英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
47 / 262
第一章

45話 孔明先生の勉強会

しおりを挟む
「ほう。ほうほう……」

  図書室に入るなり孔明は駆け出し、本棚から無作為に何冊か本を取り出しては読み出した。

「───これは素晴らしい! まさに 汗牛充棟かんぎゅうじゅうとう…。これほど良質な本は初めて手にしました! それに書いてある内容も興味深い……! これが自家薬籠中の物とは羨ましい限りです」

「そ、それは良かった……」

  難しい言葉を使う孔明に私は多少戸惑ったが、その様子を見るにご満悦のようだ。孔明は抱えた本を机に並べ、食いつくように読み漁っている。

「…………おっと! これは失礼。先にこの世界について説明を受けた方がいいですね」

「そうじゃないと読んでも分からないだろ?」

「えぇ。何となく地名やら人名やらは察せますが、「スキル」や「魔法」などという聞き慣れない単語ばかりですね」

  孔明の姿にどことなく懐かしさを感じた。

  私もこの世界に生まれ落ちて間もない頃、よく図書室に通ったものだ。魔法などというこの世の理をねじ曲げる力に、私も最初は困惑した。

「よしよし、それじゃあ私が説明しよう───」

  幼少期はマリエッタが私の教育係だった。久しぶりに開いた地図や教科書代わりの本たちを見ると、その頃を思い出す。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




「───成程。何となく掴めてきましたね」

  孔明の吸収力は凄まじく、まさに一を聞いて十を知る想像力と柔軟性だった。

「大まかに言えば、人間は三国の大国に分かれている……。しかしあの頃と違うのは、亜人・獣人から成る国や、魔王なる存在がいることですね」

「そういうことだ。今は、それこそ反董卓連合のように人間は対魔王で同盟を結んでいるが、それももうすぐ失効となる」

「ほうほう……。それで、次は「魔法」なるものについて教えてください。この絵を見る限り、私の常識は全く通用しなさそうです」

  孔明は入門魔導書を開いている。だが、残念ながら私はこればっかりは解説しようがなかった。

「すまない。私は魔法が使えないんだ。言葉でなら説明できるが、それより実演して貰った方が早い」

「そうなのですか。せっかくこの世界に来たのに残念ですね。……それで、どちらで見られるのでしょう?」

  主人への儀礼を示すための、申し訳程度の慰め。孔明はそれよりも遥かに大きそうな、自分の知的好奇心を隠しきれずにいた。

「シズネさん……、あのさっきいた妖狐族の女性が火の魔法を使える。父のスキルは魔法とはまた違うし、母は見ていても分からないから、彼女が一番いいと思う」

「そうですか。それでは早速行きましょう」

  孔明は先ほどまで大事そうに眺めていた本をさっさと閉じてしまい、図書室を後にした。余程魔法を見てみたいのだろう。

「……おぉぉ、急に止まるなよ」

  スタスタと歩く孔明が突然止まるもんだから、私は彼の背中にぶつかってしまった。

「ところで、どちらにいらっしゃるのでしょうか」

「大丈夫か……」

  それは聞き及んでいた、常に冷静沈着な天才という姿ではなく、一人の勉強熱心な人間に思えた。英雄と言えど人の子である。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




「えっとぉ、私なんかの魔法でいいのかなぁ……? 冒険者ギルドに行けばもっとすごい魔導師もいると思うけど……」

  シズネはやはり自分の部屋にいた。母に仕事を受け継ぎ、どうやら私の勉強の準備をしているようだった。

「良いのです。私は一刻も早く魔法という未知のものに触れてみたい!」

「わ、分かりましたぁ……」

  孔明の勢いにシズネは気圧されている。軍師である以前に一人の知識人としての本来の姿がそこにあるように感じた。

「でもここじゃ使えないから、一旦外に出なきゃね」

「またあの庭ですか? いいでしょう。早く行きましょう!」




  再び裏庭に戻ってくると、孔明はソワソワした様子でシズネを見ている。その視線に困惑しながらも、シズネは魔法の準備に取り掛かった。

「それじゃあ、あの岩に向けて撃ってみるね」

  シズネの白く、握れば折れてしまいそうなほど細い指の先には一つの大きめな岩があった。その岩はよく父も剣を振るっており、所々に切り跡が残っていた。

「───火の精霊よ、私に力を! 火炎球!」

  詠唱を終えると、シズネの手からは拳大の火の玉が放たれた、岩にぶつかり消滅した。岩には焦げあとが付いた程度で、特に損傷はなさそうだった。

「ふぅ。これでいいかな……?」

「…………素晴らしい! もっと強力な魔法もあるのですか!?」

「え、えっと、これは火の魔法でも一番初歩の魔法だから、もちろんもっと強い魔法もあるよ。でも私は使えないの。ごめんなさい」

「いえ、魔法というものがどんなものか分かっただけで十分です!」

  孔明は食いつくようにシズネに詰め寄る。対するシズネも、褒められて気は悪くないようだ。

「魔法にはその口上が必要なのですか?」

「うーん、基本は必要になるかな。中には省略したり、無詠唱で唱えれる魔導師もいるけど……」

「それでは、魔法をどのように発動させれば良いのか教えて頂けませんか?」

「すぐには難しいと思うよ。ただ少しずつ自分の中の魔力をコントロールすることができるようになれば、きっと使えるようになるはず」

「ふむ。ではその魔力のコントロールから教えてください」

  それからというもの、教師モードに入ったシズネは強かった。

  当然、魔力すら持たない私はシズネから魔法の授業など受けたことがなかった。しかし、傍から聞いているだけでも魔力の扱い方と魔法の発動まで理解出来るほど分かりやすかった。

  私に対する授業では、現世の知識を持ち合わせる私に戸惑い試行錯誤しながらの日々だった。その反動か、孔明に得意気に話すシズネはどこか楽しそうだった。




「───大体把握しました。少し練習が必要のようですね。実際にやってみるのが 一瀉千里いっしゃせんりというもの。…レオ、この辺りに自由に使える広い場所はありますか?」

「この庭より広い所が必要なのか……? それなら西側の山の手前の森が基本立ち入り禁止になっているが……」

「成程。では来て早々ではありますが、少し暇(いとま)を頂戴致します」

  孔明はそう言い頭を下げると、私の返事も聞かずに門の方へ歩き出してしまった。

「ちょ、ちょっと待て孔明。さっき教えたように西にはファルンホルス王国がある。あの山は緩衝地帯になってるんだ。あまり森で派手なことをやって王国を刺激したら駄目だぞ?」

「心得ました。それでは───」

  本当に心得ているのか分からないが、ちゃんと事前に伝えたので何かあっても私は悪くない。私は拭いきれぬ不安に、そう自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...