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第三章

180話 全面戦争

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「凄いですレオ様! 何もしてないのに三万の騎兵を蹴散らすなんて!」

「まともにぶつかれば我々も壊滅しかねない規模だったからな。だが連発もできない。ここぞという時のために温存する」

 強いとはいえ所詮は三十門だ。旧態依然とした密集陣形での攻撃に対しては有効だが散兵戦となれば面での制圧力が足りなくなる。
 だがこれを切り札として見せつけることで敵を恐怖に陥れ、次の一手を鈍らせることには十分なだけの働きを見せてくれた。

「直接刃をぶつけ合うような戦いは父上に任せる。私たちは別次元の戦いをしていくぞ」

 どちらかが必要でどちらかは不要、などということはない。互いを補い合うような戦術が大切である。

「ルーデル、ハオラン、そろそろ大雑把な敵の陣容が分かったか?」

『簡単に言う……。だが多少は読めてきた。敵のワイバーン竜騎兵もさっきの砲撃に驚いて退いて行ったから楽に見渡せるわ!』

 ハオランは嬉々としてそう報告する。少しでも勝機を見出すと調子に乗り、竜人は分かりやすい。

「それで、どんな様子なんだ」

『伏兵まで細かいところは見てられんが、左右に五万ずつ、正面に十万といったところだな』

 何も考えずともそれだけの数があれば、余裕で我々を包囲殲滅できる算段だったのだろう。なんなら騎兵だけでケリが着くはずだった。
 しかし現実は非常にも緒戦で大敗を喫した訳だ。これからどう動くかは分からない。

「左はホルニッセから、右はエアネストから援軍が来るはずだ。武器弾薬の類は節約し、まずは耐えることを優先しよう。防御陣地の設営も完了させろ」

 この勝利の美酒に酔いしれ安易に攻めるのではなく、作り出した優位を確実に活かして少しずつ数の不利を埋めていくべきだ。

「細かいことは孔明に任せる。私は各部隊を回り士気の掲揚に努めよう」





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「制空任務は完了したぞ……」

 多少疲れの色は見られるが、竜人たちは全員帰還した。
 やはりワイバーン竜騎兵相手に苦戦するほど竜人は弱くないし、竜騎兵も本格的な空戦に対する知識もなく戦いにはならなかったようだ。

「ご苦労だった。それで、偵察情報を共有してくれ」

「ああ。と言っても、敵は砲撃に怯え進軍を停止している。大方、大魔術でも使ったと思われているのだろう」

「単純に魔法戦力で比較すれば向こうの宮廷魔導師の方がよっぽど強いが……、我々は魔導師すらなしでこの攻撃だ。三十門斉射となれば伝説や神話の世界レベルの大魔術に映っただろうな」

 普通の魔法使いなら人一人吹き飛ばす程度の魔法を何度か使えば魔力切れになる。
 制式一号魔装カノン砲の一門による砲撃は、魔法使いの中でも指折りの実力者が集まる宮廷魔導師が、何人も集まって全ての魔力を消費してやっと出せる規模の爆発だ。

「だが俺らの秘密兵器もあと一つ……。これからどうする?」

「……結局私たちだけではどうしようもない。だからこその一斉蜂起だ。今は通信機で諸貴族と連絡を取り合い状況を確認している。誰か一人でも皇都に辿りつければいいからな」

 今の私は周囲の人間に頼ることに躊躇しない。そもそも『英雄召喚』の能力自体がそういうものだからでもある。
 そして、これからやろうとしていることは私一人では絶対に不可能なことだ。

「国をひっくり返すのも簡単ではないよ……」

 撃破したとはいえとんでもない数の敵兵を目視してから、私の気分は若干沈んでいた。

 しかしそんな私の元に、陰鬱な気分を晴らす報せが届いた。

「──レオ様! 通信部隊が手一杯なため伝令でお伝えします!」

「どうした? 何かあったのか?」

 孔明が私に連絡を寄越さないほど忙しくなっている事態。敵に動きが見られないことから最悪の事態ではないことが想像できた。

「は! エアネストが国有軍に援軍を出そうと分断した敵軍を各個撃破! 援軍五万が明日にはやって来るとのこと! そして北方の三貴族が皇都すぐ手前まで到達したようです!」

「やるな。こんなに早いとは」

「北方は魔王領警備のために膨大な兵数を有していたが、今はモンスター共の動きが鈍いみてェだからな。そのまんま全部反乱軍になれば流石の中央貴族でも対処しきれねェだろうぜ」

 エアネストは私たちの状況を直接変えてくれる。北方三貴族の動きは国有軍の動きを更に制限する。
 私の口角は自然と上がっていた。

「加えて度重なる説得により部分的に兵を貸してくれる地域も現れました! 我々の快進撃を受け中立を保っていた諸侯らも、続々とこちらへなびいてきております!」

「いい流れだな」

「は! 我々に直接関わる範囲で申し上げますと、イレリヴァントがトーア防衛に兵三千を貸すとのこと」

「守りはやるから私たちに攻めてこいと言っているのか……? まぁいいだろう。今はその思惑に乗ってやる。──勝機を逃すな! 今度はこちらから攻撃する番だ!」

 敵は通信機などないから私たちの動きを掴めていないだろう。情報が渡る前に機先を制するのだ。
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