54 / 262
第一章
52話 首狩りアルガー
しおりを挟む
ふらりと一歩を踏み出したアルガー。辺りを血とともに赤で染める落ち葉がカシャリと音を立てた。
横一文字に構えた長剣が木漏れ日に妖しく輝く。
「───ハァ!!!」
アルガーのマントが翻った。そう思った瞬間には、アルガーの姿は盗賊の向こうにあった。
手には韋駄天のビッツ君の首を提げていた。
かつてビッツ君だった物体はその場にバタンと転がった。
「流石はアルガー隊長だ!」
「首狩りアルガーは今も健在だったか!」
「え、く、首狩り……?」
アルガーは兵士たちの歓声など気にもとめず、アルガーは次の敵を見定める。
「ま、待ってくれ……! 降参だ!」
「今更?」
マントが翻った次の瞬間、やはり盗賊の死体がひとつ増え、アルガーの手には二つの首が提げられていた。
片手であの長剣を操り、しかも敵の首をかっさらうとは。普段は父や歳三の影に隠れるアルガーも、十分に化け物だ。
それは首狩りアルガーなどと言う、恐ろしい二つ名も付けられる。いや、そうでもしないと、我が父という異次元の強さの男と肩を並べることなど出来ないのか。
結局、アルガーが参戦してから一瞬で、盗賊たちは物を語らぬ屍と化した。
新技を試す歳三や、持て余した魔力をここぞとばかりに使い次々に魔剣を召喚する父と違い、アルガーは粛々と一撃で盗賊を仕留めた。
「アルガー……、そんなに急ぐことないだろ……?」
「ではウルツ。自分で言ったことくらい守りなさい。肩透かしをくらった魔王領遠征から暴れ足りないのは分かっていますが、余りに楽しみ過ぎです。仮にも彼らは盗賊として本気で我々を殺しに来ていたのですよ? それをあなたは───」
父がアルガーに説教されている姿は、息子として見ていて恥ずかしい。タリオが居なくてよかった。
「──────ふぅ。……さて、魔物が集まっては大変だ。死体も回収して次の街まで運ぶぞ! 武器や身に付けているものも忘れずに集めろ! 盗品を持ち主の元に返すんだ!」
「は!」
アルガーの指示で、兵士たちは一斉に剣を納め、後片付けに移った。
父は少ししゅんとしながら血塗れの鎧を拭いていた。
歳三も血糊でべっとりとした刀を振るい、布で拭き取ってから鞘に納めた。
「ふふふ。個人規模の戦いでこのレベルとは……。これが十万、百万と集まった戦争ではどうなってしまうのでしょう……。ふふふ……」
結局、最後まで楽しそうにしていたのは孔明だけだった。
───────────────
情けない父の姿を垣間見た戦いだったが、改めてこの数名だけで小国を蹂躙することもできるのではないかと思うほど興奮したのも事実だ。
盗賊の頭領は名前すら分からぬまま生首に成り果てたが、この規模で動いていたということはそれなりに幅を効かせていただろう。
それを片手間で瞬殺する辺り、帝国の英雄と冠される父や最強のウィルフリード陸軍の片鱗を伺えた。
「今度は我々が先行します。問題はこちらで対処しますのでごゆっくりお休みください」
「ううむ……」
「お、おう……」
アルガーはぶっきらぼうにそう言い、兵たちを乗せた馬車に戻るとすぐに走り出した。
私たちの馬車もそれに続く。
「年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたな……」
「あァ……。近藤さんに怒られるより怖かったぜ……」
二人は苦虫を噛み潰したような顔を見合わせそう言う。
まぁ、何はともあれ無事に森を抜けることができてなによりだ。
「───父上。そう言えば、アルガーはどんなスキルを持っているんですか? あの身のこなし、常人とは思えません」
「うむ。アルガーは基本的な身体強化系のスキルしか使えないぞ。貴族の出ではないからな」
「そ、それであの剣戟を!?」
「そうだ。一般人の到達できる最高点はアルガーだろうな。もしアイツに貴族のような特殊スキルがあれば、間違いなく俺よりも強い」
「そんな事があるんですね……」
父がそこまで言うならそうなのだろう。
二人は王国との大戦を共に戦い抜いた戦友だ。
あの強さは、幾度の死線をかいくぐって来たからこそと言える。
「それに、怒らせたら母より怖いぞ……」
母があんまり怒っている所を見たことがないから分からないが、アルガーはだいぶ怖かった。
歳三は崩れた髪を整え、腕を組んでぼんやり流れる景色を眺めている。
孔明は鉄扇をどこかに仕舞い、また羽扇を出して何やら考え事に耽っていた。
森を抜けしばらくすると、一つ目の目的地、リーンの街が見えてきた。
いつの間にか日も傾き初め、後ろを振り返ると紅葉に染まる森が、紅の海のように蠢いていた。
先に到着したアルガーらが門番と話しているのが見えた。
事前に連絡をする暇もなかったので、恐らくあちらも突然の客に困惑しているだろう。
少しすると兵を乗せた馬車が門を通され、街の中へ消えていった。
私たちの馬車も門に差し掛かり、門番がこちらに近づいて来た。
父が馬車を降り、門番と話す。
「ウルツ様、長旅お疲れ様です! お話はアルガー殿から伺いました! すぐに領主に連絡しますので、このまま来賓用の別荘へお進みください! 案内の兵が先導します!」
「突然の訪問、すまないな。了解だ。ザスクリアにもよろしく伝えといてくれ」
「は!」
門番が敬礼をしながら後ろに下がった。
ザスクリアとはこの街の領主の名前だろうか。
父が馬車に乗り込むと、再び御者は馬を歩かせ始めた。
前には一騎の騎兵が先導している。
なんやかんやあったが、こうして私たちは一つ目の街リーンへ入ることができた。
横一文字に構えた長剣が木漏れ日に妖しく輝く。
「───ハァ!!!」
アルガーのマントが翻った。そう思った瞬間には、アルガーの姿は盗賊の向こうにあった。
手には韋駄天のビッツ君の首を提げていた。
かつてビッツ君だった物体はその場にバタンと転がった。
「流石はアルガー隊長だ!」
「首狩りアルガーは今も健在だったか!」
「え、く、首狩り……?」
アルガーは兵士たちの歓声など気にもとめず、アルガーは次の敵を見定める。
「ま、待ってくれ……! 降参だ!」
「今更?」
マントが翻った次の瞬間、やはり盗賊の死体がひとつ増え、アルガーの手には二つの首が提げられていた。
片手であの長剣を操り、しかも敵の首をかっさらうとは。普段は父や歳三の影に隠れるアルガーも、十分に化け物だ。
それは首狩りアルガーなどと言う、恐ろしい二つ名も付けられる。いや、そうでもしないと、我が父という異次元の強さの男と肩を並べることなど出来ないのか。
結局、アルガーが参戦してから一瞬で、盗賊たちは物を語らぬ屍と化した。
新技を試す歳三や、持て余した魔力をここぞとばかりに使い次々に魔剣を召喚する父と違い、アルガーは粛々と一撃で盗賊を仕留めた。
「アルガー……、そんなに急ぐことないだろ……?」
「ではウルツ。自分で言ったことくらい守りなさい。肩透かしをくらった魔王領遠征から暴れ足りないのは分かっていますが、余りに楽しみ過ぎです。仮にも彼らは盗賊として本気で我々を殺しに来ていたのですよ? それをあなたは───」
父がアルガーに説教されている姿は、息子として見ていて恥ずかしい。タリオが居なくてよかった。
「──────ふぅ。……さて、魔物が集まっては大変だ。死体も回収して次の街まで運ぶぞ! 武器や身に付けているものも忘れずに集めろ! 盗品を持ち主の元に返すんだ!」
「は!」
アルガーの指示で、兵士たちは一斉に剣を納め、後片付けに移った。
父は少ししゅんとしながら血塗れの鎧を拭いていた。
歳三も血糊でべっとりとした刀を振るい、布で拭き取ってから鞘に納めた。
「ふふふ。個人規模の戦いでこのレベルとは……。これが十万、百万と集まった戦争ではどうなってしまうのでしょう……。ふふふ……」
結局、最後まで楽しそうにしていたのは孔明だけだった。
───────────────
情けない父の姿を垣間見た戦いだったが、改めてこの数名だけで小国を蹂躙することもできるのではないかと思うほど興奮したのも事実だ。
盗賊の頭領は名前すら分からぬまま生首に成り果てたが、この規模で動いていたということはそれなりに幅を効かせていただろう。
それを片手間で瞬殺する辺り、帝国の英雄と冠される父や最強のウィルフリード陸軍の片鱗を伺えた。
「今度は我々が先行します。問題はこちらで対処しますのでごゆっくりお休みください」
「ううむ……」
「お、おう……」
アルガーはぶっきらぼうにそう言い、兵たちを乗せた馬車に戻るとすぐに走り出した。
私たちの馬車もそれに続く。
「年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたな……」
「あァ……。近藤さんに怒られるより怖かったぜ……」
二人は苦虫を噛み潰したような顔を見合わせそう言う。
まぁ、何はともあれ無事に森を抜けることができてなによりだ。
「───父上。そう言えば、アルガーはどんなスキルを持っているんですか? あの身のこなし、常人とは思えません」
「うむ。アルガーは基本的な身体強化系のスキルしか使えないぞ。貴族の出ではないからな」
「そ、それであの剣戟を!?」
「そうだ。一般人の到達できる最高点はアルガーだろうな。もしアイツに貴族のような特殊スキルがあれば、間違いなく俺よりも強い」
「そんな事があるんですね……」
父がそこまで言うならそうなのだろう。
二人は王国との大戦を共に戦い抜いた戦友だ。
あの強さは、幾度の死線をかいくぐって来たからこそと言える。
「それに、怒らせたら母より怖いぞ……」
母があんまり怒っている所を見たことがないから分からないが、アルガーはだいぶ怖かった。
歳三は崩れた髪を整え、腕を組んでぼんやり流れる景色を眺めている。
孔明は鉄扇をどこかに仕舞い、また羽扇を出して何やら考え事に耽っていた。
森を抜けしばらくすると、一つ目の目的地、リーンの街が見えてきた。
いつの間にか日も傾き初め、後ろを振り返ると紅葉に染まる森が、紅の海のように蠢いていた。
先に到着したアルガーらが門番と話しているのが見えた。
事前に連絡をする暇もなかったので、恐らくあちらも突然の客に困惑しているだろう。
少しすると兵を乗せた馬車が門を通され、街の中へ消えていった。
私たちの馬車も門に差し掛かり、門番がこちらに近づいて来た。
父が馬車を降り、門番と話す。
「ウルツ様、長旅お疲れ様です! お話はアルガー殿から伺いました! すぐに領主に連絡しますので、このまま来賓用の別荘へお進みください! 案内の兵が先導します!」
「突然の訪問、すまないな。了解だ。ザスクリアにもよろしく伝えといてくれ」
「は!」
門番が敬礼をしながら後ろに下がった。
ザスクリアとはこの街の領主の名前だろうか。
父が馬車に乗り込むと、再び御者は馬を歩かせ始めた。
前には一騎の騎兵が先導している。
なんやかんやあったが、こうして私たちは一つ目の街リーンへ入ることができた。
17
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる