英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
129 / 262
第二章

127話 叱咤

しおりを挟む
「すまない孔明、私は少々疲れたので本陣に戻る。夜にまた話そう」

「はい、それではまた夜に……。それではここでの交渉はどうしますか?」

「私の許可は要らない。孔明が必要だと思ったら書面に残して代わりにサインしておいてくれ。決定権は預ける」

「了解致しました」

「後のことは頼んだ」

 会議場に立ち寄り孔明にそう言い残し、私は本陣に向かった。
 その様子を見ていた兵士が私の護衛につこうと慌てて準備し始めたが、一人で静かに考えたかった私は断り、馬に乗ってゆっくりと歩き始めた。




「お、随分とお早いおかえりだな」

「ああ。孔明に任せて私の仕事は終わりだ。──それで、軍の撤収準備はどうなっている?」

「いつでも出発できるぜ。他の貴族の軍も次々と撤収している」

 戦場に長居するだけ兵糧の無駄だ。終戦の条約も結ばれ軍の存在意義がなくなった今、できるだけ早く帰った方がいい。

「それじゃあ父上と相談して我々も撤収しよう」

「おう」

「悪いが私は少し休ませてもらう。……夜孔明が戻ってきたら三人だけで話がしたい」

「分かったぜ」

 私は歳三に別れを告げると、本陣に設けられた私の仮設ベットに寝転んだ。

 これを多様するほどの長期戦にならなくて良かった。そうなればより大勢の人々が死んだだろう。

 大丈夫。私のしていることは間違っていない。

 救えない人がいても、私の死を望む人間がいても、皆の期待を背負っている私は決して負けてはならない。
 この平和な世界を作るため、私は戦い続けなければならない。

 大丈夫。
 私はまだ戦える。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「──おーい、……そろそろ起きろレオ!孔明が戻ってきたぜ」

「…………ああ。……すまない、こんなに深く眠るつもりはなかったんだがな……」

 私は重たい体を無理やり起こす。

「護衛の兵にも離れるよう頼んだ。人払いは済んでるぜ」

「それで、内密のお話とはなんでしょうか」

「ああ、そのことなんだが──」




 私は転生者の真実。このただの魔石と思っていた「暴食龍の邪眼」と呼ばれる宝珠のこと。

「──ほーん。ま、俺がいるから大丈夫だろ」

「そうですね。確かに考慮すべき事項は増えましたが大きな問題ではありません。心配には及びませんよ」

 微笑を浮かべながら私の不安をそう言い退ける二人は、まさに英雄の風格であった。

「戦争なんてやってるのに、今さら命の心配なんてするだけ無駄だぜ。ここでおっかなびっくり立ち往生するより、お前はさっさと平和な世界に向けて走り続けた方が安全だ」

「歳三の言う通りです。それにレオの周囲の人間は思ったよりずっとレオのことを信頼していますよ。だからレオも皆を信頼してあげてください。……義こそ人々を絆で結びつけるのです」

「そ、そうだろうか……」

 私の力ない返事に、歳三は笑いながら私の肩をバンバンと叩く。

「人虎族の族長を一騎討ちで倒したお前を殺そうだなんて簡単に思う奴はそうそう居ねェぜ!」

「それに人を見る目、という意味では私以上に心強い存在がいるかと」

「母上か……。そうだな。私はもう少し周りを頼って生きていこう」

 戦争で人が死んでいく姿を見ると、どうしても心が沈んでしまう。
 きっとこの心配も私がいつも繰り返す杞憂に過ぎないのだろう。




「──あぁ、心強い存在で思い出した。これを見てくれ」

 私は袖を捲りブレスレットを二人に見せた。

「お、それはさっきから気になっていたんだ。次の『英雄召喚』に必要な魔力が貯まったんだな」

「どうやらそうらしい。ハオランが言うには呪われた力らしいが、私にはどうしても必要だ」

「成程。遂に私もレオのスキルとやらを目の当たりにすることができるのですね」

 孔明は嬉しそうに笑う。

「実は次の英雄はもう決めている」

「前はあんなに悩んでいたのに、もう決まったのか?」

「ああ。以前から考えていたのもあるが、今回の竜人、そして孔明の戦法を見て最終決定に至った」

「そうですか。お役に立てたのなら光栄です」

 わざとらしく深々と頭を下げる孔明の肩を叩き、顔を向けさせる。

「それで、亜人・獣人たちとの交渉はどうなった?」

「首尾よく終わりました。概ね計画通りですが、少々人気を集めすぎたかもしれません」

 孔明は袖の奥から紙を取り出し、私たちの前に広げてみせる。

「……なるほどな。竜人と蜥蜴人はセットで付いてきてしまうのか」

 しかし彼らが好む沼地はファリア周辺にはない。
 彼らの生態は知らないが、川辺でも水があれば大丈夫とかなのだろうか。

「こちらはリーンとウィルフリード共同の元、人狼族と、その眷族という言い方をしていましたが、犬頭コボルト族もあの森に住むそうです」

「それは森が賑やかになるな。……しかしそうなってくると森もただの森ではなく名前をつけた方が良くなってくるな」

「冒険者たちの間ではなんか名前があったはずだぜ。……今は思い出せねェが」

「まあ、それは追々人狼らと冒険者両方の意見を聞いて決めよう。──それで、この猫人族ってのは初めて聞いたがなんなんだ」

 亜人はエルフやドワーフなど種類が限られているから何となく分かるものの、獣人は狼と犬だとか、竜と蜥蜴だとかマイナーチェンジレベルのバリエーションが豊富で覚えきれてない。
 少なくとも戦場には出てきていないはずだ。

「そちらは人虎族がウィルフリードに所属するそうで、代わりに猫人族がファリアに来ることになりました。人虎に何か言われてこちらに来たようですが、特段戦闘力が高い種族でもなく毒にも薬にもならない様子でしたので、とりあえず名前だけ書いて頂きました」

代わり・・・と言われてもさっぱり経緯が理解できないが、まあいいだろう。……しかしこれだけ我々の勢力下にばかり集中してしまっては周囲からの反発も大きそうだな」

 それに財政面でも一地方領主が抱えていい人数を超えている。その辺は孔明が担当していてこのような結果を持ってきたので大丈夫なのだろうが、仮にこの規模を支えられるとなれば経済圏としても相当なものになるだろう。

「諸侯との調整は私の得意分野です。お任せしてくだされば全て上手く事を運んでみせましょう」

 自信たっぷりといった表情で孔明は不敵な笑みを羽扇の下に浮かべる。

「分かった。それでは孔明は軍師としての任を解き、再び本領である政治に専念して貰おう。一応周辺の貴族たちが変な気を起こさないとも限らないので、歳三は軍事部門担当としてまたファリアの警備を頼んだ」

「了解致しました」
「おう。任せろ」

「それでは明日か明後日にでも帰還するよう調整しておいてくれ。朝も急がなくていい。今日はゆっくり休もう」

 そうして私たちは戦地での最後の静かな夜を迎えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...