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第二章

122話 集いし勇士

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 会場内は中央に大きな円形の机が置かれており、その周囲を囲うように座席が用意されていた。
 ウィリーの部下の文官が机の上に、正式な書類を作るための紙や羽根ペン、帝国の紋章が彫られた金印などを配っている。

 入って左側に帝国貴族たちは座っており、奥から順番に爵位の高い貴族であった。
 しかしながらこの場を取り仕切る事になった私は、最年少の上この中では最も低い侯爵の位でありながら一番奥の上座が空けられていた。

 新興貴族の部類に入る父は、公爵の中でも二番目に末席に座っている。そんな父を横目に、私は気まずい雰囲気の中上座に座った。

 しかしハオランは躊躇する素振りも見せず私の隣、つまり亜人・獣人側の中で一番の上座である。
 ハオランがかつて、我ら竜人こそ最も偉大な種族だ、と豪語していただけある堂々の立ち振る舞いだ。いやそもそも彼らに帝国の礼節の流儀を押し付けるのが間違いで、単に何も考えず順番に詰めて私の横に座っただけかもしれないが。




 少しすると続々と他の種族の族長たちも集まってきた。
 初めに森の中での機動力に優れるエルフや人狼族、遅れて戦闘では見なかったドワーフや妖狐族の族長も来た。

 妖狐族の族長としてはヒュウガが来ると思っていたが、代わりに代表としてシラユキが来たので私は少し驚いた。
 私の姿を見たシラユキは純白の着物の袖を軽く降りながら、私に会釈をする。

 最後に会場に入ってきたのは人虎族の族長。つまりリカードだ。
 たすき掛けに包帯を巻いた彼は私を一瞥すると、バツが悪そうに私から一番遠い席に腰掛けた。

 そんなリカードの様子を見て帝国貴族の面々も、私が口だけではなく確かにあの人虎族の族長を斬り伏せたのだと確信し、私を見る目つきが信頼に満ちたものへと明らかに変わった。

「これで全員が揃った」

 それと同時にハオランはリカードが着席するのを見て私にそう言った。

「少し少なくないか……?」

「我々からは上位種のみが参加している。例えば我ら竜人は蜥蜴人リザードマン族の代表も兼ねている。そうでないととても話が纏まらないほどの膨大な頭数が集まってしまうのでな」

「なるほど理解した。……それでは会議を始めようか」

 私はその場で立ち上り、息を吸った。

「これよりプロメリア帝国と亜人・獣人諸国間に結ぶ協定に関する会議を行う!」





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「進行はプロメリア帝国ファリア領領主、レオ=ウィルフリードが執り行わせて頂く!尚、本来は事前に綿密な打ち合わせを持ってして国家間の協定を結ぶのだが、今回は停戦協定も兼ねての会議ということなので本日初めて帝国側から提案をするという形になることを承諾して頂きたい」

 私は帝国貴族の方を見る。当然彼らは頷き肯定の意を示した。

 次に族長らの方を見る。ハオランやシラユキといった一部の族長は頷いてくれたが、他は腕を組み俯いたり無言で目を閉じたまま微動だにしない様子だった。

「……反論はない、ということで進めさせて頂いてもよろしいだろうか?」

 私がそう念押ししても動かないようなので、多少の不安は残るが本当にそのまま進めることにした。

「……それでは円滑に会議を進めるため、まず各人の所属など自己紹介をお願いしたい──」




「──人虎族族長……、リカード=ティーゲルだ……。よろしく……」

 帝国側から順番に自己紹介を行い、最後はリカードの弱々しい挨拶で締めくくられた。

「御協力頂き感謝申し上げる。……それでは本題に移ろう。この度の戦争の終止符として帝国からは同盟という形で新たな関係を築きたいと考えている」

 大将がやられるという事実上の敗北に近い形で終わったにもかかわらず、私の口からは併合などという厳しい文言ではなく対等な立場である同盟という言葉が飛び出し、ふっかけられると思っていた亜人・獣人側の族長らからは困惑の声が漏れた。
 事前に話を通した帝国側とシラユキはもちろん、私が直談判を行った際に居合わせたハオランやリカード、人狼族の族長らこのことを知る人物は表情を変えず続く私の言葉を待つ。

「帝国は地理的な要因から対魔王領への対処を他国より多く費用を費やしている。仮に、……いやそのようなことは決して起こり得ないが、帝国が魔物やモンスターに敗れるようなことがあれば大陸全土に危険が及ぶ。ついては対魔王領に関する手伝いをして欲しいのだ。……かつて帝国の先帝が諸君らと手を取りあったように」

 帝国が求める亜人・獣人の軍事力。出来れば帝国の上層部が強制的に徴兵することは避けたい。
 ここで私が協力という形式で持っていけば、双方にとって受け入れやすいだろう。

「その点については我々も同意する。我らが住む竜の谷も魔王領に接しているのでな。加えて近年はやたらと奴らも動きを強めている。個々で対処するよりそれぞれの種族が特性を活かし、集団で挑んだ方が良いだろう」

 真っ先にハオランが同意を示してくれた。

「魔物をどうにかしたいってのは俺らも賛成だ。……だがそれよりも俺らは生活がどうなるか心配している。住む場所、食べ物、家族はどうなるのか。それが分からないうちは共に戦うなどとは簡単に言えんよ」

 人狼族の族長ベアリア=ウォルフは自嘲気味に片側の口角を上げながらそう呟く。

 最もな意見だ。
 先帝の意思を裏切り、一方的な攻撃を仕掛け彼らの生活を苦しめた帝国はその責任を取らなければならない。

 しかし、帝国民全員が責任を感じるかと言うと、それは難しい問題だ。実際、私は先帝との同盟とやらを知らなかった。

 それもそのはずであり、既に現皇帝が即位して四十余年が経ち先帝の偉業は風化しつつある。
 通常、新たな皇帝は支持を集めるため先代の悪い点を強調し功績は隠す。加えて侵略の正当性を持たせるため、国民にはかつて仲良くしていたなどという事実は早く忘れて欲しいだろう。

 更に悪いことには結局あまり亜人・獣人たちは帝国内の生活に馴染めていなかった。
 帝国が人間の国とはいえ、私がエルフや竜人といった亜人や人狼や人虎といった獣人を見たことがなかったのがその証拠だ。

 この溝を埋め、帝国民と亜人・獣人が軍事分野だけでなく他の分野でも共存できる社会作りが必要なのである。

 国と国が結ぶのだから当然なのだが、国家規模の改革が求められるこの単純でありながら複雑な要求に、私はどう応えるべきなのか。
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