようではないか」

 ホルニッセ侯爵も良くやってくれている。少ない兵数ながらここまで活躍しているのは目を見張るものがあると評価せざるを得ない。
 私が無事に皇位を奪還した暁には彼にワンランク上の公爵を与えよう。

「まずは彼らに労いの言葉を送ろう。それと下手に手を出さないように伝えてくれ。数に物を言わせ反転攻勢に出られればいくら強力な兵器を持っていたとしても痛手を被るのは間違いないからな。……私も敵に降伏勧告を一筆したためよう」

 戦場で最も恐ろしいのは死兵である。生還の望みを捨て死に物狂いで突撃してくる敵兵を止めることは難しい。

「――ではこれを歳三のところに持って行ってくれ」

「は! それでは失礼します!」

 名前と降伏勧告の題名だけ書き、中身は歳三に任せることにした。現場での細かい判断は任せた方が物事は円滑に進むものだ。

「……それにしても酷いなこれは」

「そうですね……。前方の部隊に片付けさせますか?」

「いや、余計な手間を掛けさせたくはない。ただ戦後の復興には力を注ごうと決意したよ……」

 砲撃によって抉られた地面と辺りに散らばる敵の死体は、今までで見た中で一番地獄と呼ぶに相応しい戦場の光景であった。
 火薬と草木が焦げる臭いと死臭に満ちた場所を抜けるのは、目に見えて士気の低下や進軍速度の低下を招いた。







 しかし、それでも進み続ければいずれは必ず辿り着く。

「──! レオ様! 見えますか!?」

「ああ。私の馬は皆のより大きいからな。はっきり見えているぞ……」

 私たちの行く手を阻む巨大な城壁と門。そして更に奥の山部にそびえ立つ真っ白に輝く皇城。

「……また来たぞ! 皇都!」
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