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第三章
175話 助太刀
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その後、将軍の男に戦闘をやめさせ、ベゾークト軍は一次捕虜として全員を拘束した。
これでも可能な限り素早く戦闘を終わらせたが、残念ながらベゾークト軍は半数以上が戦死していたようだ。後続の部隊も前線壊滅を聞き物資を放棄して逃げ出していた。
対する私たちは戦傷者は多少出したものの、被害はほとんどない。爆撃により混乱に陥った軍隊に重装歩兵による騎兵突撃を防ぐ術はなく、一方的な戦闘経過だったようだ。
対処不能な航空攻撃、指揮系統の素早い排除、通信機による緊密な連携。自軍の被害を抑えた圧倒的な勝利という、私の望みが完璧に実現されている。
「レオ様、ベゾークトの領主が街の宿などを貸してくれるそうです」
ベゾークト軍の兵士たちを送り届け、私たちも自陣に戻り後片付けをしている間、タリオが逐一情報を伝えてくれている。
「ほう、やけに親切だな」
「罠かも知れませんよ」
「さあ、どうかな……」
ベゾークトには残された兵がわずか二千程度。私たちはちょうどその十倍の兵力だ。一万八千の差はどうにかできる数ではない。
それにここまで絶望的な敗北を味わった彼らも、この戦争の行方がどうなるか、どちらにつくのが得になるか思い知ったことだろう。
「いずれにせよ、ベゾークトに泊まるのは兵士たちも気が休まらないでしょう。食料などの物資だけ貰い、少し進んだ所で野営がよろしいかと」
「まあそうだな。では孔明の言う通りにしよう。父やザスクリアにも伝えてくれ」
「了解しました!」
タリオは小走りで各方面と繋がる通信部隊の方へ去って行った。
「……それにしても、ベゾークトから敵対してるとは先が思いやられるな」
「後二つの領地を越えなきゃ皇都には着かねェ。だが中心に向かえば向かうほど人口も増えていくからな。敵の兵力もどんどん増していく」
「負けるとは思っていない。……だが今よりも戦いは面倒になり多くの人が傷つくことになる」
「仕方がありません。いつの時代もその潮流に抗うものはいるのです。むしろこの国を蝕む中央派を排する良い機会と思うぐらい強気で行きましょう」
孔明はそう励ます。
確かに今彼らの力を削いでおけば今後の改革は楽になるだろう。
特にベゾークトのように大きく兵を失ってしまえば、今私たちがしているような武力蜂起をする危険は大きく減る。
「やはり戦争はまともな精神ではやってられないな……」
「大義を成すため清濁併せ呑むことも、今後王としての素質に求められるのですよ」
「まあ、現実はそんなもんか……」
理想論だけでは何もできない。それは分かっている。
ここで私がうだうだしていると、私のために命を懸けて戦ってくれている兵たちに顔向けできない。
これから何度戦うか分からないのだから気持ちを切り替えて行くしかないのだ。
「……さて、それでは準備が出来次第また皇都へ向かい出発しようか」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──んで、結局ウェグの様子はどうなってんだ?」
ベゾークトを抜けた次の日、皇都への道中にある中央派ウェグの手前で一時様子見をしていた。
『何度も見に行っているが兵がおらんぞ。街の様子も人間は歩いてない』
先行偵察に向かったハオランからは奇妙な知らせが入る。
『周囲の村も確認しましたが、やはり警備の兵すらいませんね』
『こちらも同じ様子です』
『近くの森に潜んでいる伏兵も確認できませんね』
ルーシャンたち他の竜人からの連絡も同じようなものばかりだった。
「どういうことだ……?」
「レオ様! たった今確認したところ、通信部隊からの情報がありました!」
「ほう、なんだって?」
「ミドラ=ホルニッセ侯爵が近隣の中央派クライナーを破り、現在はここから西方でウェグ軍と戦っているとのことです!」
「それでウェグの街がガラ空きなのか……。ホルニッセ軍はそんなに強かったのだな」
ウェグ軍が私たちに向かわず西方のホルニッセ軍に向かったということは、ウェグが私たちの進撃の知らせをベゾークトから聞く前にホルニッセ軍が攻撃を開始したということだ。
その速度でクライナーを破りここまで来たというのは私の想像以上にミドラ侯爵は強いらしい。彼にはファリア反乱以来助けられてばかりだ。
「それでは私たちも今から西方に向かいウェグ軍を挟み撃ちにするぞ!」
「いえ、ホルニッセ侯爵は援軍無用とのことでした……」
「レオ、ここはあの男を信じて、俺たちは先を急ごうぜ」
しかし私の記憶では、ホルニッセは兵力四千そこそこ、破ったクライナーで六千、ウェグに至っては一万だったはずだ。
六千には運良く勝てても、連戦で一万相手は相当厳しい戦いになるだろう。
「……孔明、どうする?」
『……難しい判断になりますが、ここは私たちでウェグの街を攻略し、そのまま兵を残し占領しましょう。帰るべき所がなくなったウェグ軍はまさに心煩意乱といった状況になり士気を削ぐことができます。さすれば直接剣を交えることなくともホルニッセ軍の助けになるでしょう』
「……なるほど。ではそうしよう。歳三、ウェグに残す兵について、ウィルフリードやリーンと相談しておいてくれ」
「了解だぜ」
「ではガラ空きの街をサクッと占領させて貰うとするか。──全軍進軍開始!」
これでも可能な限り素早く戦闘を終わらせたが、残念ながらベゾークト軍は半数以上が戦死していたようだ。後続の部隊も前線壊滅を聞き物資を放棄して逃げ出していた。
対する私たちは戦傷者は多少出したものの、被害はほとんどない。爆撃により混乱に陥った軍隊に重装歩兵による騎兵突撃を防ぐ術はなく、一方的な戦闘経過だったようだ。
対処不能な航空攻撃、指揮系統の素早い排除、通信機による緊密な連携。自軍の被害を抑えた圧倒的な勝利という、私の望みが完璧に実現されている。
「レオ様、ベゾークトの領主が街の宿などを貸してくれるそうです」
ベゾークト軍の兵士たちを送り届け、私たちも自陣に戻り後片付けをしている間、タリオが逐一情報を伝えてくれている。
「ほう、やけに親切だな」
「罠かも知れませんよ」
「さあ、どうかな……」
ベゾークトには残された兵がわずか二千程度。私たちはちょうどその十倍の兵力だ。一万八千の差はどうにかできる数ではない。
それにここまで絶望的な敗北を味わった彼らも、この戦争の行方がどうなるか、どちらにつくのが得になるか思い知ったことだろう。
「いずれにせよ、ベゾークトに泊まるのは兵士たちも気が休まらないでしょう。食料などの物資だけ貰い、少し進んだ所で野営がよろしいかと」
「まあそうだな。では孔明の言う通りにしよう。父やザスクリアにも伝えてくれ」
「了解しました!」
タリオは小走りで各方面と繋がる通信部隊の方へ去って行った。
「……それにしても、ベゾークトから敵対してるとは先が思いやられるな」
「後二つの領地を越えなきゃ皇都には着かねェ。だが中心に向かえば向かうほど人口も増えていくからな。敵の兵力もどんどん増していく」
「負けるとは思っていない。……だが今よりも戦いは面倒になり多くの人が傷つくことになる」
「仕方がありません。いつの時代もその潮流に抗うものはいるのです。むしろこの国を蝕む中央派を排する良い機会と思うぐらい強気で行きましょう」
孔明はそう励ます。
確かに今彼らの力を削いでおけば今後の改革は楽になるだろう。
特にベゾークトのように大きく兵を失ってしまえば、今私たちがしているような武力蜂起をする危険は大きく減る。
「やはり戦争はまともな精神ではやってられないな……」
「大義を成すため清濁併せ呑むことも、今後王としての素質に求められるのですよ」
「まあ、現実はそんなもんか……」
理想論だけでは何もできない。それは分かっている。
ここで私がうだうだしていると、私のために命を懸けて戦ってくれている兵たちに顔向けできない。
これから何度戦うか分からないのだから気持ちを切り替えて行くしかないのだ。
「……さて、それでは準備が出来次第また皇都へ向かい出発しようか」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──んで、結局ウェグの様子はどうなってんだ?」
ベゾークトを抜けた次の日、皇都への道中にある中央派ウェグの手前で一時様子見をしていた。
『何度も見に行っているが兵がおらんぞ。街の様子も人間は歩いてない』
先行偵察に向かったハオランからは奇妙な知らせが入る。
『周囲の村も確認しましたが、やはり警備の兵すらいませんね』
『こちらも同じ様子です』
『近くの森に潜んでいる伏兵も確認できませんね』
ルーシャンたち他の竜人からの連絡も同じようなものばかりだった。
「どういうことだ……?」
「レオ様! たった今確認したところ、通信部隊からの情報がありました!」
「ほう、なんだって?」
「ミドラ=ホルニッセ侯爵が近隣の中央派クライナーを破り、現在はここから西方でウェグ軍と戦っているとのことです!」
「それでウェグの街がガラ空きなのか……。ホルニッセ軍はそんなに強かったのだな」
ウェグ軍が私たちに向かわず西方のホルニッセ軍に向かったということは、ウェグが私たちの進撃の知らせをベゾークトから聞く前にホルニッセ軍が攻撃を開始したということだ。
その速度でクライナーを破りここまで来たというのは私の想像以上にミドラ侯爵は強いらしい。彼にはファリア反乱以来助けられてばかりだ。
「それでは私たちも今から西方に向かいウェグ軍を挟み撃ちにするぞ!」
「いえ、ホルニッセ侯爵は援軍無用とのことでした……」
「レオ、ここはあの男を信じて、俺たちは先を急ごうぜ」
しかし私の記憶では、ホルニッセは兵力四千そこそこ、破ったクライナーで六千、ウェグに至っては一万だったはずだ。
六千には運良く勝てても、連戦で一万相手は相当厳しい戦いになるだろう。
「……孔明、どうする?」
『……難しい判断になりますが、ここは私たちでウェグの街を攻略し、そのまま兵を残し占領しましょう。帰るべき所がなくなったウェグ軍はまさに心煩意乱といった状況になり士気を削ぐことができます。さすれば直接剣を交えることなくともホルニッセ軍の助けになるでしょう』
「……なるほど。ではそうしよう。歳三、ウェグに残す兵について、ウィルフリードやリーンと相談しておいてくれ」
「了解だぜ」
「ではガラ空きの街をサクッと占領させて貰うとするか。──全軍進軍開始!」
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