上 下
7 / 262
第一章

5話 英雄召喚

しおりを挟む
 郊外にある教会と違い、広場にはすぐについた。辺りには警備の衛兵たちがいつもより多く配置されており、セレモニーの準備が着々と進められていた。

 
 
「おはようございますウルツ様」
 
「おぉアルガー、今日はよろしく頼んだぞ!」
 
 一般の衛兵より良い装備をした彼はウィルフリード軍の副将をしている。つまりは父の補佐官だ。
 
 彼は農民の出身でこの地位まで登りつめた叩きあげだ。一般人の中では最高の階級にあたる。
 
 貴族の最下位である騎士から登りつめた父と境遇が似ていて、気が合うのだろう。頼れる上司と部下だけでなく、一人の男同士として良き関係を築いている。
 
「レオ様、本日はお誕生日おめでとうございます」
 
「ありがとうアルガー」
 
 戦場では父と肩を並べる猛将と聞くが、自分からすると叔父のような存在でもある。
 
 昔からよく酒を持って父を尋ねることもあり、私とも顔見知りなのだ。
 
「そういえばアルガー、ファリアのことだが……」
 
「えぇ、私の方でも調べさせましたが、あの隣の領主のところは……」
 
 何やらお仕事の話らしい。

 
 反乱の恐れがあるというのはよく聞く噂だが、戦時でない帝国は一枚岩とはかけ離れているらしい。
 
 皇族の中でも派閥が別れているらしく、情勢はかなり複雑だ。
 
 凡愚であるとされ皇位継承権を失った第一皇子を復権させ権力にあやかろうとする第一皇子派。皇帝の寵愛を受け、天賦の才があると噂される次期皇帝の第二皇子派。
 
 そして皇位継承権はないが、実は第二皇子よりも優秀と言われる皇女派。彼女は私と同い年らしいので、権力闘争に巻き込まれることなく平穏に暮らして欲しいと密かに願う。
 

 
「レオ、こっちへいらっしゃい」
 
 子供には難しい話だと気を利かせた母が私を呼んだ。
 
「なんでしょうか?」
 
 母の手には装飾された小さな箱があった。
 
「本当はこれが終わってから渡そうと思っていたんだけど、お守り代わりに先に渡しておくわ」
 
 そう言い蓋を開けると中から美しい銀のブレスレットが現れた。中央には何やら宝石が装飾されている。
 
「これは魔法石と言ってね、少しずつだけどこの中に魔力が蓄積されるの。きっとピンチの時あなたを助けてくれるわ」
 
 手首につけると、ずっしりとした重みと、不思議な温かさを感じた。
 
「ありがとうございます母上」
 
 
 セレモニーが始まるまでの数時間の間、父と母は打ち合わせをしていた。私も心の中で何度もスピーチの練習をした。
 
 あくまでも子供らしく、しかし将来に期待できる時期領主としての鱗片を感じさせるスピーチ。
 


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 
「さぁ、そろそろ行こうか」
 
 もう既に民たちも集まってきていた。来賓の席には中小貴族たちの姿も見える。

 父に呼ばれて広場に仮設された台座まで連れられた。いよいよ始まるのだ。
 
 私と父が位置についたのを見た母が、手を掲げ合図を出した。
 
 衛兵たちは気をつけの姿勢をとり、軍楽隊のもの達は一斉にファンファーレを演奏した。
 
「諸君、今日はお集まりいただき感謝する!」
 
 父が話し始めると、どこからともなく歓声と拍手が巻き起こった。父が領民に信頼されているのがよく分かる。
 
「今日この日を持って、レオ=ウィルフリードはウィルフリード家次期当主として認められたことを宣言する!」
 
 先程よりも遥かに大きい歓声が沸き起こった。
 
「元服を迎え、しかる時が来れば、このウィルフリードを守るのはここにいる我が息子である!」
 
 そう手で指し示された私は思わず背がピンと伸びた。
 
「それでは、次期当主レオ=ウィルフリードの挨拶だ!静粛に聞くように!」
 
 当然マイクなどない。私はこの場にいる全員に聞こえるように声を張って話始めた。
 


「皆さま、改めて本日はお集まりいただきありがとうございます。紹介に預かりました、私がレオ=ウィルフリード。次期当主となる者です!」
 
 私がそう宣言すると、座っていた貴族たちも一斉に立ち上がり、拍手喝采が起こった。
 
 この宣言を持って、事実上、彼らより私の地位が上になったからだ。
 
「このウィルフリード領は父と母の治世の元、大きく発展しました。彼らがいる以上、この街には平和と安寧が約束されるでしょう!それは私の代でも同じです。帝国万歳!ウィルフリード万歳!」
 
 大衆を先導するのに最も有用なのはナショナリズムだ。自分の帰属するところが他よりも優位だと思うと、自分まで恵まれていると思い込むからだ。
 
 完璧と思われるスピーチが終わり、第一の関門は突破した。


 
 第二の関門こそが最大の問題だ。
 
「それでは、次期当主の実力を示すべく、神より授かったスキルの披露となる!準備はいいな?」
 
「はい。いつでも大丈夫です」
 
 大きく息を吸う。
 
「よし、ではそのスキル『英雄召喚』を見せてみろ!」
 
 スキルの名前を聞いた民たちは畏怖とも感動とも思える、「おぉ……」という声が漏れたが、貴族たちには明らかに動揺が走っていた。
 
 誰も知らないスキル『英雄召喚』。
 
 召喚スキルの使い方は既に学んでいる。私は手を前に突き出し、息を整え静かに唱えた。


 
「『英雄召喚』……!」
 
 すると次の瞬間、先程母に貰った魔石付ブレスレットが光を放ち始めた。私は思わず目を細める。


 
 その光に飲み込まれた私は、目を開けると、一人、真っ白な世界にいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...