131 / 262
第二章
129話 帰路
しおりを挟む
明朝、私たちは多種にわたる亜人・獣人らに見送られながらエルフの森を後にした。
実際に彼らが私たちの元に来るのは、この国の皇帝が私たちが結んだ条約にサインをした後のことだ。
正直ここまで具体的に話が進められていて今更白紙撤回はないだろうが、帝国は皇帝が全てを統べる王として君臨しているため、彼の承諾なしで他国や他国民との関係を勝手に変えることはできない。
これがお隣ファルンホスト王国ならその庇護下にある諸国の外交にまで口を出さないだろうから、圧力こそあれど自由に動けるだろう。
そんなことも考えながら、一抹の不安と達成感を胸に私は予備の馬の上で揺られていた。
帰路は負傷者を多く抱えているため行軍速度こそ落ちるが一刻も早く領地に戻るべく、皇都には寄らずに最短距離で戻ることになる。
「レオ、やっぱり乗りなれてない予備の馬より馬車に乗った方がいいんじゃねェか?もう食料もなくなって空の荷馬車もあるんだし、むしろ乗った方が有効活用できていいと思うぜ」
歳三が私の方へ馬を寄せて来てそう言う。
「それでは格好が付かないだろ。それに空いた馬車には負傷者をできるだけ乗せた方がいい」
「……まるで分かってないようだからこの際ハッキリ言うぜ。生身で馬の上乗ってるより馬車の中の方が安全だし俺らも守りやすいからそうしてくれ」
「…………了解だ。どうせならなら孔明と同じ馬車に乗せてもらうことにしよう」
「はァ……」
歳三の発言の真意は、その言葉のままではないことは明らかだった。
どうしても歳三は私を休ませたいようだが、どの道夜は会議三昧である。昼から孔明と話し合っておけば夜は早く寝れるだろう。
私は行軍の列から外れ、後方を行く孔明の乗る馬車が到着するのを待った。
しばらくすると、私が横に突っ立っているのを見つけた御者が馬車を停めた。
不審がり馬車の窓から孔明が顔を覗かす。
「──悪いな孔明、仕事の時間だ」
「……ふむ」
孔明は私を一瞥すると、あまり歓迎しないような顔を羽扇で覆い隠した。
「何故ここに?」
「いや、歳三に追い出されてな。仕方なく馬車に乗せられることになったが、何もしないのもな。戦場で戦いが終わったのなら次は政治の場で戦わなければならない。それなら一分一秒とも無駄にはしたくない」
私がそう言おうとも、孔明は表情を変えようとしなかった。
「常在戦場の心持ちは感服致します。ですが時には羽を広げ、流れる景色と子鳥の囀りを楽しみ心を豊かにするのもまた、良き君主となるべく進む道ですよ」
「しかし──」
「そうして見た景色、感じた思い。それを民たちに広げることがあなたの務めなのですから」
私の言葉を遮るように孔明は言葉を続けた。
これは私が何を言っても駄目そうだ。
「……わかったよ」
私が渋々そう言うと、孔明は黙って笑いながらうんうんと二回頷き、馬車を出すよう御者に指示した。
私は再び列を外れ、ほとんど最後方の荷馬車の一つに乗せてもらおうと兵士に声をかけた。
「これの荷馬車は空のようだな。すまないが私を乗せてもらえないだろうか」
「れ、レオ様!?なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!──それにレオ様であればこんな荷馬車ではなく、客車のついたちゃんとした馬車にお乗りになれば……」
「まぁ色々あるのだ。私としてはこれで一向に構わないので、問題がなければ乗せて欲しい」
兵士らは戸惑いを隠せない様子で互いに顔を見合わせる。
しかし自分の一番トップの上司からそう直々に言われれば、断ることはできないだろう。
「そこまで仰られるのであれば……。ですが乗り心地は決していいものではありませんよ……」
「大丈夫だ。たまにはそんな気分の時もあるのだ」
部下に気を使われ追い出されたなどとは口が裂けても言えない私は、支離滅裂な言い訳をしながら荷馬車の冷たい板の上に乗り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
来る時は戦場へ向かう緊張感と、何度も行った綿密な打ち合わせにピリついていたため気が付かなかった景色が見れた。
エルフの森やそれに続く亜人・獣人の国々は自然豊かで、帝国とはまた植生も住む生物たちも全然様相が違っていた。
晴れた穏やかな天気の日は荷馬車を覆う布を捲し上げて、流れる景色を楽しんだ。
雨の日は特にすることなくガタガタと揺れる床に布を広げ、頭を打ち付けながら無心で時間が過ぎていくのを待った。
普段領地では自室に籠りきりで仕事中毒であると兵士の間でも話題だったらしい。
惚けた私の様子を見て戦争で気でも触れたのかと心配したか、無言で上司と過ごす日々に気まずくなったのか、御者の兵士は入れ替わりで私に話しかけてくるようになった。
歳三率いる私専門の護衛の兵士や屋敷の警備兵などとは言葉を交わすこともあるが、こうした末端の一般兵と話をするなどというのはある意味貴重な体験となった。
武器を持って前線で戦う兵士は職業軍人であるのに対し、こうした後方勤務の御者などは普段は農民として生計を立てている徴兵された人々であることが多い。
そんな彼らとの会話では民たちがどのような生活をしているのかといった話から、生活が豊かになったと私に感謝する者もいて、励まされた気持ちになった。
もっとも、ただ気を遣われているだけかもしれないが。
ただこんな後方に押し込まれたものだから、毎晩開かれているであろう会議に参加すらできなかった。
先頭にいる兵士が野営地を築き、中央にいる孔明らが会議を始める頃、私はまだ荷馬車で揺られている。
着いた頃には既に先頭から出発していて会議などとっくに終わっているのだ。
そんなこんなで、孔明の巧妙な策により約半月もの休暇を強制的に取らされながら、私たちは無事に生きてウィルフリードまで帰ってこれたのだった。
実際に彼らが私たちの元に来るのは、この国の皇帝が私たちが結んだ条約にサインをした後のことだ。
正直ここまで具体的に話が進められていて今更白紙撤回はないだろうが、帝国は皇帝が全てを統べる王として君臨しているため、彼の承諾なしで他国や他国民との関係を勝手に変えることはできない。
これがお隣ファルンホスト王国ならその庇護下にある諸国の外交にまで口を出さないだろうから、圧力こそあれど自由に動けるだろう。
そんなことも考えながら、一抹の不安と達成感を胸に私は予備の馬の上で揺られていた。
帰路は負傷者を多く抱えているため行軍速度こそ落ちるが一刻も早く領地に戻るべく、皇都には寄らずに最短距離で戻ることになる。
「レオ、やっぱり乗りなれてない予備の馬より馬車に乗った方がいいんじゃねェか?もう食料もなくなって空の荷馬車もあるんだし、むしろ乗った方が有効活用できていいと思うぜ」
歳三が私の方へ馬を寄せて来てそう言う。
「それでは格好が付かないだろ。それに空いた馬車には負傷者をできるだけ乗せた方がいい」
「……まるで分かってないようだからこの際ハッキリ言うぜ。生身で馬の上乗ってるより馬車の中の方が安全だし俺らも守りやすいからそうしてくれ」
「…………了解だ。どうせならなら孔明と同じ馬車に乗せてもらうことにしよう」
「はァ……」
歳三の発言の真意は、その言葉のままではないことは明らかだった。
どうしても歳三は私を休ませたいようだが、どの道夜は会議三昧である。昼から孔明と話し合っておけば夜は早く寝れるだろう。
私は行軍の列から外れ、後方を行く孔明の乗る馬車が到着するのを待った。
しばらくすると、私が横に突っ立っているのを見つけた御者が馬車を停めた。
不審がり馬車の窓から孔明が顔を覗かす。
「──悪いな孔明、仕事の時間だ」
「……ふむ」
孔明は私を一瞥すると、あまり歓迎しないような顔を羽扇で覆い隠した。
「何故ここに?」
「いや、歳三に追い出されてな。仕方なく馬車に乗せられることになったが、何もしないのもな。戦場で戦いが終わったのなら次は政治の場で戦わなければならない。それなら一分一秒とも無駄にはしたくない」
私がそう言おうとも、孔明は表情を変えようとしなかった。
「常在戦場の心持ちは感服致します。ですが時には羽を広げ、流れる景色と子鳥の囀りを楽しみ心を豊かにするのもまた、良き君主となるべく進む道ですよ」
「しかし──」
「そうして見た景色、感じた思い。それを民たちに広げることがあなたの務めなのですから」
私の言葉を遮るように孔明は言葉を続けた。
これは私が何を言っても駄目そうだ。
「……わかったよ」
私が渋々そう言うと、孔明は黙って笑いながらうんうんと二回頷き、馬車を出すよう御者に指示した。
私は再び列を外れ、ほとんど最後方の荷馬車の一つに乗せてもらおうと兵士に声をかけた。
「これの荷馬車は空のようだな。すまないが私を乗せてもらえないだろうか」
「れ、レオ様!?なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!──それにレオ様であればこんな荷馬車ではなく、客車のついたちゃんとした馬車にお乗りになれば……」
「まぁ色々あるのだ。私としてはこれで一向に構わないので、問題がなければ乗せて欲しい」
兵士らは戸惑いを隠せない様子で互いに顔を見合わせる。
しかし自分の一番トップの上司からそう直々に言われれば、断ることはできないだろう。
「そこまで仰られるのであれば……。ですが乗り心地は決していいものではありませんよ……」
「大丈夫だ。たまにはそんな気分の時もあるのだ」
部下に気を使われ追い出されたなどとは口が裂けても言えない私は、支離滅裂な言い訳をしながら荷馬車の冷たい板の上に乗り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
来る時は戦場へ向かう緊張感と、何度も行った綿密な打ち合わせにピリついていたため気が付かなかった景色が見れた。
エルフの森やそれに続く亜人・獣人の国々は自然豊かで、帝国とはまた植生も住む生物たちも全然様相が違っていた。
晴れた穏やかな天気の日は荷馬車を覆う布を捲し上げて、流れる景色を楽しんだ。
雨の日は特にすることなくガタガタと揺れる床に布を広げ、頭を打ち付けながら無心で時間が過ぎていくのを待った。
普段領地では自室に籠りきりで仕事中毒であると兵士の間でも話題だったらしい。
惚けた私の様子を見て戦争で気でも触れたのかと心配したか、無言で上司と過ごす日々に気まずくなったのか、御者の兵士は入れ替わりで私に話しかけてくるようになった。
歳三率いる私専門の護衛の兵士や屋敷の警備兵などとは言葉を交わすこともあるが、こうした末端の一般兵と話をするなどというのはある意味貴重な体験となった。
武器を持って前線で戦う兵士は職業軍人であるのに対し、こうした後方勤務の御者などは普段は農民として生計を立てている徴兵された人々であることが多い。
そんな彼らとの会話では民たちがどのような生活をしているのかといった話から、生活が豊かになったと私に感謝する者もいて、励まされた気持ちになった。
もっとも、ただ気を遣われているだけかもしれないが。
ただこんな後方に押し込まれたものだから、毎晩開かれているであろう会議に参加すらできなかった。
先頭にいる兵士が野営地を築き、中央にいる孔明らが会議を始める頃、私はまだ荷馬車で揺られている。
着いた頃には既に先頭から出発していて会議などとっくに終わっているのだ。
そんなこんなで、孔明の巧妙な策により約半月もの休暇を強制的に取らされながら、私たちは無事に生きてウィルフリードまで帰ってこれたのだった。
17
あなたにおすすめの小説
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる