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第58話 漏れる声は濡れている
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「ロスカ!私は真剣に・・・」
彼の胸板を押し返して、フレイアはハッとした。もしかして、と。名前を呼ばれたくてわざと、ふざけた態度を取っているのかもしれないと思ったのだ。
「わざとですか?この態度は」
「何がだ」
「ふざける方の名前は呼びません!」
フレイアは力一杯、ロスカの胸板を再度押し返した。彼の腕の中から逃げ出そうとしたのだが、ロスカはそれを許さなかった。両腕を腰に回されたせいで、いくら胸板を押しても意味を成さない。
「フレイア、頼む。そんなに怒らないでくれ」
「あんな事をしてはいけません!私を貶すのは、政治的やり取りでしょう!」
しっかりした年下の妻である。フレイアの言う通り、彼女の名前を出して貶す事はその要素がよく含まれているのだ。
「名前を呼んでくれるなら、気をつけよう」
「ふざけないでください!」
怪我をした方の手が拳に変わる。掌で押し返してもダメなら、拳で胸板を押し返そうとした。しかし、その手をまた、ロスカに取られてしまう。
「悪かった、そう怒るな。ああやって、頭に血を上らせるべきではなかった」
ロスカはフレイアを宥めるように、怪我をした手に口づけを落とした。拳は開かされ、掌の内側が再びあらわになった。
「ひゃ、あ、!」
でも、人差し指と中指の付け根を舐められ、フレイアは思わず声を上げる。その反応が面白いのか、ロスカは指の腹を啄むように何度も口づけをしてきたのだ。
「あ、だめ、いけません・・・っ」
ロスカの口づけが何を思わせるのか、フレイアには明らかであろう。ただの口づけではない。ロスカが、舌を這わせた時を思い出させる口づけなのだ。
「ここを噛んだら、どうなると思う」
歯並びの良い歯が、フレイアの人差し指に立てられた途端、は、と息をのむ声が思わず漏れてしまった。彼の手が添えられている腰から、上へと何かが駆け抜ける。
「声を聞かせて欲しい。ずっと聞きたいと思っていたんだ」
ロスカの顔がフレイアの首筋に埋まる。あの日以来、肌は合わせていない。それでも、あの時の熱情が再び下腹部から上がってくるのは当然の話である。
「は、あっ・・・そんなにっ」
首筋の薄い皮を剥がないように、歯で傷つけないように。そんな優しい口づけが落とされた。
「お願いだ、名前を呼んでくれ」
両頬に彼の指が添えられ、願われてフレイアは何も言えなくなってしまった。永遠の緑を思わせる彼の緑色の瞳が溶け出しているのだ。
「ロスカ」
「もう一度」
「・・・ロスカ」
「ずっと夢に見ていた日だ」
そう言ってから、彼は愛おしい妻の唇を奪った。数度啄むだけで、彼女の唇は緩やかに開いていく。彼の口づけは好きらしく、もっと、と思ってしまうらしい。ロスカはこれ幸い、と舌を滑り込ませた。
「んんっ、あ、あ」
口づけの度に、声色を窺わせる息が漏れて来るのだ。声が出なくても、満足はしたが声が出るとこんなにも早く、熱が上がってくるのか。ロスカは酷く驚いた。そしてもっと、彼女の濡れた声が聴きたいと思うようになった。人は贅沢だ。
「きゃあ!」
ロスカの唇に夢中になっていたフレイアだが、突然彼に横抱きにされ悲鳴を上げてしまった。寝室に連れていかれ、荒々しくベッドに下ろされてしまう。そしてすぐに彼女の靴は脱がされ、寝室の外に投げ出されてしまった。
「あ、あの、私」
「あんなに可愛らしい声を出されて、我慢が出来ると思うか」
あっという間に、彼女は薄い肌着のままになった。
声が出たとは言え、行為自体に慣れている訳ではない。ベッドの上に座り込み、薄い肌着の奥にあるものが見えないように、フレイアは恥ずかしそうに腕で体を隠した。
彼の胸板を押し返して、フレイアはハッとした。もしかして、と。名前を呼ばれたくてわざと、ふざけた態度を取っているのかもしれないと思ったのだ。
「わざとですか?この態度は」
「何がだ」
「ふざける方の名前は呼びません!」
フレイアは力一杯、ロスカの胸板を再度押し返した。彼の腕の中から逃げ出そうとしたのだが、ロスカはそれを許さなかった。両腕を腰に回されたせいで、いくら胸板を押しても意味を成さない。
「フレイア、頼む。そんなに怒らないでくれ」
「あんな事をしてはいけません!私を貶すのは、政治的やり取りでしょう!」
しっかりした年下の妻である。フレイアの言う通り、彼女の名前を出して貶す事はその要素がよく含まれているのだ。
「名前を呼んでくれるなら、気をつけよう」
「ふざけないでください!」
怪我をした方の手が拳に変わる。掌で押し返してもダメなら、拳で胸板を押し返そうとした。しかし、その手をまた、ロスカに取られてしまう。
「悪かった、そう怒るな。ああやって、頭に血を上らせるべきではなかった」
ロスカはフレイアを宥めるように、怪我をした手に口づけを落とした。拳は開かされ、掌の内側が再びあらわになった。
「ひゃ、あ、!」
でも、人差し指と中指の付け根を舐められ、フレイアは思わず声を上げる。その反応が面白いのか、ロスカは指の腹を啄むように何度も口づけをしてきたのだ。
「あ、だめ、いけません・・・っ」
ロスカの口づけが何を思わせるのか、フレイアには明らかであろう。ただの口づけではない。ロスカが、舌を這わせた時を思い出させる口づけなのだ。
「ここを噛んだら、どうなると思う」
歯並びの良い歯が、フレイアの人差し指に立てられた途端、は、と息をのむ声が思わず漏れてしまった。彼の手が添えられている腰から、上へと何かが駆け抜ける。
「声を聞かせて欲しい。ずっと聞きたいと思っていたんだ」
ロスカの顔がフレイアの首筋に埋まる。あの日以来、肌は合わせていない。それでも、あの時の熱情が再び下腹部から上がってくるのは当然の話である。
「は、あっ・・・そんなにっ」
首筋の薄い皮を剥がないように、歯で傷つけないように。そんな優しい口づけが落とされた。
「お願いだ、名前を呼んでくれ」
両頬に彼の指が添えられ、願われてフレイアは何も言えなくなってしまった。永遠の緑を思わせる彼の緑色の瞳が溶け出しているのだ。
「ロスカ」
「もう一度」
「・・・ロスカ」
「ずっと夢に見ていた日だ」
そう言ってから、彼は愛おしい妻の唇を奪った。数度啄むだけで、彼女の唇は緩やかに開いていく。彼の口づけは好きらしく、もっと、と思ってしまうらしい。ロスカはこれ幸い、と舌を滑り込ませた。
「んんっ、あ、あ」
口づけの度に、声色を窺わせる息が漏れて来るのだ。声が出なくても、満足はしたが声が出るとこんなにも早く、熱が上がってくるのか。ロスカは酷く驚いた。そしてもっと、彼女の濡れた声が聴きたいと思うようになった。人は贅沢だ。
「きゃあ!」
ロスカの唇に夢中になっていたフレイアだが、突然彼に横抱きにされ悲鳴を上げてしまった。寝室に連れていかれ、荒々しくベッドに下ろされてしまう。そしてすぐに彼女の靴は脱がされ、寝室の外に投げ出されてしまった。
「あ、あの、私」
「あんなに可愛らしい声を出されて、我慢が出来ると思うか」
あっという間に、彼女は薄い肌着のままになった。
声が出たとは言え、行為自体に慣れている訳ではない。ベッドの上に座り込み、薄い肌着の奥にあるものが見えないように、フレイアは恥ずかしそうに腕で体を隠した。
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