英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

76話 ウィルフリードへ

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「お帰りなさいませ…っと、レオ様でしたか。本日からこちらにお泊まりすると伺っております」

「よろしくお願いします」

 中へ入ると迎賓館の主人が迎えてくれた。
 どうやら父とアルガーは皇都の兵士との訓練からまだ戻ってきていないらしい。

 歳三は「ちょっくら遊んでくるぜ~」と、どこかへ消えていった。
 孔明も「人や街、そしてこの世界のことを、私はもっと知らなければなりません」と言い残して街へ出かけた。

 子どもの体には長時間の移動は堪える。疲れ切っていた私には二人のような余裕はなく、部屋で休むことにした。



 ベットに横たわり、そっと目を閉じる。

 皇都では沢山の人に出会った。
 良い奴もいれば、悪い奴もいた。まだその正体がよく分からない人間も。

 皇都では沢山の物を見た。
 きっと前の私の人生では絶対に出会えないような物ばかりだ。

 私の知るこの世界は狭い。それでも、ファリアという土地の新しい領主として、これから生きる。それだけは確かだ。

 前の私は、単調な日常の繰り返しが嫌いだった。つまらぬ人生だと辟易していた。
 しかし、この世界に来て初めてわかった。
 そんな日常こそがかけがえのないものなのだと。

 そんな陳腐な言葉では語れないほど、父も母も、歳三に孔明、タリオやアルガー、マリエッタ、シズネ。そして私を慕うウィルフリードの民が愛おしい。

 はは。なんでこんなことを考えているのだろう。

 昔から、将来が不安になるとつい考え込んでしまう。

 私は陛下や団長の期待に添えるのだろうか。父と母の思いを裏切ってしまうのではないか。

 私の頭は黒い渦で埋め尽くされた。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「─────おーい、───おーい、……おい! レオ! 朝飯は食った方がいいと思うぜー!」

「…………ううん、……え?」

「おはようレオ。下で皆さんお待ちですよ」

 目を開けると、そこには歳三と孔明がいた。どうやら昨日は気付かぬ間に寝てしまっていたらしい。

 起き上がると私のお腹は激しく音を立てた。

「はは! そりゃあ昨日全然食ってねェもんな!」

「あぁ、あのご馳走を食べれなかったとはなんと勿体ない……」

「か、肩を貸してくれ……」

「おいおい大丈夫か?」

 十時間以上の睡眠で疲労が取れて、私に残ったのは極度の空腹だった。



「お、おはようございます……」

「おはようレオ。さあ、頂こうか!」

「どうぞお召し上がりください。こちらで最後のお食事との事で、シェフも張り切って朝から仕込みを行っておりました」

 父が座る食卓には、朝食に相応しい軽さの、それでいて華々しく飾られた料理が並んでいた。

「いただきます!」

 私はすぐにスープに口を付けた。その温かさと適度な塩味が私の胃を優しく労った。
 木の皿に乗せられた色とりどりのサラダとフルーツが、私の視覚を刺激する。

「───そういえば、この国には宰相はいないのですか?」

 朝から孔明は勉強熱心なことだ。
 私は父と孔明の話を横目に、パンをスープに浸して口に押し込む。

「ああ。この国では陛下がトップであり、それに変わるような力を持つ人間は置くことはない。つまり実質上は昨日会ったファルテンのような中央の実務者が国の方針を固めているんだな」

「或る意味で、それは現場を知る人間がまとめる風通しのいい組織。しかし、強く立ち回れる人間がいないとヴァルターのような部外者が口を出す隙を見せることになります」

「ま、そうなんだがな」

 父は一口水を含んだ。

 ウィルフリードでは母がその辺も上手くやっている。スキル『慧眼』の能力による恩恵は凄まじい。
 対してファリアは、コードなる王国と繋がる副官の手引きにより蛮行に及び、バルン=ファリアを含むファリア一族は滅亡の一途を辿った。

 信頼出来る優秀な人材はどのような対価を払ってでも手に入れたいものだ。

「孔明、私はそれについては信頼しているぞ」

「ええ。必ずや国家の礎となる領地にしてみせましょう」

「はは、そうだな」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「短い間でしたが、お世話になりました!」

「はい。レオ様のご活躍を願っております」

 私たちは迎賓館の主人に別れを告げる。
 本当はもう少し皇都を満喫したいけれど、私たちのことを待っている人が沢山いるのだ。

「ウルツ様、こちらを」

「おお! すまんな!」

 近衛騎士団の兵士が箱をアルガーたち兵士の馬車に積み込んだ。

「ウルツ様、これは?」

「おお、そういえばアルガーにはまだ言っていなかったな! これは陛下から北方遠征の褒美として頂いたのだ」

「そうですか。それは丁重に運ばなくてはなりませんね」

「───ああ、ちょうどご支度の途中でしたか!」

「団長! 来れたんですね!」

 そこに白馬に跨る団長が現れた。

「ええ、少しだけ! ……っと、こちらをお渡しに来ました」

「わ、私にですか?」

 私は団長から一本の筒を受け取った。中に入っていた紙を取り出してみると、それは紐で丸められ、封蝋印が押されてあった。

「ファルテン殿からです。大切な書類なので絶対に無くさないように、と」

「ああ! ファリアの!」

 私はその筒を胸に抱える。
 これこそが皇都に来た目的であり、陛下の勅命。命に代えても守るべきもの。

「それでは私たちはこれで……。───お前たちは休憩後街の警備だ!」

「は!」

 団長率いる近衛騎士団が仕事に戻る。

「さて、我々も帰ろうか!」

「はい!」




 馬車は西門へと走り出す。

 僅かな滞在期間とはいえ、流れる皇都の景色を懐かしく思える。
 私たちはこれを守るために貴族として戦っているのだ。そう改めて実感させてくれた。

「……あれ? あそこに誰かいます!」

「来てくれたか!」

 御者の兵士が指差す先には、大きな荷物を背負う二人の人物がいた。

「うん? あれは誰だ?」

「レオがいい拾いもんをしたんだぜ」

「ふふ、これは新たな策を考える余地がありそうですね……」

「止めてください!」

 馬車はヘクセルとミラの前で止まる。

「来てくれると信じてました! 乗ってください!」

「ま、まあね。助けてもらった恩を返すぐらいは……。あ、そ、そんな、僕なんかが貴族様と同じ馬車なんて……。あれ、そちらはレオ様のお父様? ってことはもっと偉い貴族様……? ああ、ミラどうしよう!」

 ヘクセルは外套のフードを深く被り、早口でたじろいでいる。ミラもこれには何も言えず口をパクパクさせる。

「ここは手狭だし、俺らは兵士たちの荷馬車に乗るとするかァ。なァ孔明?」

「座り心地は劣りますが、女性の為なら仕方ありませんね」

 歳三と孔明は後ろに続くアルガーたちの乗る馬車に乗り移った。

「さぁどうぞ!」

「お、お師匠様、覚悟を決めましょう……!」

「そ、そうだねミラ……。雇い主様にはちゃんとご挨拶しないとね……」

 こうして私たちは、父の新たな名誉職と褒美、ファリアの領土、そして有望な二人を引っさげてウィルフリードへの帰路についたのだった。
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