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第54話 円卓が割れる城
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フレイアは自身の周りに転がる問題を、不安に思いながらもロスカの優しさは嬉しかった。世継ぎに関しても、自然と恵まれるだろうとロスカはフレイアを責め立てるような事はしなかった。そのまま、彼の優しさを享受するフレイアだが、それを周囲の人間は許さなかった。
過越祭の前日に当たる今日、議会が終わった後は元老院の者と妃を呼んで食事を取るのが慣例であった。
日頃、彼らが見られないにんじん色が見えると、皆の視線がフレイアへ向けられた。髪の毛の色のせいか、彼女はドレス選びが苦手だった。灰色がかった、緑色のドレスを身につけたのはつい、数分前のことだ。髪の毛は一本に編み込まれている。
議員達が頭を垂れたように、フレイアもまた、腰を低くし頭を垂らした。婚姻の儀では彼女の真似をしたロスカだったが、今日は横で立ったままであった。
「綺麗だ、フレイア」
手を引いて、ロスカは彼女の頬に触れるだけの口づけをした。フレイアは嬉しそうに、胸に手を当てて微笑んで見せる。声が出ないから、と陰口を叩いていた議員の中には、早くも後悔する者がいた。声が出ずとも、フレイアの表情はコロコロと変わり、声が聞こえてきそうなのだった。
声が出る前からそうではあったが、声が出なくなってから彼女が心掛けるようにしていた事ではある。フレイアの隣には臣下が座り、その隣には彼と同じ派閥を取る人間が座った。
「お妃様が来てから、城は明るくなりましたよ」
恰幅の良い男であるが、耳たぶが大きくどこか人望の大きさを想像させた。フレイアはその言葉に、まあ、と瞳を大きく見開いては首を傾げる。
「それは陛下も同じですな」
臣下はそう言って、片目を瞑った。ウィンクである。ロスカはロスカで、隣に座ったまだ若い青年議員と話し込んでいた。それでも、時折フレイアの方を向いて、会話に問題はないか気にかけていたのだ。
恐ろしい炎帝の息子が、こんなにも気遣い屋だったのか、と若い青年議員は一人驚いた。入城前に聞いていた噂とは全然違うな、と。
「・・・陛下はご自分でお妃様を選ばれたのですよね」
「それがどうした」
フレイアは臣下の話に夢中らしく、ロスカの助けはいらなかったらしい。安心し、横を向けば青年議員はナイフとフォークを置いていた。
「自分も、無事に女性を選んで幸せになりたいです」
「縁談の話があるんじゃないのか?」
「あります。でも、皆、私ではなくて家を見ているようなのです。信用が大事なのはわかりますが、私はもっと、自由に生きたいです」
陛下に話すべき事かはわかりませんが、と付け足される。ロスカは青年に自分を重ねた。とうに青年の年齢は過ぎているが、彼がそう感じるのも理解出来た。
「皆、子どもを自分の家の存続に使いたがる。相続の為に子を持てと。国を続ける為には必要な事ではあるが、難しいものだ」
ロスカはそう言いながらも、視線も心も違う場所にあった。青年議員の隣の隣に座っている議員が、昨日の男である、フレイアのことを話しているのだ。酔っているらしく、批判の声は次第に大きくなっている。
「陛下もそう思われるのですね」
青年議員はやっぱり、噂は当てにならないと思った。恐ろしい炎帝の影を被ったなんて嘘だ、と。
しかし、その考えはすぐに破れる。噂や一瞬の姿だけで、ロスカを判断した事を後悔した。
「しかし、子どもにも大人にも意思は皆ある。責任も取れる人間が指図するのはおかしい、そう思わないか」
ロスカがナプキンで口を拭っては席を立った。
青年議員は首を動かして、ロスカの方向を追った。噂が嘘なのか本当なのか、彼は混乱した。
過越祭の前日に当たる今日、議会が終わった後は元老院の者と妃を呼んで食事を取るのが慣例であった。
日頃、彼らが見られないにんじん色が見えると、皆の視線がフレイアへ向けられた。髪の毛の色のせいか、彼女はドレス選びが苦手だった。灰色がかった、緑色のドレスを身につけたのはつい、数分前のことだ。髪の毛は一本に編み込まれている。
議員達が頭を垂れたように、フレイアもまた、腰を低くし頭を垂らした。婚姻の儀では彼女の真似をしたロスカだったが、今日は横で立ったままであった。
「綺麗だ、フレイア」
手を引いて、ロスカは彼女の頬に触れるだけの口づけをした。フレイアは嬉しそうに、胸に手を当てて微笑んで見せる。声が出ないから、と陰口を叩いていた議員の中には、早くも後悔する者がいた。声が出ずとも、フレイアの表情はコロコロと変わり、声が聞こえてきそうなのだった。
声が出る前からそうではあったが、声が出なくなってから彼女が心掛けるようにしていた事ではある。フレイアの隣には臣下が座り、その隣には彼と同じ派閥を取る人間が座った。
「お妃様が来てから、城は明るくなりましたよ」
恰幅の良い男であるが、耳たぶが大きくどこか人望の大きさを想像させた。フレイアはその言葉に、まあ、と瞳を大きく見開いては首を傾げる。
「それは陛下も同じですな」
臣下はそう言って、片目を瞑った。ウィンクである。ロスカはロスカで、隣に座ったまだ若い青年議員と話し込んでいた。それでも、時折フレイアの方を向いて、会話に問題はないか気にかけていたのだ。
恐ろしい炎帝の息子が、こんなにも気遣い屋だったのか、と若い青年議員は一人驚いた。入城前に聞いていた噂とは全然違うな、と。
「・・・陛下はご自分でお妃様を選ばれたのですよね」
「それがどうした」
フレイアは臣下の話に夢中らしく、ロスカの助けはいらなかったらしい。安心し、横を向けば青年議員はナイフとフォークを置いていた。
「自分も、無事に女性を選んで幸せになりたいです」
「縁談の話があるんじゃないのか?」
「あります。でも、皆、私ではなくて家を見ているようなのです。信用が大事なのはわかりますが、私はもっと、自由に生きたいです」
陛下に話すべき事かはわかりませんが、と付け足される。ロスカは青年に自分を重ねた。とうに青年の年齢は過ぎているが、彼がそう感じるのも理解出来た。
「皆、子どもを自分の家の存続に使いたがる。相続の為に子を持てと。国を続ける為には必要な事ではあるが、難しいものだ」
ロスカはそう言いながらも、視線も心も違う場所にあった。青年議員の隣の隣に座っている議員が、昨日の男である、フレイアのことを話しているのだ。酔っているらしく、批判の声は次第に大きくなっている。
「陛下もそう思われるのですね」
青年議員はやっぱり、噂は当てにならないと思った。恐ろしい炎帝の影を被ったなんて嘘だ、と。
しかし、その考えはすぐに破れる。噂や一瞬の姿だけで、ロスカを判断した事を後悔した。
「しかし、子どもにも大人にも意思は皆ある。責任も取れる人間が指図するのはおかしい、そう思わないか」
ロスカがナプキンで口を拭っては席を立った。
青年議員は首を動かして、ロスカの方向を追った。噂が嘘なのか本当なのか、彼は混乱した。
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