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第二章
103話 作戦開始
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「それでは皆の者、訓練通りの布陣を組むのだ!」
「はッ!」
道中、孔明と父が中心となって考えた、ウィルフリード&ファリア混成軍の布陣。
最強と謳われるウィルフリード陸軍を前面に出し、後方から手数と射程に優るファリアの特殊兵器部隊が援護する形だ。
「本当に我々もここで良いのですか?」
「はい。私たちはここで力を温存しておく必要があります」
私の右には団長、左に歳三、後ろにタリオ。そして私を中心として、周囲を近衛騎士団で固められている。これも孔明の指示だ。
孔明は後方で総指揮を、かなり前方では父が前線の指揮している。
兵士たちの戦意は旺盛だ。遥々帝国の西から東の果てまで行軍してきたのだ。元より戦いに慣れ、いち早く武功を立てようと意気込む兵士たちは、その時を待ちきれないと言わんばかりに互いを激励し合う。
そんな彼らが織り成す布陣はすぐさま完成された。
「全軍、前進開始!!!」
初めて聞いた孔明の全力の叫びに若干驚いたが、それ以上にいよいよ一か八かの特攻作戦が始まるのだと思うと、思わず身震いした。
軍は本陣のある少し開けた草原を発ち、敵の潜む密林へと足を踏み入れる。
そして戦闘が始まった。それは一本の弓矢だった。
「うグッ!」
十メートル以上ある木の上から放たれた矢は、後ろから見ている私でさえ分かるほど大きかった。そしてそれは最前列で盾を構えるウィルフリード兵の胸を射抜いたのだ。
「前列の兵は上向きに盾を構えろ!既に敵は頭上に回っている!」
父の声が聞こえた。この距離でも私まで聞こえるのは、ヘクセルが開発した拡声器の役割を果たす魔道具のおかげだ。
これは各部隊の隊長レベルの人間にまで配備されており、指示が速やかに伝わる。
こうして父の指示を聞いた兵士は素早く行動に移す。
しかし、降り注ぐ矢の雨は盾の隙間を縫って重装の兵士たちを森の養分へと変えていった。
「弓兵!前方の気に向けて斉射するのです!」
孔明の号令に合わせて、後方からヒュン!と大量の矢が空を切る音が聞こえてきた。
葉の生い茂る所へと吸い込まれていった矢の代わりに、ボトボトと敵兵が落ちてくるのが見えた。
普通の弓では届かない距離だが、弩であれば人を殺傷するに十分なだけのエネルギーを残して到達できるようだ。
「前方から敵の歩兵部隊と見られる集団が接近!」
「歩兵は抜剣せよ!獣人は一人一人が強力だ!数的有利を作り出すんだ!」
本当はまだ戦う予定のない父も、『魔剣召喚』を使い剣を装備しているようだった。
「連弩砲、全て撃ち尽くしなさい!」
連弩砲。それは荷馬車に積まれた固定式の大型の弩だ。一度に約五十発もの巨大な矢を撃ち出す。
放たれた矢は私たちの頭上を通り、地面に大きな影を落として遥か彼方の敵歩兵集団へと命中した。
機械仕掛けなだけあってその射程は弩すら上回る。
「魔導師の射程に入ったぞ!攻撃開始!」
「弩兵は引き続き木の上へ攻撃!連弩兵と弓兵は前線の援護です!」
それでも、死体の山を掻き分け、敵は我が軍と衝突した。
獣人の力は圧倒的だった。人間があれ程まで軽々しく投げ飛ばされる様子を私は初めて見た。
かと言って前だけ見てもいられない。いくら手数で押そうとも、やはり森を熟知したエルフたちは場所を変えながら木の上から攻撃を仕掛けてくる。
弩の残弾がなくなる前に全てのエルフを撃ち落とすのは不可能だ。
「ウァァァァ!!!」
「誰か!援護してくれ!」
「腕が!俺の腕がァ!!!」
獣人らは自ら生まれ持った武器である牙や爪を使い、か弱い人間を蹂躙していった。
「クソ!本当に見ているだけで良いのですか!?我々が今攻撃を仕掛ければ!」
団長は剣を抜く。それを見て周囲の近衛騎士たちも一斉に剣を抜く。
「落ち着け──」
「しかし!」
「落ち着け、レオ」
突然、びっちりと馬を寄せてきた歳三に顔を掴まれた。そうして初めて気がついた。私はいつの間にか唇を強く噛み締めており、顎まで血が流れていたのだ。
「……帷子の上にジャケットとは、お洒落だな歳三」
「おう。レオの鎧姿も悪いもんじゃないぜ」
私は僅かばかりの冷静さを取り戻した。私の仕事は悔しがることじゃない。
「総員!魔道具は惜しみなく使え!試作品とはいえその威力は十分だ!」
私の言葉にその存在を思い出した兵たちは、一斉に腰に着けた球体を敵に投げつけた。
次の瞬間、玉が爆発したと思ったら、今度は赤とエメラルドグリーンに輝き、更なる大爆発を生み出した。
それは二メートルを超える体格を誇る獣人を一撃で屠れるほどの威力だった。
「ヘクセルはとんでもない兵器を生み出しちまったようだな……」
新兵器の正体は手榴弾だ。これは私のアイデアとヘクセルの想像力の産物である。
手榴弾が敵にぶつかり衝撃が加わると、まず火薬と火の魔石の粉を混ぜた炸薬が爆発する。これは魔石同士がぶつかると暴発する特性を活かした着火システムである。
そしてこの爆発により、中心に仕込まれた中程度の大きさの風と火の魔石がぶつかり合いながら飛び出し、例の如く魔力暴走を引き起こし大爆発。
風と火の魔法を組み合わせると大爆発になるのは、爆裂魔法の原理である。
従って爆裂魔法は二属性を操る才能を持つ人物だけが使えるのだが、この手榴弾は誰でもそれを可能にしている。火薬の実戦試験でありながら、まさに革命的な発明である。
「敵部隊、撤退していきます!」
「この調子だ!責め続けろ!」
こうして数々の新兵器の脅威にさらされ、敵は一時撤退を余儀なくされた。
「連弩と連弩砲の装填急げ!」
「騎馬隊は敵の背中を斬り刻め!追撃せよ!」
「──な、何とかなったのか……?」
団長は初めて見る我々の戦いぶりに唖然としている。
「はッ!」
道中、孔明と父が中心となって考えた、ウィルフリード&ファリア混成軍の布陣。
最強と謳われるウィルフリード陸軍を前面に出し、後方から手数と射程に優るファリアの特殊兵器部隊が援護する形だ。
「本当に我々もここで良いのですか?」
「はい。私たちはここで力を温存しておく必要があります」
私の右には団長、左に歳三、後ろにタリオ。そして私を中心として、周囲を近衛騎士団で固められている。これも孔明の指示だ。
孔明は後方で総指揮を、かなり前方では父が前線の指揮している。
兵士たちの戦意は旺盛だ。遥々帝国の西から東の果てまで行軍してきたのだ。元より戦いに慣れ、いち早く武功を立てようと意気込む兵士たちは、その時を待ちきれないと言わんばかりに互いを激励し合う。
そんな彼らが織り成す布陣はすぐさま完成された。
「全軍、前進開始!!!」
初めて聞いた孔明の全力の叫びに若干驚いたが、それ以上にいよいよ一か八かの特攻作戦が始まるのだと思うと、思わず身震いした。
軍は本陣のある少し開けた草原を発ち、敵の潜む密林へと足を踏み入れる。
そして戦闘が始まった。それは一本の弓矢だった。
「うグッ!」
十メートル以上ある木の上から放たれた矢は、後ろから見ている私でさえ分かるほど大きかった。そしてそれは最前列で盾を構えるウィルフリード兵の胸を射抜いたのだ。
「前列の兵は上向きに盾を構えろ!既に敵は頭上に回っている!」
父の声が聞こえた。この距離でも私まで聞こえるのは、ヘクセルが開発した拡声器の役割を果たす魔道具のおかげだ。
これは各部隊の隊長レベルの人間にまで配備されており、指示が速やかに伝わる。
こうして父の指示を聞いた兵士は素早く行動に移す。
しかし、降り注ぐ矢の雨は盾の隙間を縫って重装の兵士たちを森の養分へと変えていった。
「弓兵!前方の気に向けて斉射するのです!」
孔明の号令に合わせて、後方からヒュン!と大量の矢が空を切る音が聞こえてきた。
葉の生い茂る所へと吸い込まれていった矢の代わりに、ボトボトと敵兵が落ちてくるのが見えた。
普通の弓では届かない距離だが、弩であれば人を殺傷するに十分なだけのエネルギーを残して到達できるようだ。
「前方から敵の歩兵部隊と見られる集団が接近!」
「歩兵は抜剣せよ!獣人は一人一人が強力だ!数的有利を作り出すんだ!」
本当はまだ戦う予定のない父も、『魔剣召喚』を使い剣を装備しているようだった。
「連弩砲、全て撃ち尽くしなさい!」
連弩砲。それは荷馬車に積まれた固定式の大型の弩だ。一度に約五十発もの巨大な矢を撃ち出す。
放たれた矢は私たちの頭上を通り、地面に大きな影を落として遥か彼方の敵歩兵集団へと命中した。
機械仕掛けなだけあってその射程は弩すら上回る。
「魔導師の射程に入ったぞ!攻撃開始!」
「弩兵は引き続き木の上へ攻撃!連弩兵と弓兵は前線の援護です!」
それでも、死体の山を掻き分け、敵は我が軍と衝突した。
獣人の力は圧倒的だった。人間があれ程まで軽々しく投げ飛ばされる様子を私は初めて見た。
かと言って前だけ見てもいられない。いくら手数で押そうとも、やはり森を熟知したエルフたちは場所を変えながら木の上から攻撃を仕掛けてくる。
弩の残弾がなくなる前に全てのエルフを撃ち落とすのは不可能だ。
「ウァァァァ!!!」
「誰か!援護してくれ!」
「腕が!俺の腕がァ!!!」
獣人らは自ら生まれ持った武器である牙や爪を使い、か弱い人間を蹂躙していった。
「クソ!本当に見ているだけで良いのですか!?我々が今攻撃を仕掛ければ!」
団長は剣を抜く。それを見て周囲の近衛騎士たちも一斉に剣を抜く。
「落ち着け──」
「しかし!」
「落ち着け、レオ」
突然、びっちりと馬を寄せてきた歳三に顔を掴まれた。そうして初めて気がついた。私はいつの間にか唇を強く噛み締めており、顎まで血が流れていたのだ。
「……帷子の上にジャケットとは、お洒落だな歳三」
「おう。レオの鎧姿も悪いもんじゃないぜ」
私は僅かばかりの冷静さを取り戻した。私の仕事は悔しがることじゃない。
「総員!魔道具は惜しみなく使え!試作品とはいえその威力は十分だ!」
私の言葉にその存在を思い出した兵たちは、一斉に腰に着けた球体を敵に投げつけた。
次の瞬間、玉が爆発したと思ったら、今度は赤とエメラルドグリーンに輝き、更なる大爆発を生み出した。
それは二メートルを超える体格を誇る獣人を一撃で屠れるほどの威力だった。
「ヘクセルはとんでもない兵器を生み出しちまったようだな……」
新兵器の正体は手榴弾だ。これは私のアイデアとヘクセルの想像力の産物である。
手榴弾が敵にぶつかり衝撃が加わると、まず火薬と火の魔石の粉を混ぜた炸薬が爆発する。これは魔石同士がぶつかると暴発する特性を活かした着火システムである。
そしてこの爆発により、中心に仕込まれた中程度の大きさの風と火の魔石がぶつかり合いながら飛び出し、例の如く魔力暴走を引き起こし大爆発。
風と火の魔法を組み合わせると大爆発になるのは、爆裂魔法の原理である。
従って爆裂魔法は二属性を操る才能を持つ人物だけが使えるのだが、この手榴弾は誰でもそれを可能にしている。火薬の実戦試験でありながら、まさに革命的な発明である。
「敵部隊、撤退していきます!」
「この調子だ!責め続けろ!」
こうして数々の新兵器の脅威にさらされ、敵は一時撤退を余儀なくされた。
「連弩と連弩砲の装填急げ!」
「騎馬隊は敵の背中を斬り刻め!追撃せよ!」
「──な、何とかなったのか……?」
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