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第1話 出会い
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フレイアは罰が当たったのだと思った。授業をサボった、先生を欺いた罰だわ、と。
貿易を生業とする一家の長女に生まれた彼女は、呆然とただただ空を見上げていた。湖の水を飲んでいる愛馬は顔を上げ、起き上がらないフレイアをじっと見つめる。にんじん色の髪の毛は地面を覆い隠すように広がっているが、紅葉と混ざり、彼女の髪の毛もさながら紅葉の一部のように見えた。
空を見上げる薄黄色のかかった茶色の瞳に、焦りという感情は見えない。どちらかと言えば諦め、の色だろう。
彼女の家からそう遠くない森の奥にある湖がフレイアは大好きだった。殆ど人が訪れる事のない、静かな湖畔である。浮世から切り離された、秘密の場所だった。明日からは雪が降るだろうと予想されていたから、陽が落ちる前に愛馬に跨ったのだ。長い冬が鎮座してしまえば、寒すぎて外に出るのも難しくなる。だから、今日の授業は課外授業なの、と母親に嘘をついて。
そしたら、狩猟用に仕掛けられた罠に掛かってしまった。愛馬を湖側の木に括り付け、落ちていた木の実を拾おうとした時である。ぐっと足を強く引かれ、そのまま地面へ倒れ込んでしまった。それに、罠である縄には何やら小さな刃がついていたらしい。足首が濡れているような気がした。
助けを呼びたくても呼べない。愛馬を放って、屋敷に戻すことも出来るが起き上がる事も出来ない。でも多分、きっと先生が見つけてくれるだろう。ごめんなさい、そうフレイアは思いながら空を見つめた。自分が凍え死ぬ前にみつかりますように、と。
程なくすると、葉を踏み締める音が彼女の耳に届いた。良かった、凍える間もなくて、と安堵し頭を足音の方へ仰け反らせる。けれども彼女の喜びも束の間、凍死した方がマシだったかもしれないと顔色を変えた。
「女だ」
反転した視界に見えるのは、悪名高き国王陛下直属の部隊の制服を着た男達である。四人程いるだろうか。
「お前、入り口にあった看板を見なかったのか?狩猟場所だぞ、ここは」
兵士の一人が口を開く。看板?ただの木の棒なら刺さっていたが、とフレイアは思い出す。
すると、別の兵士が馬を降り彼女を起き上がらせた。助けるというよりも、まるで侵略者を捕らえるような起こし方だ。細い腕を掴むには強過ぎる。彼女は顔を歪ませたが、兵士達からすればどうでも良かった。
「俺は別に女でも構わないけどな」
「名前は?何歳だ?」
分厚い革手袋に包まれた手でフレイアは下顎を掴まれる。自分と同い年くらいの兵士の、青年の瞳は好奇心で満ち溢れていた。
さながら雌犬を見つけた発情期の雄犬のように。言い過ぎかもしれないが、異性に慣れていない彼女にはそう見えたのだ。
顔の向きこそ変えれないものの、視線は合わせないようにと逸らした。
「おい、手荒な真似はするな」
フレイアの顔を掴んでいた兵士は、首根っこを何者かに摘まれたようで、すぐに彼女を解放して立ち上がった。姿勢を正し、声の方向を見つめる様に先程までの好奇心はどこにもない。
「申し訳ありません、陛下。狩猟場に迷い込んだようです」
「ならば、そう扱う理由がないだろ」
夏の緑を思わせる色を宿しているのに、その瞳はどこか冷たい。
淡い金色の髪は亡くなった妃譲りだろう。フレイアは陛下、という言葉を聞かずとも彼の正体をわかっていた。
恐怖政治を繰り広げていた炎帝の第二王子である。つい三ヶ月前に彼は王位を継いだばかりだった。
「陛下」
国王は馬から降り、フレイアの足首を捕らえている縄を解き始めた。
足首を見られるなんて、と血の気が引く思いだったが抵抗は出来なかった。
「この近くに住んでいるのか、名前はなんだ?家まで送ろう」
フレイアは何も言えない。
兵士達に返事をしろ、と強く叫ばれるも国王はそれを手で制した。彼は兵士達が彼女を、このにんじん色の髪をした娘を恐れさせているのだと思った。しかし、そうではないらしい。じっと彼女の答えを待つも、彼女は何も言わない。喉に手を当てて、首を横に振るだけだ。彼は眉間に皺を寄せ少しだけ、考えた。
「・・・口がきけない?」
はしばみ色の瞳が見開かれ、大きく頷かれる。
「何か書ける物は?お前達もないのか」
誰も持っていないらしい。
狩猟に来ていたのだから無くて当たり前である。国王はふう、と短く溜息を吐いてから掌を彼女に差し出した。名前の綴りを教えてほしいというのだ。フレイアが人差し指を出すと、慌てて彼は手袋を取った。
彼女の手よりも一回りも、二回りも大きな手だ。指の付け根にはいくつか豆がある。その豆を避けながら、ゆっくりと文字を綴った。こそばゆい感覚が掌から広がるが、彼は文字を感じ取るのに集中した。
「フレイア?フレイヤ?」
ア、と彼女は口の動きで彼に自身の名前を告げる。暫く間を置いてから、ああ、と国王は頷いた。
そして、フレイアの帰宅は大騒ぎになった。
嘘をついて家を抜け出した娘が、国王と家に戻ってきたのだ。それも、怪我をして。
「看板の整備が悪く、ご迷惑をおかけした」
「まあ、国王陛下。とんでもございません。寛大なお心に感謝申し上げます」
彼女の母親は腰を低くし、首を深く垂らした。一体誰が、国王直属の兵士と国王の訪問を予想出来ただろうか。
そして、屋敷の誰もが父親の炎帝とは似つかないと思った。かつての国王陛下は激しい癇癪を持つ恐ろしい男であった。自身の政策に反対する者など許さず、見せしめのように捕らえて処刑していた。多くの貴族が命を失ったが、彼に逆らえる者はおらず、国の権力は彼に集中して行くばかりであった。そしてまた、噂の域を出ないが、彼の権力の下支えは特別な私兵団が国中にいたという。彼らが反対する者を見つけ上げ、処刑していたらしいのだ。
「あまり強い罠ではなかったから、足の怪我が酷くないと良い。それでは。フレイア、また」
眉間に皺を寄せ、気難しい顔をしている父親の肖像画からは想像も出来ない優しげな息子である。
母親はまた、腰を屈めて深く首を垂らして、フレイアも使用人に支えられながら頭を下げた。また、という国王の言葉を深く考えずに。
この数週間後、フレイアの婚姻が決まる事になる。
貿易を生業とする一家の長女に生まれた彼女は、呆然とただただ空を見上げていた。湖の水を飲んでいる愛馬は顔を上げ、起き上がらないフレイアをじっと見つめる。にんじん色の髪の毛は地面を覆い隠すように広がっているが、紅葉と混ざり、彼女の髪の毛もさながら紅葉の一部のように見えた。
空を見上げる薄黄色のかかった茶色の瞳に、焦りという感情は見えない。どちらかと言えば諦め、の色だろう。
彼女の家からそう遠くない森の奥にある湖がフレイアは大好きだった。殆ど人が訪れる事のない、静かな湖畔である。浮世から切り離された、秘密の場所だった。明日からは雪が降るだろうと予想されていたから、陽が落ちる前に愛馬に跨ったのだ。長い冬が鎮座してしまえば、寒すぎて外に出るのも難しくなる。だから、今日の授業は課外授業なの、と母親に嘘をついて。
そしたら、狩猟用に仕掛けられた罠に掛かってしまった。愛馬を湖側の木に括り付け、落ちていた木の実を拾おうとした時である。ぐっと足を強く引かれ、そのまま地面へ倒れ込んでしまった。それに、罠である縄には何やら小さな刃がついていたらしい。足首が濡れているような気がした。
助けを呼びたくても呼べない。愛馬を放って、屋敷に戻すことも出来るが起き上がる事も出来ない。でも多分、きっと先生が見つけてくれるだろう。ごめんなさい、そうフレイアは思いながら空を見つめた。自分が凍え死ぬ前にみつかりますように、と。
程なくすると、葉を踏み締める音が彼女の耳に届いた。良かった、凍える間もなくて、と安堵し頭を足音の方へ仰け反らせる。けれども彼女の喜びも束の間、凍死した方がマシだったかもしれないと顔色を変えた。
「女だ」
反転した視界に見えるのは、悪名高き国王陛下直属の部隊の制服を着た男達である。四人程いるだろうか。
「お前、入り口にあった看板を見なかったのか?狩猟場所だぞ、ここは」
兵士の一人が口を開く。看板?ただの木の棒なら刺さっていたが、とフレイアは思い出す。
すると、別の兵士が馬を降り彼女を起き上がらせた。助けるというよりも、まるで侵略者を捕らえるような起こし方だ。細い腕を掴むには強過ぎる。彼女は顔を歪ませたが、兵士達からすればどうでも良かった。
「俺は別に女でも構わないけどな」
「名前は?何歳だ?」
分厚い革手袋に包まれた手でフレイアは下顎を掴まれる。自分と同い年くらいの兵士の、青年の瞳は好奇心で満ち溢れていた。
さながら雌犬を見つけた発情期の雄犬のように。言い過ぎかもしれないが、異性に慣れていない彼女にはそう見えたのだ。
顔の向きこそ変えれないものの、視線は合わせないようにと逸らした。
「おい、手荒な真似はするな」
フレイアの顔を掴んでいた兵士は、首根っこを何者かに摘まれたようで、すぐに彼女を解放して立ち上がった。姿勢を正し、声の方向を見つめる様に先程までの好奇心はどこにもない。
「申し訳ありません、陛下。狩猟場に迷い込んだようです」
「ならば、そう扱う理由がないだろ」
夏の緑を思わせる色を宿しているのに、その瞳はどこか冷たい。
淡い金色の髪は亡くなった妃譲りだろう。フレイアは陛下、という言葉を聞かずとも彼の正体をわかっていた。
恐怖政治を繰り広げていた炎帝の第二王子である。つい三ヶ月前に彼は王位を継いだばかりだった。
「陛下」
国王は馬から降り、フレイアの足首を捕らえている縄を解き始めた。
足首を見られるなんて、と血の気が引く思いだったが抵抗は出来なかった。
「この近くに住んでいるのか、名前はなんだ?家まで送ろう」
フレイアは何も言えない。
兵士達に返事をしろ、と強く叫ばれるも国王はそれを手で制した。彼は兵士達が彼女を、このにんじん色の髪をした娘を恐れさせているのだと思った。しかし、そうではないらしい。じっと彼女の答えを待つも、彼女は何も言わない。喉に手を当てて、首を横に振るだけだ。彼は眉間に皺を寄せ少しだけ、考えた。
「・・・口がきけない?」
はしばみ色の瞳が見開かれ、大きく頷かれる。
「何か書ける物は?お前達もないのか」
誰も持っていないらしい。
狩猟に来ていたのだから無くて当たり前である。国王はふう、と短く溜息を吐いてから掌を彼女に差し出した。名前の綴りを教えてほしいというのだ。フレイアが人差し指を出すと、慌てて彼は手袋を取った。
彼女の手よりも一回りも、二回りも大きな手だ。指の付け根にはいくつか豆がある。その豆を避けながら、ゆっくりと文字を綴った。こそばゆい感覚が掌から広がるが、彼は文字を感じ取るのに集中した。
「フレイア?フレイヤ?」
ア、と彼女は口の動きで彼に自身の名前を告げる。暫く間を置いてから、ああ、と国王は頷いた。
そして、フレイアの帰宅は大騒ぎになった。
嘘をついて家を抜け出した娘が、国王と家に戻ってきたのだ。それも、怪我をして。
「看板の整備が悪く、ご迷惑をおかけした」
「まあ、国王陛下。とんでもございません。寛大なお心に感謝申し上げます」
彼女の母親は腰を低くし、首を深く垂らした。一体誰が、国王直属の兵士と国王の訪問を予想出来ただろうか。
そして、屋敷の誰もが父親の炎帝とは似つかないと思った。かつての国王陛下は激しい癇癪を持つ恐ろしい男であった。自身の政策に反対する者など許さず、見せしめのように捕らえて処刑していた。多くの貴族が命を失ったが、彼に逆らえる者はおらず、国の権力は彼に集中して行くばかりであった。そしてまた、噂の域を出ないが、彼の権力の下支えは特別な私兵団が国中にいたという。彼らが反対する者を見つけ上げ、処刑していたらしいのだ。
「あまり強い罠ではなかったから、足の怪我が酷くないと良い。それでは。フレイア、また」
眉間に皺を寄せ、気難しい顔をしている父親の肖像画からは想像も出来ない優しげな息子である。
母親はまた、腰を屈めて深く首を垂らして、フレイアも使用人に支えられながら頭を下げた。また、という国王の言葉を深く考えずに。
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