155 / 262
第二章
153話 計画
しおりを挟む
ファリア帰還後、私たちは休む暇もなく緊急会議を開催した。
孔明を含めたファリアの中心人物を全員招集して、ことの全容を一から話す。
「──それは、おめでとうございます、と手放しに喜べるようでもないですね……」
「貴族である以上、いずれ似たようなことにはなるとは思っていたさ」
「でも、レオくん自身は本当にそれでいいと思っているのかなぁ……?」
「シズネさん……。仕方ないんです。陛下の決められたことは覆せない。もうじき正式な公布がファリアまで届きますよ……」
シズネは悲しそうに俯いた。
「……悔やんでも仕方がない。とにかく、諸侯との緩衝などについてはエアネスト公爵もといデアーグ公爵に頼んだが、私たちでもこの問題にどう対処すべきか考える必要がある」
貴族への対応はデアーグ公爵に任せるとして、私たちは私たちでいつか来る皇女への対応を考えなければならない
「存在自体が危険でありながら、危うい中央との関係との間を埋める鍵にもなり得る、まさに一得一失の存在。……これは大仕事となりそうです」
「私はいいとして、皇女殿下がこのような土地に住むというのがまず問題だ」
私は所々傷んだ屋敷の天井を見上げる。
ファリアは土地こそ大きいが、そのほとんどが農作地である。人口も増加傾向にあるとはいえウィルフリードには遠く及ばない。
皇女に相応しい場所ということを考えると、私自身が皇城に召還される可能性の方が高いまである。
「てかそもそも婚約って段階ならまだ皇女はこっちに来ないんじゃねェか?」
「だといいんだがな。それなら来年の私の誕生日まで引き伸ばせる」
私は春の終わり頃の生まれだ。初夏の今から見て一年弱の猶予が貰える。
「ですが地方領主に嫁ぐ皇族など前例がない故に、そう言いきれないのがなんとも……」
孔明も羽扇で顔を覆い頭を抱える。
全く同じには考えることはできないが、貴族間の結婚では婚約段階で相手の家に入っていることも少なくない。それはほぼ全ての場合、皇族の結婚とは政略結婚であり、女性は人質に差し出されたようなものだからだ。
相手方としては一刻も早く手元に人質をおきたがる。
「まぁどの道亜人・獣人たちと住むために都市計画を大きく変えている所だ。悪いがそこに皇女という存在もねじ込んで建築計画などをいじってくれ」
「了解しました。どの程度のものを用意しましょう」
「せめてウィルフリードの屋敷だな。皇女がファリアに御不満であれば最悪私が皇女を連れて私の実家に戻るという形を考えている。……それでも駄目ならデアーグ公爵などを頼る他あるまい」
私の頭にはリーンや皇都での迎賓館、エアネストの屋敷が思い浮かんだ。だがそれらを用意するのは簡単ではない。
ウィルフリードも、要塞都市である経緯から多少無骨ではあるが大きさなどは立派な屋敷に仕上がっている。
そもそも私は無駄に豪華な家や部屋が好きではない。元の世界では庶民的な家庭で育ち、こちらでもあのウィルフリードで育った私には、豪華絢爛の限りを尽くした貴族らしい空間など落ち着かないのだ。
しかし今となっては、かつてのファリアの主であるバルン=ファリアが集めたあの蒐集品が惜しい。残念ながら芸術的・文化的に価値があると思われるもの以外は全て売っぱらってしまった。
「そして団長と歳三には皇女の警護についても準備しておいて欲しい」
「了解しました。近衛騎士団として長年培ったこの力、遺憾なく発揮してみせます」
「街の治安維持にも力を入れるぜ」
歳三は最近妖狐族に普段の仕事として街の警備を積極的にやらせていた。そして自らその指揮を執り街を歩いているようだった。
刀を持った集団が街の警備に練り歩くとは、やはり歳三も妖狐族の出で立ちを見て懐古心がくすぐられたのだろうか。
「ヘクセルにシフも、引き続きファリアの産業を支えてくれ」
「わ、わかったよ……」
「ああ」
軍需産業など私の理想からかけ離れているように見えるが、目的と手段を履き違えてはいけない。
武器を持たずに平和を叫んでも、悪意を持ち剣先を向ける隣国には届くはずもないのだから。
「シズネさんは教育関係に事務までお任せして忙しいと思いますが、よろしくお願いします」
「はぁい」
新しくファリアにやってきた亜人・獣人たちへの教育もシズネに頼んでいる。獣人として同じ目線からこの国の法律や人間の生活について教えられる彼女が適任だ。
「よし! 全体での会議もこれで終了とする。詳細は各員の裁量に委ねる。最終的には孔明の判断を仰ぐように。──それでは、解散!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……レオ、少しいいですか?」
「どうした孔明?」
皆が会議室を去った後、孔明が話しかけてきた。
「レオは覚えていますか? 私が以前、レオがこの国を統べなさいと言ったことを」
「……その話か」
「ついに絶好の機会が巡ってきたようです」
「……確かに皇帝家との血縁関係というのは大きい。しかしまだその時ではない」
「それはつまり、“その時”が来ると?」
「…………」
「……分かりました。……ではその時を待ちましょう」
私の命の危機を感じる今、孔明は早く行動を起こすことを望んでいるのだろう。殺られる前にやり、のし上がる。まさに乱世を生き抜いた英雄の考えだ。
確かに強力な派閥や亜人・獣人たちの後ろ盾は大きい。しかしそれでもまだ私は全てを屠る覚悟はできていなかった。
思想家マキャベリに言わせれば、それは確実に一度で全てを消し去らなければならない。失敗すれば私の立場はより危うくなる。
私はまだ君主になるだけの自信は足りていなかった。
「孔明。私を張角ではなく、劉備のようにしてくれ」
「はい。しかと心得ております。……今は私も司馬懿を見習うとしましょうか」
傭兵として一から築き上げた劉備と孔明たち。しかしその志は半ばに打ち砕かれた。
それに対し、有力者であった魏の曹操の軍師として爪を研ぎ続け、最後は司馬一族が秦として中華を統一した。
私たちは歴史の勝者にならなければならない。後世に語り継がれる名声など必要ない。
平和な世界を作るために、最後には私が立っていなければならないのだから。
孔明を含めたファリアの中心人物を全員招集して、ことの全容を一から話す。
「──それは、おめでとうございます、と手放しに喜べるようでもないですね……」
「貴族である以上、いずれ似たようなことにはなるとは思っていたさ」
「でも、レオくん自身は本当にそれでいいと思っているのかなぁ……?」
「シズネさん……。仕方ないんです。陛下の決められたことは覆せない。もうじき正式な公布がファリアまで届きますよ……」
シズネは悲しそうに俯いた。
「……悔やんでも仕方がない。とにかく、諸侯との緩衝などについてはエアネスト公爵もといデアーグ公爵に頼んだが、私たちでもこの問題にどう対処すべきか考える必要がある」
貴族への対応はデアーグ公爵に任せるとして、私たちは私たちでいつか来る皇女への対応を考えなければならない
「存在自体が危険でありながら、危うい中央との関係との間を埋める鍵にもなり得る、まさに一得一失の存在。……これは大仕事となりそうです」
「私はいいとして、皇女殿下がこのような土地に住むというのがまず問題だ」
私は所々傷んだ屋敷の天井を見上げる。
ファリアは土地こそ大きいが、そのほとんどが農作地である。人口も増加傾向にあるとはいえウィルフリードには遠く及ばない。
皇女に相応しい場所ということを考えると、私自身が皇城に召還される可能性の方が高いまである。
「てかそもそも婚約って段階ならまだ皇女はこっちに来ないんじゃねェか?」
「だといいんだがな。それなら来年の私の誕生日まで引き伸ばせる」
私は春の終わり頃の生まれだ。初夏の今から見て一年弱の猶予が貰える。
「ですが地方領主に嫁ぐ皇族など前例がない故に、そう言いきれないのがなんとも……」
孔明も羽扇で顔を覆い頭を抱える。
全く同じには考えることはできないが、貴族間の結婚では婚約段階で相手の家に入っていることも少なくない。それはほぼ全ての場合、皇族の結婚とは政略結婚であり、女性は人質に差し出されたようなものだからだ。
相手方としては一刻も早く手元に人質をおきたがる。
「まぁどの道亜人・獣人たちと住むために都市計画を大きく変えている所だ。悪いがそこに皇女という存在もねじ込んで建築計画などをいじってくれ」
「了解しました。どの程度のものを用意しましょう」
「せめてウィルフリードの屋敷だな。皇女がファリアに御不満であれば最悪私が皇女を連れて私の実家に戻るという形を考えている。……それでも駄目ならデアーグ公爵などを頼る他あるまい」
私の頭にはリーンや皇都での迎賓館、エアネストの屋敷が思い浮かんだ。だがそれらを用意するのは簡単ではない。
ウィルフリードも、要塞都市である経緯から多少無骨ではあるが大きさなどは立派な屋敷に仕上がっている。
そもそも私は無駄に豪華な家や部屋が好きではない。元の世界では庶民的な家庭で育ち、こちらでもあのウィルフリードで育った私には、豪華絢爛の限りを尽くした貴族らしい空間など落ち着かないのだ。
しかし今となっては、かつてのファリアの主であるバルン=ファリアが集めたあの蒐集品が惜しい。残念ながら芸術的・文化的に価値があると思われるもの以外は全て売っぱらってしまった。
「そして団長と歳三には皇女の警護についても準備しておいて欲しい」
「了解しました。近衛騎士団として長年培ったこの力、遺憾なく発揮してみせます」
「街の治安維持にも力を入れるぜ」
歳三は最近妖狐族に普段の仕事として街の警備を積極的にやらせていた。そして自らその指揮を執り街を歩いているようだった。
刀を持った集団が街の警備に練り歩くとは、やはり歳三も妖狐族の出で立ちを見て懐古心がくすぐられたのだろうか。
「ヘクセルにシフも、引き続きファリアの産業を支えてくれ」
「わ、わかったよ……」
「ああ」
軍需産業など私の理想からかけ離れているように見えるが、目的と手段を履き違えてはいけない。
武器を持たずに平和を叫んでも、悪意を持ち剣先を向ける隣国には届くはずもないのだから。
「シズネさんは教育関係に事務までお任せして忙しいと思いますが、よろしくお願いします」
「はぁい」
新しくファリアにやってきた亜人・獣人たちへの教育もシズネに頼んでいる。獣人として同じ目線からこの国の法律や人間の生活について教えられる彼女が適任だ。
「よし! 全体での会議もこれで終了とする。詳細は各員の裁量に委ねる。最終的には孔明の判断を仰ぐように。──それでは、解散!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……レオ、少しいいですか?」
「どうした孔明?」
皆が会議室を去った後、孔明が話しかけてきた。
「レオは覚えていますか? 私が以前、レオがこの国を統べなさいと言ったことを」
「……その話か」
「ついに絶好の機会が巡ってきたようです」
「……確かに皇帝家との血縁関係というのは大きい。しかしまだその時ではない」
「それはつまり、“その時”が来ると?」
「…………」
「……分かりました。……ではその時を待ちましょう」
私の命の危機を感じる今、孔明は早く行動を起こすことを望んでいるのだろう。殺られる前にやり、のし上がる。まさに乱世を生き抜いた英雄の考えだ。
確かに強力な派閥や亜人・獣人たちの後ろ盾は大きい。しかしそれでもまだ私は全てを屠る覚悟はできていなかった。
思想家マキャベリに言わせれば、それは確実に一度で全てを消し去らなければならない。失敗すれば私の立場はより危うくなる。
私はまだ君主になるだけの自信は足りていなかった。
「孔明。私を張角ではなく、劉備のようにしてくれ」
「はい。しかと心得ております。……今は私も司馬懿を見習うとしましょうか」
傭兵として一から築き上げた劉備と孔明たち。しかしその志は半ばに打ち砕かれた。
それに対し、有力者であった魏の曹操の軍師として爪を研ぎ続け、最後は司馬一族が秦として中華を統一した。
私たちは歴史の勝者にならなければならない。後世に語り継がれる名声など必要ない。
平和な世界を作るために、最後には私が立っていなければならないのだから。
20
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる