英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

85話 視察

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「───よし、と。……これをウィルフリードまでの伝令に持たせてくれ」

「は!」

 次の日の朝、昨夜したためた母への手紙を兵士に手渡した。
 これが届く頃には、ファリアでも私自身の手で多少なりの成果を挙げているといいのだが。

「兎にも角にもまずは実際に行ってみないことには分からないな」

「お?久しぶりに二人で出かけるか?」

「現場視察と言ってくれ」

「そんじゃ、俺は厩舎から馬を連れてくるぜ」

「いや、歩いていこう」

「なんだァ?やっぱりデートじゃねェか!」

 歳三はクククと笑う。
 最近、わざとらしく、こういうやり取りをするのは、新生活に不安を感じる私を歳三なりに気遣ってくれているのだろうか。

「民たちと同じ目線で歩かない事にはその実情も分からないだろう?……まずはすぐ近くの街の中央広場まで行き、そのままヘクセルたちの様子を見に行こうか」

「おう」

 私の仕事場である書斎には、歳三専用になっている椅子がある。歳三はそこからゆっくり立ち上がり、壁に掛けられたコートを手に取った。

「レオも厚着をした方がいいぜ。雪でも降ってきそうな景色だ」

「そうだな」

 私は一度自室に戻り、貴族と分からぬよう深いフードのついた外套を身にまとった。
 まだ暗殺の危険が無いわけでもないし、貴族がうろついて騒ぎを起こすのも悪い。

 メイドの居ないこの屋敷では久しぶりに身の回りの事を自分でやった。
 ウィルフリードが恵まれすぎた環境なだけで、今の状況の方が日本での私の生活に近いはずなのだが、すっかり衰えを感じた。服を自分で用意するのも億劫に思ってしまう。

「さあ行こう」

 私たちは再び玄関で合流し街に繰り出した。
 見送るメイドなどもちろんいない。




「───こう言っちゃなんだが……、田舎って感じだな」

「仕方ないだろう歳三。せっかく農業からの収入で余った金を軍備に注ぎ込み、その結果兵士が戦死し労働力である男が激減した。責任は民ではなくかつての領主にある」

「こいつらも被害者だもんなァ。……あァ、飯が美味いのはいい事だ。俺はたくあんが食べてェな!大根はこの世界に無いのか?」

「どうだろうな。私が本で読んだ中では、大根のような植物もあったような気がするが……」

 流石に街の中は石畳で舗装されているが、ほんのちょっと脇道に逸れると、そこは踏み固められた土の小路だ。
 立ち並ぶ商店や飯屋にも活気はなく、外を歩く人すらまばらであった。

裏を返せばのどかな風景とも言えなくもない。
街の外周を囲う低い木の塀越しに見える、田畑や果樹園の様子などは、ウィルフリードでは決して見られなかった景色だ。

「それで、次は何処へ行くんだ?」

「そうだな……」

ファリアもまた、街の中央には広場がある。その周囲に各種ギルドが集まっており、街の機能の中心となっていた。

その中央広場に十数人程度の人だかりができている。今日見た中で一番の人数である。

「あれはなんだろう」

そう呟きながら自然と足が動いた。

そこには大きな掲示板があった。どうやら役所からのお知らせ的なものが貼られているらしい。

「……おいこれはどういう事だ!」
「マズイんじゃないか……」
「あぁ、もう終わりよ私たち……」

人々は嘆き、悲しみ、絶望の思いを顔に滲ませていた。

「ちょっと失礼します……。どれどれ───」

不審に思った私は人波を掻き分け、その内容をじっくりと読みこんだ。

『以下の者ファリア新領主とす:ウィルフリード家嫡男 レオ=ウィルフリード侯爵』

私は侯爵なのか。初耳である。
本来では父の「公爵」の位を受け継ぐはずだが、私はまだ十歳。成人が十五歳の帝国ではまだ位を持てない。

恐らく皇帝の勅命で、特例措置として、地方領主に相当する侯爵を取ってつけた感じだろう。

「俺たちはきっと殺されるんだ!」
「おいおい、逃げる場所なんてないぞ!」
「おらたち裏切りモンのファリア民なんて、どこの誰が受け入れてくれるんだべか……」

私も帝国の歴史をしっかり覚えてる訳ではないが、帝国では反乱を起こした場合その地域に住む人間も連帯責任で処刑されるのだろうか。
それとも単に敵に回したはずの人間がいきなり自分たちの領主になった不穏な風の吹き回しに、自らの命の危機だと考えているのだろうか。

昨日孔明と街の代表団の会談が終わった。そして今日の朝頃にでもこの布告が届いたのだろう。
せめて代表団から領民たちへ情報がある程度回っていれば混乱も小さく済んだだろう。

ウィルフリードなら私たちが初めに来た時点で誰かが騒ぎ始め、すぐにお祭り騒ぎとなるだろう。
しかしファリアにはそんな人口も、気力も残っていなかった。

今日明日にでも私が正式に集会を開き、領主就任の挨拶をすべきだ。
来週には、ただでさえ少ない領民が逃散してしまうかもしれない。

「……おい、行くぞレ──あっ!……坊ちゃん」

「わかったよ」

こんな状況で私の正体を明かすとどうなることか。
見知らぬ親子のような年齢の私たち二人組を、人々がいぶかしげにまじまじと見てくるので、すぐさまその場を退散した。

「店屋も見てみようと思っていたが、あれでは難しそうだな」

「あァ、辞めておいた方が無難だな」

「仕方がない、ヘクセルたちの様子を見に行こう」

早足で中央広場を抜け、再び人手が減り始めるぐらい遠くへ向かった。
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