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第6話 あなたを思っている手紙

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 手紙を出して間もない日の事である。
 
「陛下、フレイア=マイト様からのお手紙です」
 
 手紙の返事というのは来ないものだ。
 
 ロスカにとって、私的な手紙はそういうものだと理解していた。
返事が来るのは政務的なものだけ。その認識だったので、彼は目を大きくして驚かせた。
 
 自室に戻り、封を切った。
本当にフレイアからの返事なのだろうか。起きた出来事が信じられるず、ロスカは疑いながら紙を取り出す。
これが枯葉や紙切れだったら。勿論そんな事はない。封筒から出てきたのは小さな小花が散りばめられた、紙であった。紛れもない、フレイアからの手紙である。
 
『国王陛下
 
 この度は親身なお言葉を頂きまして、誠にありがとうございます。
 足を見られた事については、躊躇いもありました。ですが、夜に酷く痛んだので、陛下の治療がなければもっと酷かったと思われます。怪我の治りが良いのも、陛下のおかげです。私は陛下のお心配りに感謝しております。
もっとも、私が注意して森に入るべきでした。
 どうぞ、お気になさらないで下さい。
 
 お手紙、とても嬉しかったです。このように心の内を、率直に話して良いかわからないのですが。お許しください。
 
          フレイア=マイト』


 
 ベッドに寝転びながら読んだロスカは、天を仰いだ。既に仰いでいたが。
亡命先から幾度も彼は兄に手紙を書いた。だが、どれも返事は来なかった。
手紙の返事を出して、貴族の私兵団に追跡されるリスクがあったのも理解はしていた。それでも、返事がないというのは悲しいものだった。永遠と壁に話しかけているような気になるのだ。聞いているのかもわからない、壁にだ。
  
 兄からはいずれ、手紙が来る。そう信じていた彼の希望は兄の死によって潰えた。かくして、彼にとって手紙というのは壁に話しかけるのと同義になったのだ。
そう思っているのに、フレイアに手紙を出したのは何故か。国王だから返事が来ると思ったのだろうか。否、彼はそんな事を思っていなかった。ただ、彼女に自分の気持ちを知らせたかったのだ。せっかく妻を迎え入れるのだから、少しでも印象を良くしておきたかった。
 
 自分を思って書いてくれるとは、なんて心地の良い事なのだろう。ロスカは嬉しくなった。手紙に散りばめられた小花が飛び出してきたかのように、彼の胸の中には可愛らしい花びらが飛んでいる。
外は既に外套なしでは歩けない。それでも、今の彼なら問題なく歩けそうだった。手紙の返事がきた嬉しさに、浸っていた。
でも、それと同時に彼はまた手紙を書きたくなった。
 
『フレイア
 
 返事をくれてありがとう。
 あなたがそう言ってくれて、安心した。
 狩猟場を知らせる看板には不備があった。だから、フレイアは悪くない。そう言わないでほしい。
 近いうちに、雪が本格的に降り出す前に、会いに行けたら行こうと思っている。
 
              ロスカ』
              
              
 また、王家の紋章入りの手紙の返事が来た事にフレイアは驚いた。差出人は前回と同じく、彼女の婚約者になったロスカである。
 
 マメな王様なのね。
 
 誰もいない広い居間で、フレイアはフットマンに怪我をした足を乗せる。暖炉に当たりながら、ロスカからの手紙を読んだ。短いものだったが、彼からの心が寄せられた気がした。炎帝は恐ろしく、怪物のように思えたが第二王子であった彼は違うらしい。フレイアは、自分の婚姻が色よいもの、夫婦として色よくなれれば、と願った。
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