英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
25 / 262
第一章

23話 決着

しおりを挟む
 タリオは剣を抜き、笑みを浮かべる。

「私なら大丈夫ですよ! さぁ! 早く!」

「クソ……!」

 歳三は後ろでうなだれているばかりだ。

「義勇兵の皆さん、最後のひと踏ん張りですよ!」

「おう!」

 どう考えてもまずい流れに、私は表情を固くする。



 その時だった。

 突然岩が崩れるような音が鳴り響く。

 遂に壁が完全に崩壊したかと思い見上げた。しかし、壁は半壊しているがそれ以上崩れてはいない。

 立ち込める煙の奥に目をこらすと、段々とそのシルエットが近づいて来るのが分かった。

 敵も後ろを振り返る。すぐにそのシルエットの正体が分かった。

「援軍だ!」

「バカな! 本当に来てたのか……!」

 軽騎兵が十騎、列を成して狭い街の道を駆け抜けてくる。

「こっちだ!」

 私は叫んだ。

「おい! 逃げるぞ!」

 敵は途端に逃げ出すも、時すでに遅し。逃げようとする敵兵は背後から迫る騎兵になぎ倒され、生き残った敵兵は武器を捨て降伏することしか出来なかった。

「間に合って何よりです!」

 先頭にいた男が私に話しかけてきた。

 岩が崩れるようなあの音は、騎兵が崩れた岩の上を駆け抜ける音だったのだ。

「助かった! 感謝する! ……外はもう片付いたのか?」

「はい! 既に掃討しました。降伏するものは拘束しまとめてあります。ファリア領主らは近衛騎士団が逃がさずに捕らえることが出来たようです」

「おぉぉぉぉ!!!」

「俺らの勝ちだ!!!」

「帝国バンザイ!!!」

 義勇兵たちは雄叫びをあげる。

「そうか……」

 私も目頭を熱くせずには居られなかった。

「外にウィルフリード家の旗が刺さっていたので、慌てて私たちの部隊はこちらに向かいました」

 あの旗は最後まで役目を果たしたと言う訳か。

 今度は我らが官軍だぞ歳三。帝国の、錦の御旗は我々の元にあるのだ。

 そう言いたい気分だった。だが、歳三の容態は芳しくなく、話すのは辛そうだ。


「タリオ! やはり私は一人では馬に乗れない! お前が歳三を屋敷の治療室まで連れて行ってくれ!」

「全く、しょうがないですね」

 馬をタリオに引き渡す。

 私は私で、この戦いにケジメをつけなければいけない。

「では歳三を頼んだ!」

「はい!」

 タリオは後ろ手に手を振り、街の中心へ駆けていった。


「それで、ええと……」

「私たちはミドラ侯爵家の兵士です。私は部隊長として送り出されたアドラと言います」

「すまないがアドラ、私を近衛騎士団の元まで連れて行ってはくれないだろうか。少々すべきことがある……」

 アドラは私に手を伸ばす。

「心中お察しします。どうぞ! 私の背中で良ければ!」

「ありがとう」

 手を掴むと、アドラは私を引き上げてくれた。そして馬は街を出て丘の方を目指す。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 




 外では戦いは本当に終わっており、敵味方関係なく負傷者の収容が始まっていた。これから始めなければならない戦後処理を思うと、頭が痛い。

 丘を登っていると、まだ刈り終えていない畑がめちゃくちゃになっているのが見えた。食料の確保や、農民への補償も必要だ。

 そんなことに思いを巡らしていると、すぐに援軍が仮の陣地にしている所に着いた。これはファリアの本陣があった場所だ。

「ありがとうアドラ」

「いえ! では私たちはこれで」

「あ──」

 アドラは爽やかな笑顔と共に去っていった。これは帰りはまた別の人に頼まなければいけない。

 いや彼らにも仕事はあるのだから当然だ。私の部下でもなければタクシーなどでもないのだから。



「ヘルムート団長」
 
 私は門番に通してもらい、陣幕の中へ入っていった。

 中では奥に団長が鎮座している。机を挟んで手前には、憎きファリアの領主と、その補佐役であるだろう男が椅子に縛り付けられている。

「これはレオ殿、わざわざこちらまでいらしたのですか」

 団長は立ち上がり軽く微笑んでみせた。改めて彼を見ると、歳は二十代後半ぐらいか、かなり若く見えた。

 鎧を脱ぎ、軍服姿の彼の胸には数々の勲章と準貴族の称号があしらわれていた。その若さでこの地位まで上り詰めたというとは、畏怖の念を感じずにはいられない。

「この援軍のお礼はいずれ必ず……。それよりも……」

 私は目の前で項垂れる男を睨みつける。歯はギリギリと不快な音を立て、握った拳に自分の爪が突き刺さる。

「ええ、まずは目下の問題をどうするか、ですね」



「私はこんなガキに負けたのではない!! ……まさかこんなに早く皇都から援軍が来るなんて……! 話が違うじゃないか!」

「黙りなさい!」

「なんだと!?」

 ファリア領主が汚く唾を飛ばしながら叫ぶのを、補佐の男が慌てて止める。

「ほう、「聞いてた話」ですか、それは興味深いですね」

「くっ……、このバカが……」

 男がボソリと呟くのを私は聞き逃さなかった。

「確か領主の方はバルン=ファリアと言ったな。お前は?」

 私は男に問いただす。

「俺はコード。コード=リアリスだ」

「ということは、あなたは旧貴族の出身ですか」

 この国で苗字が許されているのは貴族だけだ。大抵の場合、苗字は家名である。しかし、そのような土地がないとなると、その苗字を名乗る人物は今は廃された旧貴族ということだ。

「あぁ。俺は十数年前までこのリアリス国の王子として育てられた。……帝国の侵略を受けるまではな!」

「なるほど、だいぶ状況は飲めてきましたね」

 これぞ帝国主義の最大の弊害だ。

 武力という最も単純明快な方法で相手を服従させる。しかし、奪った土地に残されるのは恨みと憎しみだけだ。

 孫子の兵法で知られる古代中国の孫子はこう説く。

『百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり』

 戦争は金も人も大量に使い潰す。戦いになった時点で勝とうが負けようが、最善とはいえない結果しかないのだ。



「詳しくはファリアの領地や屋敷を捜索すれば真相も明るみに出ることでしょう。レオ殿、後のことは我々にお任せを。最終的には皇帝陛下の裁断が下ることになるので」

 団長は少し長い金髪をかき上げながら私の方を見てそう言う。長旅と、戦いで疲れているのは彼らも同じだ。

「それよりレオ殿は領地にお戻りください。きっと家の者や民たちも心配していることでしょう。」

「お気遣い感謝する」

「帝国からの復興支援についても、追々指示が下るはずですのでご安心ください。とにかく、まずは戦いの傷を癒し、しばしの休息が必要だ」

 そうだ。この無益な戦いが始まって以来、まともに気を休める時間などなかった。


「では私はこれで失礼します」

 そう言い、私は陣幕に手をかけ外に出た。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...