英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
87 / 262
第一章

85話 視察

しおりを挟む
「───よし、と。……これをウィルフリードまでの伝令に持たせてくれ」

「は!」

 次の日の朝、昨夜したためた母への手紙を兵士に手渡した。
 これが届く頃には、ファリアでも私自身の手で多少なりの成果を挙げているといいのだが。

「兎にも角にもまずは実際に行ってみないことには分からないな」

「お?久しぶりに二人で出かけるか?」

「現場視察と言ってくれ」

「そんじゃ、俺は厩舎から馬を連れてくるぜ」

「いや、歩いていこう」

「なんだァ?やっぱりデートじゃねェか!」

 歳三はクククと笑う。
 最近、わざとらしく、こういうやり取りをするのは、新生活に不安を感じる私を歳三なりに気遣ってくれているのだろうか。

「民たちと同じ目線で歩かない事にはその実情も分からないだろう?……まずはすぐ近くの街の中央広場まで行き、そのままヘクセルたちの様子を見に行こうか」

「おう」

 私の仕事場である書斎には、歳三専用になっている椅子がある。歳三はそこからゆっくり立ち上がり、壁に掛けられたコートを手に取った。

「レオも厚着をした方がいいぜ。雪でも降ってきそうな景色だ」

「そうだな」

 私は一度自室に戻り、貴族と分からぬよう深いフードのついた外套を身にまとった。
 まだ暗殺の危険が無いわけでもないし、貴族がうろついて騒ぎを起こすのも悪い。

 メイドの居ないこの屋敷では久しぶりに身の回りの事を自分でやった。
 ウィルフリードが恵まれすぎた環境なだけで、今の状況の方が日本での私の生活に近いはずなのだが、すっかり衰えを感じた。服を自分で用意するのも億劫に思ってしまう。

「さあ行こう」

 私たちは再び玄関で合流し街に繰り出した。
 見送るメイドなどもちろんいない。




「───こう言っちゃなんだが……、田舎って感じだな」

「仕方ないだろう歳三。せっかく農業からの収入で余った金を軍備に注ぎ込み、その結果兵士が戦死し労働力である男が激減した。責任は民ではなくかつての領主にある」

「こいつらも被害者だもんなァ。……あァ、飯が美味いのはいい事だ。俺はたくあんが食べてェな!大根はこの世界に無いのか?」

「どうだろうな。私が本で読んだ中では、大根のような植物もあったような気がするが……」

 流石に街の中は石畳で舗装されているが、ほんのちょっと脇道に逸れると、そこは踏み固められた土の小路だ。
 立ち並ぶ商店や飯屋にも活気はなく、外を歩く人すらまばらであった。

裏を返せばのどかな風景とも言えなくもない。
街の外周を囲う低い木の塀越しに見える、田畑や果樹園の様子などは、ウィルフリードでは決して見られなかった景色だ。

「それで、次は何処へ行くんだ?」

「そうだな……」

ファリアもまた、街の中央には広場がある。その周囲に各種ギルドが集まっており、街の機能の中心となっていた。

その中央広場に十数人程度の人だかりができている。今日見た中で一番の人数である。

「あれはなんだろう」

そう呟きながら自然と足が動いた。

そこには大きな掲示板があった。どうやら役所からのお知らせ的なものが貼られているらしい。

「……おいこれはどういう事だ!」
「マズイんじゃないか……」
「あぁ、もう終わりよ私たち……」

人々は嘆き、悲しみ、絶望の思いを顔に滲ませていた。

「ちょっと失礼します……。どれどれ───」

不審に思った私は人波を掻き分け、その内容をじっくりと読みこんだ。

『以下の者ファリア新領主とす:ウィルフリード家嫡男 レオ=ウィルフリード侯爵』

私は侯爵なのか。初耳である。
本来では父の「公爵」の位を受け継ぐはずだが、私はまだ十歳。成人が十五歳の帝国ではまだ位を持てない。

恐らく皇帝の勅命で、特例措置として、地方領主に相当する侯爵を取ってつけた感じだろう。

「俺たちはきっと殺されるんだ!」
「おいおい、逃げる場所なんてないぞ!」
「おらたち裏切りモンのファリア民なんて、どこの誰が受け入れてくれるんだべか……」

私も帝国の歴史をしっかり覚えてる訳ではないが、帝国では反乱を起こした場合その地域に住む人間も連帯責任で処刑されるのだろうか。
それとも単に敵に回したはずの人間がいきなり自分たちの領主になった不穏な風の吹き回しに、自らの命の危機だと考えているのだろうか。

昨日孔明と街の代表団の会談が終わった。そして今日の朝頃にでもこの布告が届いたのだろう。
せめて代表団から領民たちへ情報がある程度回っていれば混乱も小さく済んだだろう。

ウィルフリードなら私たちが初めに来た時点で誰かが騒ぎ始め、すぐにお祭り騒ぎとなるだろう。
しかしファリアにはそんな人口も、気力も残っていなかった。

今日明日にでも私が正式に集会を開き、領主就任の挨拶をすべきだ。
来週には、ただでさえ少ない領民が逃散してしまうかもしれない。

「……おい、行くぞレ──あっ!……坊ちゃん」

「わかったよ」

こんな状況で私の正体を明かすとどうなることか。
見知らぬ親子のような年齢の私たち二人組を、人々がいぶかしげにまじまじと見てくるので、すぐさまその場を退散した。

「店屋も見てみようと思っていたが、あれでは難しそうだな」

「あァ、辞めておいた方が無難だな」

「仕方がない、ヘクセルたちの様子を見に行こう」

早足で中央広場を抜け、再び人手が減り始めるぐらい遠くへ向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

元天才貴族、今やリモートで最強冒険者!

しらかめこう
ファンタジー
魔法技術が発展した異世界。 そんな世界にあるシャルトルーズ王国という国に冒険者ギルドがあった。 強者ぞろいの冒険者が数多く所属するそのギルドで現在唯一、最高ランクであるSSランクに到達している冒険者がいた。 ───彼の名は「オルタナ」 漆黒のコートに仮面をつけた謎多き冒険者である。彼の素顔を見た者は誰もおらず、どういった人物なのかも知る者は少ない。 だがしかし彼は誰もが認める圧倒的な力を有しており、冒険者になって僅か4年で勇者や英雄レベルのSSランクに到達していた。 そんな彼だが、実は・・・ 『前世の知識を持っている元貴族だった?!」 とある事情で貴族の地位を失い、母親とともに命を狙われることとなった彼。そんな彼は生活費と魔法の研究開発資金を稼ぐため冒険者をしようとするが、自分の正体が周囲に知られてはいけないので自身で開発した特殊な遠隔操作が出来るゴーレムを使って自宅からリモートで冒険者をすることに! そんな最強リモート冒険者が行く、異世界でのリモート冒険物語!! 毎日20時30分更新予定です!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...