147 / 262
第二章
145話 下知
しおりを挟む
「壁上の見張りに見つかったら面倒だ! 一度降りてくれ!」
「了解だ」
「駄目だレオ! 皇都へ入るのに無駄な手続きをさせられて時間を稼がれる可能性がある! 直接向かうしかない!」
「ですが父上──!」
皇都を幾重にも囲う巨大な壁の上にはトレビュシェットやらバリスタやらが大量に並んでいる。
見張りがまともに働いていれば、私たちは一瞬で撃ち落とされるだろう。
「なんだレオ! 敵の対空砲火に突っ込むのは初めてか!?」
「お前はともかく竜人たちは回避行動はもう無理だ!」
そもそも、そう言うルーデルとてソ連軍の対空砲に何回も撃ち落とされて死にかけている。
「舐めて貰っては困るな! 竜の力を持つ選ばれし種族の意地を見せろ!」
「族長の言う通りだ! このまま突っ切る!」
「──なんて無茶を!」
ハオランのハンドサインにより私たちは一時散開。そしてそのまま皇都の外壁へ一直線に向かう。
そして案の定見張りに見つかり矢や石の礫が飛んでくる。
『高度を落とせ! 真下に向かっては撃てない!』
通信機によるルーデルの指示の元、私たちは急降下で加速し地面すれすれを飛ぶ。
この速度には壁上兵器の照準も間に合わない。
『外壁さえ乗り越えれば皇城まで安全なはずだ! 流石に皇都の内側へ打ち込んで来ることはない!』
超低空飛行で壁に限界まで近付き、その勢いのまま今度は壁に沿って垂直に上昇する。
この無理な軌道に強烈なGが襲いかかってくる。脳の血液が不足し一瞬意識が飛んだ。
ブラックアウトから抜け出すと壁上の真上だった。
「だ、誰だ貴様ら!」
「弓を射掛けよ!」
『そんなもの当たらないぞ! ハハハハ──!』
ルーデルは兵士を煽るかのように彼らの頭上すれすれを行き来する。
私たちはルーデルが兵士の気を引いている間に、何とか皇都の外壁を乗り越えることができたのだった。
「ここまで来たらいっそ皇城の門ではなく城の入り口の真ん前に降りよう!」
『了解した』
本来皇城の警備を総括している団長に言えば問題なく入れるはずだが、それならいっそ後から謝ればいい。
正確な時間は指定されていないが、こうしている今も刻一刻と遅参による処刑の可能性は高まりつつあるのだ。
皇都を、と言うよりこの世界の街を見下ろすのは初めての体験だった。
無秩序に建設された外周の住宅地エリアから、中央に向かうにつれ計算された防衛施設としての街並みへと変化していく様子は、こんな状況でなければ楽しめる景色だっただろう。
橋を渡って堀を越える。本来はそのはずの場所を私たちは遥か上空から通り抜けた。
昔来た時はその大きさに圧倒された城へ続く門もこうして飛び超えれば何の意味も為さない。
城は山の中腹から頂上辺りにあるため、高度が上がり竜人たちも飛ぶのが苦しそうだった。
私たちが皇城の前の広場に降り立つと、地上を警戒する警備の兵士たちは大声を上げながら私たちを取り囲む動きをみせた。
「それではハオラン以外の竜人たちは待機していてくれ。必要があれば孔明の策に従い、ハオランからルーシャンに連絡を入れる」
「分かった」
「ルーデルもそちらの指揮を任せる。上空でバレないよう待機だ」
「了解」
ハオランとその段取りを確認した後、ルーデルとルーシャンたち一行は雲の合間に消えていった。
「さて、では堂々と正面から行こうか」
「ここで騒ぎを起こせば流石に無視できまい」
当然兵士たちは皇城に入れまいと私たちの進路を阻んだ。
「何者だ! い、一体どうやってここまで来たんだ!」
「私はレオ=ウィルフリード。陛下に呼ばれたので急いでやってきた。どうやってと聞かれれば……、さっき見た通り竜人に運んでもらった」
私がそう説明しても兵士たちは槍を下ろさない。
まあいきなりとんでもない方法でやってきて貴族の名を語るなど、簡単に信じる方が警備の兵としては失格だ。
「悪いが急いでいるんだ。胸章を見るに君たちは近衛騎士だろう? 団長を出して貰えるか。その方が早い」
「──団長は私だが」
そう言って出てきたのは見たこともない髭面の男だった。
「は……?」
「何やらうるさいと思って来てみれば……。お引き取り願おうか。地位のある貴族ならきちんとした手順を踏んで陛下の御前に来て頂きたいものだ」
男はいやらしい目つきでそう皮肉を放つ。
「ヘルムート団長はどうしたんだ……?」
「ああ、奴なら先の戦いでの近衛騎士の惨状を詫びて辞任したのさ。あれでは近衛騎士などと言える強さはなかったということだ。だからこの俺、イロニエが新団長として奴の尻拭いをしてやってるのさ」
「そんなはずないだろ……!」
責任感が人一倍強く、仲間思いな団長がそんな簡単に自分の仕事を投げ出して辞任するはずない。
十中八九、あの戦争を口実に排斥されたのだ。
「ま、そんなことはどうだっていい。──皇城の警備を務める近衛騎士団、その団長のこの俺が命じる。どうぞお引取りを」
周りにいる騎士たちも槍を下ろさない。
それは怪しんでではなく、我々を本気で追い返すために実力行使も厭わないというメッセージだ。
私たちが本気を出せば、所詮一般人の域を出ない騎士など英雄たちの力で粉砕できる。しかし皇城の敷地内で刃傷沙汰など起こせば重たい処分は免れない。
「……クソ! ここで終わりなのか……!」
父も歳三も、他の連れてきた者たちも私の判断を待っている。
こんな時孔明ならどうする……? やはり護衛だけでなくブレーンとして彼を連れてくるべきだったか……?
いや、そんなことを考えるだけ無駄だ。
だが真面目に考えたとて凡夫の私には良策など浮かばない。
皇都に着けば誰かが助けてくれてなんとかなるなどという私の甘い考えが完全に打ち砕かれた、その時だった。
「了解だ」
「駄目だレオ! 皇都へ入るのに無駄な手続きをさせられて時間を稼がれる可能性がある! 直接向かうしかない!」
「ですが父上──!」
皇都を幾重にも囲う巨大な壁の上にはトレビュシェットやらバリスタやらが大量に並んでいる。
見張りがまともに働いていれば、私たちは一瞬で撃ち落とされるだろう。
「なんだレオ! 敵の対空砲火に突っ込むのは初めてか!?」
「お前はともかく竜人たちは回避行動はもう無理だ!」
そもそも、そう言うルーデルとてソ連軍の対空砲に何回も撃ち落とされて死にかけている。
「舐めて貰っては困るな! 竜の力を持つ選ばれし種族の意地を見せろ!」
「族長の言う通りだ! このまま突っ切る!」
「──なんて無茶を!」
ハオランのハンドサインにより私たちは一時散開。そしてそのまま皇都の外壁へ一直線に向かう。
そして案の定見張りに見つかり矢や石の礫が飛んでくる。
『高度を落とせ! 真下に向かっては撃てない!』
通信機によるルーデルの指示の元、私たちは急降下で加速し地面すれすれを飛ぶ。
この速度には壁上兵器の照準も間に合わない。
『外壁さえ乗り越えれば皇城まで安全なはずだ! 流石に皇都の内側へ打ち込んで来ることはない!』
超低空飛行で壁に限界まで近付き、その勢いのまま今度は壁に沿って垂直に上昇する。
この無理な軌道に強烈なGが襲いかかってくる。脳の血液が不足し一瞬意識が飛んだ。
ブラックアウトから抜け出すと壁上の真上だった。
「だ、誰だ貴様ら!」
「弓を射掛けよ!」
『そんなもの当たらないぞ! ハハハハ──!』
ルーデルは兵士を煽るかのように彼らの頭上すれすれを行き来する。
私たちはルーデルが兵士の気を引いている間に、何とか皇都の外壁を乗り越えることができたのだった。
「ここまで来たらいっそ皇城の門ではなく城の入り口の真ん前に降りよう!」
『了解した』
本来皇城の警備を総括している団長に言えば問題なく入れるはずだが、それならいっそ後から謝ればいい。
正確な時間は指定されていないが、こうしている今も刻一刻と遅参による処刑の可能性は高まりつつあるのだ。
皇都を、と言うよりこの世界の街を見下ろすのは初めての体験だった。
無秩序に建設された外周の住宅地エリアから、中央に向かうにつれ計算された防衛施設としての街並みへと変化していく様子は、こんな状況でなければ楽しめる景色だっただろう。
橋を渡って堀を越える。本来はそのはずの場所を私たちは遥か上空から通り抜けた。
昔来た時はその大きさに圧倒された城へ続く門もこうして飛び超えれば何の意味も為さない。
城は山の中腹から頂上辺りにあるため、高度が上がり竜人たちも飛ぶのが苦しそうだった。
私たちが皇城の前の広場に降り立つと、地上を警戒する警備の兵士たちは大声を上げながら私たちを取り囲む動きをみせた。
「それではハオラン以外の竜人たちは待機していてくれ。必要があれば孔明の策に従い、ハオランからルーシャンに連絡を入れる」
「分かった」
「ルーデルもそちらの指揮を任せる。上空でバレないよう待機だ」
「了解」
ハオランとその段取りを確認した後、ルーデルとルーシャンたち一行は雲の合間に消えていった。
「さて、では堂々と正面から行こうか」
「ここで騒ぎを起こせば流石に無視できまい」
当然兵士たちは皇城に入れまいと私たちの進路を阻んだ。
「何者だ! い、一体どうやってここまで来たんだ!」
「私はレオ=ウィルフリード。陛下に呼ばれたので急いでやってきた。どうやってと聞かれれば……、さっき見た通り竜人に運んでもらった」
私がそう説明しても兵士たちは槍を下ろさない。
まあいきなりとんでもない方法でやってきて貴族の名を語るなど、簡単に信じる方が警備の兵としては失格だ。
「悪いが急いでいるんだ。胸章を見るに君たちは近衛騎士だろう? 団長を出して貰えるか。その方が早い」
「──団長は私だが」
そう言って出てきたのは見たこともない髭面の男だった。
「は……?」
「何やらうるさいと思って来てみれば……。お引き取り願おうか。地位のある貴族ならきちんとした手順を踏んで陛下の御前に来て頂きたいものだ」
男はいやらしい目つきでそう皮肉を放つ。
「ヘルムート団長はどうしたんだ……?」
「ああ、奴なら先の戦いでの近衛騎士の惨状を詫びて辞任したのさ。あれでは近衛騎士などと言える強さはなかったということだ。だからこの俺、イロニエが新団長として奴の尻拭いをしてやってるのさ」
「そんなはずないだろ……!」
責任感が人一倍強く、仲間思いな団長がそんな簡単に自分の仕事を投げ出して辞任するはずない。
十中八九、あの戦争を口実に排斥されたのだ。
「ま、そんなことはどうだっていい。──皇城の警備を務める近衛騎士団、その団長のこの俺が命じる。どうぞお引取りを」
周りにいる騎士たちも槍を下ろさない。
それは怪しんでではなく、我々を本気で追い返すために実力行使も厭わないというメッセージだ。
私たちが本気を出せば、所詮一般人の域を出ない騎士など英雄たちの力で粉砕できる。しかし皇城の敷地内で刃傷沙汰など起こせば重たい処分は免れない。
「……クソ! ここで終わりなのか……!」
父も歳三も、他の連れてきた者たちも私の判断を待っている。
こんな時孔明ならどうする……? やはり護衛だけでなくブレーンとして彼を連れてくるべきだったか……?
いや、そんなことを考えるだけ無駄だ。
だが真面目に考えたとて凡夫の私には良策など浮かばない。
皇都に着けば誰かが助けてくれてなんとかなるなどという私の甘い考えが完全に打ち砕かれた、その時だった。
13
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる