英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
181 / 262
第三章

179話 戦場の女神

しおりを挟む
『──レオ、来たぞ!』

「早いな」

 トーア攻略から半日経たずに国有軍到来の知らせが入った。私たちはトーア北方で防衛陣地を構築している途中のことである。

『とんでもない数だぞ! 騎兵だけで三万はいる!』

 流石のハオランも興奮気味にそう話す。無線機越しに向こうでの困惑ぶりが伝わってきた。

「そのまま偵察を強行し敵の陣容を暴け」

『危険過ぎる! 例のワイバーン竜騎兵が五百は飛んでいるぞ!』

「ではまず制空戦闘だ。制空権確保を第一に動け」

『無理だ! こっちは五十もいないんだぞ!?』
『こちらも無理です。申し訳ありませんが帰還させて頂きます』
『……族長の指示に従う』

 ハオランだけでなくリーフェンとルーシャンからも抗議の通信が入る。

「……分かった。では竜人は皆戻っていい。……ルーデル、やれるな?」

『一つ言っておこう。俺は爆撃機乗りでありながら敵機を幾つも撃墜したエースパイロットだったと言うことをな』

「と、いうことだハオラン。竜人は戻って休んでいいぞ」

『ぐぬぬぬ……。──我ら誇り高き竜人が人間一人に任せ逃げるなどしないわ! 我々もいくぞリーフェン! ルーシャン!』

『正気ですか族長!?』

『……リーフェン、族長の指示に従え』

 対抗心を煽れば彼らが乗ってくることは読めていた。
 それにワイバーン竜騎兵と言えば聞こえは良いが、向こうは言葉の通じないモンスターをなんとか飼い慣らしただけであり、竜人が簡単に負ける筈もない。数だけの見掛け倒しだ。

「発破の掛け方が上手くなったなレオ」

「これから先、私に必要なのは人心掌握術だ」

「まァ、そうだな。皆お前のこと期待してるぜ? そうじゃねェと兵どももこれから十倍以上の敵に向かってくってのにあんな自信満々な顔してねェ」

 歳三にそう言われ辺りを見渡すと、敵軍襲来の知らせが聞こえてきた周りの兵士たちは取り乱すこともなく、皆落ち着いた表情で私の指示を待っていた。
 練度の高さだけでは片付けられない、私に対する強い信頼。これを裏切ることがないよう、私も全身全霊を捧げてこの戦いに挑まなければならない。

「諸君! 遂に奴らがやって来た! 奴らはこの戦いの勝者は我々の他にない!」

 私の声に気が付き、見渡す限りの我が軍の兵が私の言葉を固唾を飲んで見守っていた。

「正義は我らにあり! 全軍、戦闘開始!!!」

 声の震えが悟られないよう、私は腹の底からそう大声で叫んだ。





『──レオ! 我らは依然戦闘であるが大体の敵の場所が分かったぞ!』

「よくやったハオラン。伝えてくれ」

『まず正面騎兵二万がそちらに突撃している! 防御陣地が完成する前に出端を挫くつもりだろう! 我々は制空戦闘を行っているためそちらに近接航空支援が行えない!』

「了解した。……ルーデル、一分後の敵騎兵隊進軍予測位置の座標を送れ」

『……2381.1536だ』

「孔明。三十秒後、2381.1536に砲撃を行え。砲兵隊による三十門全て斉射だ。繰り返す。2381.1536に三十門で支援砲撃を行え」

『了解致しました』

 悪いが出端を挫くのはこちらの方だ。

 開発陣ヘクセルとドワーフ、私に歳三、そしてそこにルーデルを加えて新開発された新兵器、制式一号魔装カノン砲。銃にするには威力の調節が難しいなら大砲を先に作ればいいじゃないか、という発送の元開発されたらこの兵器。
 火薬の力で撃ち出された直径88cmの砲弾には、爆弾と同様に火薬と魔石の破片が詰め込まれている。

 発展途上の技術力ではかのアハトアハトのような高精度、高威力は引き出せない。砲身寿命は僅か二十発程度であり、信頼性にも大きく欠ける。
 だがその中でもマシな三十門を集め、三百発の弾薬を用意した。これがどれだけ役に立つかはこれから目の当たりにする。

 無線連絡から間もなくして砲撃が開始された。

 ズドドドドドドドドドドン! という爆音が私たちの後方から鳴り響く。大地を揺るがし鼓膜をつんざくような轟音の後、頭上に弧を描く十本の光の筋が流れた。

「レオ様、もうこちらの望遠鏡で見える距離まで敵の騎兵隊が」

「ちょうどいいな」

 タリオから特注の望遠鏡を受け取り覗き込む。
 目を凝らすと魚鱗の陣形で土煙を上げながら突撃してくる大量の騎兵隊の様子が見えた。

「あの旗は……、先頭は近衛騎士団か……。申し訳ないな、君らに罪は無いが死んでもらう。──だんちゃーく……、いま」

 適当にそう呟いたその瞬間、ジャストタイミングで砲弾が敵騎兵隊に降り注ぐ。
 望遠鏡を覗き込む私の目が焼ける程の閃光が放たれた後、遅れて爆音と爆風がここまで届いた。

「こちらからは爆煙で確認できない……。弾着観測求む……」

『……敵に壊滅的な打撃を与えたと言える。十七発が敵部隊に直撃、内四発は隊列の中央に当たり指揮系統を喪失。部隊は混乱に陥り撤退……、というより四方に敗走を開始している』

 戦場を支配するが如く威力を発揮する砲兵。その圧倒的な強さから戦場の女神とまで呼ばれるそれは、この世界に置いても有用であることを彼らの死を以て証明したのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...