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第二章

136話 帰投

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 その後、結局ルーデルが戻ってきたのは次の日の朝だった。
 それも翼は大きく折れ穴まみれ。軍服もボロボロでほぼ気絶しかけの状態のままハオランに抱えられてファリアに帰還した。

「……ハァ、……フゥ…………。──レオに与えられたこの機体性能は極めて良好だ。飛行速度は200km/hは出てたはずだ。緊急出力……、と言っても俺の出せる限界だがそれは220km/h。航続距離は200km程度。旋回性能も極めて高いがスピードが乗りすぎるとその旋回半径の小ささ故に過負荷のGで意識が飛びそうになる。……適正高度は恐らく海抜だな。限界高度は5000フィート弱、つまり約1500m。そこから急降下して最高速度が500km/hいかないまでに翼が折れてこのザマだ」

 心底辛そうな顔をしていたルーデルだが、飛行機(自分)の話となると急に人が変わったかのように饒舌になる。

「だが垂直離着陸できるのは素晴らしいことだ。これで滑走路という縛りなしで自由に飛び、自由に着陸できるのだからな……」

 実際、幾重にもなる連合国の爆撃に晒された末期ドイツでは、飛行場が強襲され待機していた航空機は壊滅。飛行場はぐちゃぐちゃに吹き飛ばされ離着陸所の騒ぎではなくなった。
 それでも連合国の爆撃機をなんとか迎撃しなければジリ貧であるドイツは垂直離着陸が可能な迎撃機、時代を先取りしたVTOL開発に着手した。

 もっとも、戦後アメリカでさえかなりの迷走を辿ったVTOL機開発は、末期ドイツでは資源や技術者、稼働可能な工場の不足などにより頓挫した。

 余談だが、そんな中、第二次世界大戦中に世界初の実用ジェット機を完成させ実践で戦果を挙げた帝国の技術力には目を見張るものがある。

「そう言うなら自力でちゃんと着地して欲しいものだな……。あのまま我が助けなければ死んでいたぞ」

「対空砲に機体の腹ごと足をぶち抜かれた俺を助けてくれたのは後部銃座に座っていたバディだ。飛行機乗りは信頼関係も大事だからな」

 父で言うアルガーのように、長年戦場を駆けた英雄たちには背中を預けられる戦友がいるものだ。

「我が一族はレオの強さを信頼しているのであって、そなたはまだ何も信頼してなどいない。信頼されたくば武勇を示せ」

「武勇を示す……? それは楽しそうな話だ」

 ルーデルは爆撃機で敵の戦闘機に勝つレベルのエースパイロットだ。それに実は戦闘機にも乗って戦っている。
 そんな彼とこの世界では最強格の種族竜人との戦い。正直、私も見たい。

「ルーデル、お前に良い知らせがある。この世界の魔法には治癒魔法ってのがあってだな、そいつは文字通り魔法みたいに怪我を治してくれるんだが……」

 ルーデルはそれに即答した。

「──早くそれを受けさせろ。次の任務が待っている」

「そう言うと思った」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 空軍創設は現段階のファリアにおける最大の軍事機密だ。帝国の所有するワイバーン竜騎兵がまともに使える代物か知らないが、恐らくこの世界で初となるまともな空戦を、これから仲良く生活しましょうと謳っている市民の前で見せる訳にはいかない。

 私たちは昼から、歳三、孔明と共に、山奥に暮らす竜人の元へとやって来ていた。

「空からの攻撃が厄介なモンだってのはこの前の戦争で嫌というほど身体に叩き込まれたが、空同士の戦いってのは初めて見るぜ」

「ええ、実に興味深いです……」

『Drachen Stuka』が解除され、軍服の背中にでかでかと穴を開けたルーデルを眺める。
 あれではなんとも格好がつかないので、翼が通るように特注の黒い軍服をルーデル用に用意させようと思った。その際に腕章や国章は我が帝国のものに改めさせて貰おう。

 などと考えているうちに、槍と装飾品を身に付け準備を終えたハオランが少し遅れてやって来た。

「──待たせたな人間。…………? そなた、得物は要らないのか?」

「残念ながらこの世界には機銃も愛すべき37mm機関砲もないからな。ならば新たな戦術を見出す他ないだろう」

 そう言うルーデルは心から楽しそうに笑っていた。





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