英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
30 / 262
第一章

28話 被害

しおりを挟む
「次は私が」

 セリルが立ち上がった。私も次の紙を手に取り、先程より遥かに大きい数字の羅列に目を通す。

「ここに書かれているのは、それぞれの商店が供出した物資の金額です。……潰れる、とまではいかなくとも、かなり経営が厳しい商店も出てきています。」

「んんん……」

「今回の商店の損失は大金貨にして八百枚となります。それ自体は帝国法に従い寄付した事になるので請求はしませんが……、いくらかの補償があると助かるということだけ言わせて欲しい」

 大金貨は日本円に直すと、一枚で十万円。つまり今回の損失は八千万円となる。

「賠償金がどうなるかまだ決まってはいないが、いずれにせよ経済の建て直しが済むまでは最大限協力しよう」

「その慈悲深いお心に感謝します」

 経済基盤はしっかりしておいた方がいい。資本主義が確立していないこの世界では地域の商店の存在が国民生活に大きな影響を与える。



「最後に住民からの要望もよろしいでしょうか……?」

「ああ」

 ベンの話に合わせて、次の書類を取り出す。それは何枚もの紙が紐で綴じられていた。

「まずは今回の戦いの真実を知りたいという声があります。いきなり戦火に巻き込まれた多くの人は混乱しており、事態が終結したら改めて丁寧な説明をお願いします」

「約束しよう。私も全ての真実を明らかにしなければ到底納得できない」

 帝国によるファリア内での調査が終わり次第それは果たせそうだ。

「次に安全面での心配です。逃げ出したファリアの兵が復讐に来るのではないか、壊れた壁から魔物が侵入してくるのではないかと怯える民もいます」

 人手不足は喫緊の課題だ。

「その点についてはウィルフリードの遠征軍が戻ってくるまでの間、いくらか警備の兵を借りられないか帝国側と交渉しよう」

「帝国からの兵なら心強いことこの上ないです!……あ、」

 ベンが自分の失言に気がついたのか苦い表情を見せる。

「いや、確かに残されたウィルフリードの兵はボロボロで頼りなく思う気持ちも分かる。しかし彼らも全力で勤務しているのだと理解して欲しい」

「す、すみません……!」

「よい。続けろ」

 ベンは慌てて次のページをめくる。

「……最後に遺族の方からの、当面の生活費を保証して欲しいとの要望が多く挙がっています」

「それについて俺からも少しいいか?」

「構わない」

「軍については戦死者の家族への保証金がちゃんと確保されているから安心して欲しい」

「同じく各ギルドについてもそのようなシステムがある。金銭面の工面はこちらが受け持とう」

 歳三とゲオルグがそれぞれ発言する。ナリスもその言葉に頷いた。

「では一般人への支援は行政であるウィルフリード家の担当になるな」


「それも含めて、私の方からまとめてお話しますねぇ」

 シズネが一番最後の紙を取り出す。そこには頭が痛くなるような細かい数字が刻まれている。

「これが今回の戦争で使われた戦費です。内訳は置いといても、今上がった補償金を含めると大金貨二百五十枚の見積もりです。さらにそこに壁や橋の修復費がかかりますねぇ」

 これはかなりの痛手だ。

 現在ウィルフリード家が自由に使える資金は大金貨百数十枚。そうなると当然、一括では払えない。

 順調な発展を遂げたウィルフリードは税収も膨らんでいたが、この度の遠征軍の準備でかなり吹き飛んだ。

 畑は戦乱により荒され、その分の収入も減る。

「情けない話だが、全てを私一人で今すぐに、というのは難しいのが変えられない事実だ。今できることから順に進めていき、最終的な解決は母に任せたい」

「私も奥様の裁定無しに大金は動かせないです……」

 シズネも耳をすぼめしゅんとする。

「それはしょうがないことだ。ウルツたちが帰ってくるまでは俺らのできる範囲でやって行くしかねェ」

「帝国からの支援も必須だしな。そこはレオ様、しっかり頼むぜ」

 ゲオルグが熱い眼差しを向ける。

「あぁ!この会議での内容を含め、慎重に交渉に臨む」



 私はその場で立ち上がる。

「それでは会議はこれで終了とする!お疲れ様だ!」

「おう」

「失礼します……」

 手短に会議を終わらせ、私は団長との会議の準備に取り掛かった。会議会議で忙しいが、この交渉にウィルフリードの今後も左右されるため気は抜けない。

「シズネさん、この後の会議に必要な書類をまとめておいて欲しい。団長に渡す公的な文書と私が読むように簡単なメモがあると助かる」

「わかりましたぁ」

 シズネはとてとてと走っていった。

「歳三、団長たちを迎える兵は用意できるか?」

「大層なもてなしはできねェが案内させる分には大丈夫だろ」

「ではもうそろそろ北の駐屯地に迎えの兵を遣わせてくれ。北門は使えないから西門側から入るように伝えてな」

「すぐにそうしよう」

 歳三も刀を手で抑えながら走って退室した。

 強さや年齢は置いておいて、団長と私では公爵家である私の方が身分が上なので、私自ら迎えに行くということは風体的にできない。

 私個人としては、あっちに行って話し合った方が早いのでそれでいいのだが、公的な会議にそうはいかない。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




「レオ様お疲れ様です。お食事はどうされますか?」

 話が済んだのを伺い、マリエッタが私の元へ来た。

「うーん、これは団長たちの分も用意すべきだろうか」

「それでは今レオ様が軽く食べれるものと、念の為数人分の来客用の食事を用意させます」

「そうだな、それがいい。もし彼らが手をつけないようだったら使用人たちで食べてくれ。戦争中は皆も大変だったと思う。少しぐらい豪華なものを食べても母も叱りはしないさ」

 貴族の使用人と言えども、平民と貴族の食事は遥かに優劣の差がある。それは貴族と同等の食事を出される、主人の客の食事との差も大きいという意味になる。

「お気遣い感謝いたします。皆も喜びます」

「よろしく頼んだ」

「かしこまりました」



 諸々の諸連絡も済み、とりあえず一息つけそうだ。

 私の食事ができるのを待ちながら、団長との会議について考えて天井を見上げていた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...