【完結】極夜の国王様は春色の朝焼けを知る

胡麻川ごんべ

文字の大きさ
上 下
54 / 61

第54話 円卓が割れる城

しおりを挟む
 フレイアは自身の周りに転がる問題を、不安に思いながらもロスカの優しさは嬉しかった。世継ぎに関しても、自然と恵まれるだろうとロスカはフレイアを責め立てるような事はしなかった。そのまま、彼の優しさを享受するフレイアだが、それを周囲の人間は許さなかった。
 
 過越祭の前日に当たる今日、議会が終わった後は元老院の者と妃を呼んで食事を取るのが慣例であった。
 日頃、彼らが見られないにんじん色が見えると、皆の視線がフレイアへ向けられた。髪の毛の色のせいか、彼女はドレス選びが苦手だった。灰色がかった、緑色のドレスを身につけたのはつい、数分前のことだ。髪の毛は一本に編み込まれている。
 議員達が頭を垂れたように、フレイアもまた、腰を低くし頭を垂らした。婚姻の儀では彼女の真似をしたロスカだったが、今日は横で立ったままであった。
 
「綺麗だ、フレイア」
 
 手を引いて、ロスカは彼女の頬に触れるだけの口づけをした。フレイアは嬉しそうに、胸に手を当てて微笑んで見せる。声が出ないから、と陰口を叩いていた議員の中には、早くも後悔する者がいた。声が出ずとも、フレイアの表情はコロコロと変わり、声が聞こえてきそうなのだった。
 声が出る前からそうではあったが、声が出なくなってから彼女が心掛けるようにしていた事ではある。フレイアの隣には臣下が座り、その隣には彼と同じ派閥を取る人間が座った。
 
「お妃様が来てから、城は明るくなりましたよ」
 
 恰幅の良い男であるが、耳たぶが大きくどこか人望の大きさを想像させた。フレイアはその言葉に、まあ、と瞳を大きく見開いては首を傾げる。
 
「それは陛下も同じですな」
 
 臣下はそう言って、片目を瞑った。ウィンクである。ロスカはロスカで、隣に座ったまだ若い青年議員と話し込んでいた。それでも、時折フレイアの方を向いて、会話に問題はないか気にかけていたのだ。
 恐ろしい炎帝の息子が、こんなにも気遣い屋だったのか、と若い青年議員は一人驚いた。入城前に聞いていた噂とは全然違うな、と。
 
「・・・陛下はご自分でお妃様を選ばれたのですよね」
 
「それがどうした」
 
 フレイアは臣下の話に夢中らしく、ロスカの助けはいらなかったらしい。安心し、横を向けば青年議員はナイフとフォークを置いていた。
 
「自分も、無事に女性を選んで幸せになりたいです」
 
「縁談の話があるんじゃないのか?」
 
「あります。でも、皆、私ではなくて家を見ているようなのです。信用が大事なのはわかりますが、私はもっと、自由に生きたいです」
 
 陛下に話すべき事かはわかりませんが、と付け足される。ロスカは青年に自分を重ねた。とうに青年の年齢は過ぎているが、彼がそう感じるのも理解出来た。
 
「皆、子どもを自分の家の存続に使いたがる。相続の為に子を持てと。国を続ける為には必要な事ではあるが、難しいものだ」
 
 ロスカはそう言いながらも、視線も心も違う場所にあった。青年議員の隣の隣に座っている議員が、昨日の男である、フレイアのことを話しているのだ。酔っているらしく、批判の声は次第に大きくなっている。
 
「陛下もそう思われるのですね」
 
 青年議員はやっぱり、噂は当てにならないと思った。恐ろしい炎帝の影を被ったなんて嘘だ、と。
しかし、その考えはすぐに破れる。噂や一瞬の姿だけで、ロスカを判断した事を後悔した。
 
「しかし、子どもにも大人にも意思は皆ある。責任も取れる人間が指図するのはおかしい、そう思わないか」
 
 ロスカがナプキンで口を拭っては席を立った。
青年議員は首を動かして、ロスカの方向を追った。噂が嘘なのか本当なのか、彼は混乱した。
 

 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

処理中です...