上 下
169 / 262
第三章

167話 進軍開始

しおりを挟む
「レオ様、こちら装備になります」

 準備が完了した会場に向かい、今は裏で最終確認を行っている。

「ありがとうタリオ。……お前も新しい装備、よく似合っているぞ」

「ありがとうございます。準貴族として、此度の戦いでは全力を尽くす所存です」

「はは、まぁそう肩肘張らずに、いつも通りやればいいさ」

 準貴族の爵位を授けてから、タリオは本当に良く頑張っていた。私の雑用から離れ、時にはウィルフリードまで赴き父アルガーから特別稽古をつけてもらう程の力の入れ具合である。
 確か私より二歳年上だったはずで、その身体もタリオは私より一回り大きい。

 確か歳三が五尺五寸とかだったはずだ。それで当時としてはかなりの高身長な167cm。
 私は歳三より少し小さいので160いくつ。
 孔明は八尺だとかと残っていたらしいが、当時は時代によって同じ単位でも実際の長さがバラバラで184だか、流石にそこまではなかそうだが192だかと、正確には分からない。高身長なのは変わりないが、今も帽子を被っているので身長差自体気にならなかった。
 そう考えるとタリオは歳三より高く孔明より低いので175とかそれぐらいだろうか。

 つまり何が言いたいかと言うと、この国には明確な長さ基準がないのである。正確に言えば存在はするがろくに使われていない。
 重さは金銀などの取り引きでどの地域でもある程度一定の範囲で決められているが、建築などに使われる長さについては地域差が大きい。本来は皇都で用いられた縮尺があるらしいが、これも中央の支配力の低下のせいか地方ではその基準は廃れてしまっているのだ。

 更には最近では帝国金貨も質の悪いものが出回り始め、帝国の経済が揺るぎ始めている。
 帝国全土を包むこの不穏な空気は間違いなく起こる、と言うかこれから起こす動乱の前触れに過ぎない。

「──レオ様、こちらへどうぞ」

「ああ」

 などと考えている内に最終確認は終わったようだ。

 国全体でこうしたらいいのにという考えばかりが先行している私は、少々浮かれすぎているのだろう。これから軍事的にも政治的にも厳しい戦いが待ち受けているに違いない。
 そしてそれは同時にエルシャに無理をさせることでもある。

「エル、大丈夫か?」

「……大丈夫よ」

「では、行こうか」

「上手くいかなかったらごめんね、レオ」

 ここまで萎れているエルシャを見たのは初めてだった。彼女の辛そうな顔を見る度、私の胸も痛む。

「こんな時に本当に申し訳なく思う。でもこれは君にしかできないことだ。……一緒に行こう」

 私はエルシャの手を取り、壇上へ上がった。





 私とエルシャの姿が露わになると、急遽集まってもらったにも関わらず、大勢の民衆は歓声をあげた。
 私がこうして公式の場に出るのも久しぶりのことで、この感覚も新鮮に感じた。

「レオ様ー!」
「こういうのにエルシャ様がいらっしゃるのも初めてじゃないか?」
「でもこんな突然一体なんなんだ……?」

 歓声が収まると、次第に民たちの複雑な思いを零した言葉が聞こえてきた。

「諸君! お集まり頂き感謝する。……本題に入る前に、まずは皆の中でも初めて見るという者もいるかもしれない、エルシャを紹介する!」

 私が横に立つエルシャの背中を軽く押し一歩前に誘導した。
 彼女は私に軽く頷いてから、お腹に手を当て精一杯の声で初めての演説に、臨んだ。

「──皆さん、こんにちは! 私はプロメリア帝国第一皇女、エルシャ=フォン=プロメリトスと申します! 少し前からこのファリアでお世話になっております。挨拶が遅れてごめんなさい。……これからよろしくお願いします!」

「エルシャ様ー!」
「エルシャ様バンザイ!」

 プロ意識と言うべきか、いざ人前に出るとさっきまでの落ち込みを一切感じさせない、元気でいい挨拶だった。
 パフォーマンスかやりきった安堵感からか、彼女は私の方を向いて一度微笑み、元の位置に下がった。

「──それでは諸君! 次に私から本題をお伝えする!」

 私がそう叫ぶと、歓声が一気に止み、群衆は静寂に包まれた。

「もしかしたら皆の中にも既に知っている者がいるかもしれない。だが、この機に私の口から正式に発表する。……非常に残念ながら先日、カイゼル=フォン=プロメリトス皇帝陛下が崩御された」

「そ、そんな馬鹿な……」
「皇帝陛下はまだそんなお年じゃなかったはずだろ……?」
「こ、これ、この隙に王国が攻め入って来るんじゃねぇのか!?」
「おい、そうなったらファリアもやばいぞ!」

 予想通り、民たちは動揺を隠せないようだ。

「落ち着いて聞いて欲しい! ……まず、王国は大丈夫だ。対魔王同盟が破られることはない。次に何故皇帝陛下がお隠れになったことを皆に今まで伝えられなかったかだが……、それは皇位継承問題があったからだ」

「ど、どういうことなんだ……」
「俺みたいな馬鹿が知っているわけないだろ!」

 ますます混乱は広がっていく。
 ここで私が彼らに“真実”を告げれば、全て信じるだろう。

「通常であれば次期皇帝は第一皇子グーター様である。……しかし、グーター様は皇位を狙う第二皇子ボーゼンによって殺された!」

「な、何を言っているだレオ様は……」
「いくらなんでもありえないわ!」

「皆の困惑もよく分かる! 私も親愛なる陛下を失った悲しみに暮れていた時、帝国の希望である第二皇子までも喪ったのだ! ……自らの地位のためこのような残虐非道な蛮行に及んだ第二皇子とその一派は決して許すことはできない!」

「そうだそうだ!」
「いいぞレオ様!」

「──よって我々はこれより第二皇子討伐の軍を向ける! 帝国に叛いた叛逆者に天誅を下すのだ!」

 私のこの台詞を合言葉に、広場に新設した重騎兵隊が入場して来る。
 彼らの姿はもはや騎士団と呼んで差し支えないほど立派なものだった。

「私は前帝国近衛騎士団団長、ヘルムート=ヤーヴィス! 亡き皇帝陛下より賜った数々の恩に報いるため、必ずや彼の者を討ち滅ぼしてくれよう!」

「皆さんの不安も分かります! ですが帝国のため、私たちにご理解とご協力お願いします! それがきっと亡き父と兄の願いでしょう!」

 団長とエルシャの言葉は、この場にいる民たちから見れば中央からのお達しと何ら変わらないほどの権威に思えただろう。

「第二皇子を許すな!」
「エルシャ様は二人もご家族を失ってなんと気丈な!」
「レオ様! どうか帝国をお救いください!」

 場は整った。

「諸君! 決して奴らに騙されるな! 正義は我らにあり! ──全軍出撃!!!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...