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第二章

125話 説明会

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 調印が済んだ条約の用紙はウィリーが回収し、彼の部下や隷下の帝国軍による厚い護衛の元、皇帝のいる皇都へ向けて出発した。

 その後会場は中央の机が撤去され、いくつかの小さなテーブルと料理が用意された。

 当初は親睦会を予定していたため、貴族用に運ばれていた比較的良い食材と酒が振る舞われている。
 しかし誰も料理や酒はそっちのけに、帝国貴族は自らの領地の魅力を売り込み、亜人・獣人たちはその話を真剣に聞き入った。

「──という訳です。……私の領地はこのような条件での受け入れを予定していますが、是非他の領地とも比較して皆さんがより良いと思う方を選んでください」

「いや俺たちはもうレオさんの所しか考えられねぇ!」

「こ、困ったな……」

 先ほどの演説が効いたのか、私の元には多くの族長が詰めかけた。
 しかしこれでは平等な競争とはいえず、後から他の貴族らとの摩擦が生じかねない。

「レオ君、この場で私たちで全てを決めるのは無理だよ。はやり文官や本陣に残る他の貴族たちにも声を掛けないか?」

「ミドラ殿のご意見よく分かります。ですが私としてはそのような詳細は決定は、正式な書類を通して全ての貴族と全ての族長らのやり取りをと考えていたのですが……」

「いや、今のうちにできるだけやっておこう。その方が彼らにとっても良いだろう。そして私たちにとっても・・・・・・・・。「善は急げ」とは、言い得て妙な先ほどの君の言葉だったな」

 デアーグは不敵な笑みを浮かべる。

 つまりは利権の独占ということだ。また派閥政治の話になって面倒だが、戦地にいる実力派貴族らだけで先にの亜人・獣人らとの協定を結んでしまおうというのだ。

 私は父の方を見る。
 獰猛な種族の獣人らの相手をしていた父は私の視線に気付くと、何かを察したらしくただ黙って頷いた。

 私は政治に疎い。更には歳もまだ若く所詮地方領主であり権力などほとんどない。中央への影響力など皆無だ。
 むしろヘクセルの引き抜きや、未成年でありながら領主就任の特例など、中央での印象はかなり悪いだろう。
 ヴァルターの私を見る冷たい目が懐かしい。

「……そうですね。それでは兵士を向かわせて可能な限りの貴族を集めましょう……」

「──君!そう、そこの君だ!至急本陣に戻って他の貴族や文官らもこっちに来るように呼び掛けてきてくれ!──そして君たちは椅子や机を大量に運んできてくれるか。この会場だけでは足りなくなる」

「り、了解しました!」
「すぐに用意します!」

 ミドラは天幕の入口から顔を出し外の兵士に指示を飛ばす。

「できれば亜人・獣人たちにも集められるだけ集まって欲しいのだがな……?」

「そ、そうですね……。──ハオラン、呼んできて貰えないか?」

蜥蜴人リザードマンと我々が同じ席に着くというのか?」

 ハオランは露骨に嫌な顔をする。

「何か不満があれば他の場所や機会を設けよう。私はそんな性急に全てを今すぐ決めるつもりはない」

「それがいい。……戻ったら二人だけで話がしたい」

「……?わ、分かった」

 私は一抹の不安を抱えながらも肯定の意を示す。

「では他の種族の族長らも呼んでくるよう、我が同族に頼んでこよう」

 ハオランは満足そうな顔で私の肩を叩き飛び立っていった。










 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ハオランが戻ってくるのとほぼ同時に、本陣で待機していた貴族らと大量の文官が到着した。その中には私の文官として孔明の姿があった。

 戦地にいる文官は行政事務を行うような人物ではなく、兵糧やその他物資などの割り振りや戦争計画を立てる参謀がほとんどだ。
 だが幸いにも(?)孔明は歴史上でも有数の政治家である。素人の私は潔く身を引いて全て引き継いで貰おう。

「孔明、話は既に聞いているかもしれないが、計画通りに条約が成立した。私は席を外すので後の詳しいことは一任する」

「ふふ、我が君の躍進に我が身も震える程の喜びを感じております。……必ずやご期待に応える働きを見せましょう」

 孔明は袖の中で腕を組み、皆の前で大袈裟に深々と頭を下げた。

「それでは皆さん、私の代理としてこの孔明という男を置いていきます。今後の詳細は彼から説明を聞いてください」

 私はそう言い残し、ハオランの待つ離れた木陰へと向かった。




「すまない待たせた」

「いや、よい」

 ハオランは腕を組み、大木に背を預けながら目を瞑って私のことを待っていた。

「それで、話ってなんだ?」

「──そのブレスレット、……いや、その宝珠はどこで手に入れた?」

「ん……?」

 ハオランに言われ、私は袖を捲りブレスレットを確認する。
 中央に埋め込まれた魔石は淡い光を放ちながら輝いていた。どうやら次の『英雄召喚』に必要な魔力がいつの間にか貯まっていたらしい。

「あぁ、これは私が十歳の誕生日に母からプレゼントされたものだが──」

「それの力を知っているのか」

 ハオランは私の言葉を遮り、その巨体で私に迫ってくる。

「ど、どうしたハオラン……?少し怖いぞ……」

「いいから黙って答えろ」

 威圧的なその力の籠った声に、私はたじろいだ。額にはじんわりと不快な汗が浮かぶ。

「こ、これは魔力を貯める特別な魔石なんだ……。詳しくは言えないんだが私のスキルを使うには膨大な魔力が必要なんだが、私には魔力がない。だからこの魔石を身につけている必要があるんだ……」

「放っておけば魔力が勝手に貯まる魔石だと思っているのか?」

「……?ち、違うのか……?」

「…………。そうか。知らないんだな……」

 ハオランはため息を吐くと、重たそうな口を開いた。

「その宝珠は『暴食龍の邪眼』。死するものの体から零れ落ちる魔素を吸収し所持者に与えるのだ」

 ゲームでいう経験値システムの具現化のような感じか……?

「そしてそれは例え味方を殺しても魔素を集め魔力として所持者に渡す」

「味方を殺しても……?」

「ああ。だからこれを持った者は敵味方問わずに虐殺を行い、大魔法を発動させる生贄とするのだ。だからその宝珠は持つものを狂わせる、呪いの装備として竜人の間では言い伝えられている」

 確か伝説や御伽噺の中で、ドラゴンは自らの命を削りながら『原始の魔法』とやらの強大な大魔法を使うと聞いたことがあるが……。

「しかしこれがなければ私は能力を使えない……」

「……レオ、お前は転生者ではないか」

 衝撃的な詰問に、私の心臓が一瞬止まりかけるほどびくりと唸りをあげた。
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