上 下
85 / 262
第一章

83話 改革

しおりを挟む
 まずは身近な屋敷の間取りを。そして地図で街の様子を確認したりしているうちに、日が傾き始めた。

 途中、この屋敷の料理人を名乗る人物が私に軽食を差し出してきた。
 歳三は「毒が入ってるかもしれねェ」と止めたが、なんともなかった。

 タリオも残っているファリアの兵士と、地下牢に入れられた捕虜の数を伝えに来た。
 その際、また闖入者に来られても迷惑なので、屋敷の警備を数人任せることにした。



 しばらくすると、外からガヤガヤと人々の話し声が聞こえて来た。それはすぐに彼らの到着が分かった。

「遅かったな孔明」

 私が外に出て出迎えると、屋敷の前には五台の馬車が停められていた。
 護衛の兵士らは兵舎へ向かったらしい。

「道中、魔物に襲われましてね」

「そうか。それでも兵士がいたから大丈夫だっただろ?」

「いえ、魔物を撃退したのは───」

「お師匠様です!」

 二台目の馬車から、ミラがひょっこり顔を出した。

「ヘクセルが?攻撃魔法は使えないはずでは……。戦えたのか?」

「魔石をウィルフリードで買えたからね。暇な馬車での移動の間にちょっとした新発明をしちゃったのさ。……か、考えれば貴重な魔石を使わずとも、歴戦のウィルフリード兵の方々に任せた方が良かったよね…………」

「馬車のように限られた空間で簡単に作れて、武器に使える魔道具……。後でじっくり聞かせて欲しいものだな」

 これが天才というやつか。
 私が与えた金貨。その小さなきっかけで、ヘクセルはまた歴史を変えるような発明をしてしまった。

「ああ、場所と言えば。さっき街の家屋状況に関する資料を読んでいた時、ヘクセルとミラにちょうどいい空き家があったんだ。そこを好きに改造して研究室にでもしてくれ。すぐに手配させるから、今日はとりあえず宿に泊まってな」

「分かりました!」

「この屋敷は今日から私が主だ。歳三は護衛の為、孔明は仕事の為にしばらくここに住んでもらおうか」

「おう」
「了解しました」

「荷物は明日運び入れる。必要なものだけ取り出して、残りは倉庫にしまっておけ。屋敷には 寝泊まりするのに困らない程度の物資は揃っている」

 とりあえず今後の発展の中心人物となる人間の割り振りは済んだ。後はこの連れてきた兵士たちだが……。

「兵士の皆さんは私についてきてください!幸か不幸か、バルンは軍拡に勤しんでいたので、兵舎には余裕がありました」

「───と、いうことらしい。各員、今日は寝床の確保と十分な休養を任務とする。仕事は明日に改めて割り振ろう。……それでは解散!」

「は!」

 兵士らはタリオに連れられ兵舎の方へ駆け足で去っていった。

「さて、と。孔明、明日からすぐにでも取り掛からなければならない仕事が沢山あった。今日の夜は長くなるぞ。明るい魔法のライトもないがな」

「ふふ、蛍雪の功となるでしょうか……。なんなりとお任せ下さい」





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 私たちはまたあの狭い執務室に籠っていた。
 私と孔明は、か細い蝋燭の灯りを頼りに資料を広げる。歳三は目を瞑りながら、刀を抱えて入口の近くで座っていた。

「───成程、これは少々問題がありますね」

「ああ。これで、よくまともに街の運営が成り立っていたな、としか言いようがないレベルだ」

 バルンは見栄なのか知らんが、大量の財物を買い込んでいた。それはあの美術館気取りの展覧室を見ても明らかだった。

「いえ、しかしこれは有効活用出来ますよ。バルンが抱え込んだ財宝を売れば去年の税収の凡そ半分になりそうです」

「それを陛下への上納「ファリアの税収五割」に充てれば、一年は余裕が持てるという訳だな」

「はい。そして得た一年で、増徴された三割分の税収を増やしましょう」

「それが秘策とやらか?なぁ、もう聞かせてくれてもいいんじゃないか?」

「口で言うのは難しいのです。百聞は一見に如かず。されど秘策を披露するのは今ではない。レオ、もう少しお待ちを」

「ううむ……。分かった……」

 孔明が羽扇を口元に当てて笑みを隠す時、それは彼の頭脳が正解を導き出した時だ。
 今は孔明を信じよう。

「金策は後に見れる秘策に期待するとして……、軍備について策はあるか?ファリアはそのほとんどの兵を失っている。残っているのは僅かな捕虜と戦いにも呼ばれなかった新兵だ」

「新兵の訓練は歳三に任せます。しかし、その点についても、私が無策のまま馬に揺られていた訳ではありませんよ」

「どうする?」

「ふふ、そうです。”ど“にしましょう」

「は?」

「上級な訓練を要する弓ではなく、弩、それも連射できる連弩です」

「諸葛連弩か!」

 弩。英語ではクロスボウ、ヨーロッパではボルトと呼ばれる武器だ。

 弓は、他の武器に比べ射程が長く強力ではある。しかし、その威力を発揮するには、弓を引き絞って構えるための筋力と、その状態で狙いをつけて放つための訓練が必要だ。
 十分な弓術の訓練を受けた弓兵でなければ、集団戦では却って足でまといになりかねない。

 これらの弱点を簡単に克服するのがクロスボウだ。予め専用の矢を装填しておくことで、弦に矢を掛ける時のみの力で運用できる。
 そして狙う時はただ構えるだけでよく、弓のように弦を引き絞る必要がない。

 加えて、人間では到底扱えないような強力な弦と鉄製のボルトを装填することで、弓では決して出せないほどの威力を持つ兵器にも化ける。
 それも、予め装填するという特徴を活かし、専用の器具を用いて矢を番える事ができるからだ。

 これが連弩となり、連射できると考えただけでもその恐ろしさが分かる。
 しかも連弩は銃のように弾倉を交換することで、更にその制圧力を高める。

 ちなみに固定砲台のようなバージョンもあり、その汎用性はお墨付きだ。

「良し、それじゃあまずはその設計図から頼む。私も明日ファリア中の技術者をかき集めよう」

「了解しました」

「材質はどうする?恐らく中原で手に入れていた木と、こちらの世界の木では、性質も全く違うだろう」

「そうですね。必要な条件としてはまず硬さ。それに靱やかさも重要です。そして最も大切なのは───」

 こうして会議は夜更けまで続いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...