君だけを愛してる

粉物

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おかしい。俺の家と椿の家は近所だったこともあり、もう数え切れないくらいに行ってるんだけど・・・、何故か知らない方向へ向かってる気がする。


「・・・ねぇ、俺達の家こっちじゃないよね?」
「あれ、歩に話してなかったっけ?俺、一人暮らしすることにしたの」
「・・・えぇえっ!?」

なにそれ全然知らなかったよ?!一言もそんな話しされなかったし!

「なんで急に一人暮らし?」
「うちの親、昔から男は早めに一人暮らし始めてさっさと自立しろーっていつも言ってたでしょ?あと2年もしたら俺たち大学生だし、タイミング的にもちょうどいいかなって思ってね」
「そう、なんだ・・・知らなかった」
「っていっても、まだ部屋を借りたばかりで家具とかほとんど無いからこれから巣作りって段階なんだけどね~。部屋のこと色々と拘ってたら中々見つからなくてさぁ」
「・・・ふぅん」

新しい椿の家、新しい椿の生活、そこには俺の思い出も居場所も全く無くて。
きっと新しい彼女だけがそこに入り込むことができるんだろうな。
またツキンと胸に鋭利なものが刺さったような痛みが走り、自分の女々しさに嫌気がさす。


「着いたよ、ここが俺の新しい家」
声をかけられて下に向けていた視線を上げると、
「・・・え?なにここ、高級マンション・・・?」
それは外観を見ただけで俺達とは住む世界が違うことが分かるほど豪華、だけどとても洗練されて落ち着いたデザイナーズマンションだった。
「ははは、歩ったら口が開いてるよ。エレベーターこっち」
ぽかんと口を開けて見上げていた俺の腕を椿が引いて建物に足を踏み入れた。
内装も外観を裏切らない高級感で(俺馬鹿だから他に言葉が見つからない)やっぱり空いた口が塞がらなかった。

エレベーターに乗り込むと、椿は最上階のボタンを押した。
「んんん???椿の部屋ってなんかい・・・???」
「7階だけど」
ボタンの押し間違いでは無かったのか・・・。

ポーンとエレベーターの到着音がなり扉が開くと、目の前には扉が、ひとつ。
「え、ここ椿の部屋以外は?」
「俺の部屋だけだよ?」
「・・・・・・・」
え?椿の家ってそんなに金持ちだった?俺幼馴染なのに椿の家のこと勘違いしてた???

「質問は後でいくらでも答えてあげるから、ほら、入って入って」
「えっ、いいよ漫画返してもらうだけだし。ここで待ってる」
正直言うと、もう二度と来ることもないであろう『椿と新しい恋人』のための空間を知ってしまったらまた女々しいことを考えてしまうのが分かりきっていたので入りたくない。

「えええ入ってよー!廊下で待たせるなんて悪いし、お茶くらい出せるからー!」
ぐいぐいと手を引きながら椿が駄々をこねる。こうなったら頑固なんだよなぁ。
「・・・わかったわかった、入るから腕引っ張るな」
ていうかこいつ、さっき俺と別れ話したばっかりなのに気まずくないのか?

半ば強引に部屋に入ると、中は俺が予想していた以上の広さだった。
「ここ、一人で住むにしては広すぎない?」
「んーそうかな?まぁ、将来のことも考えてもともと一人暮らしようで探してた訳じゃないからね」
「あー・・・そう」
聞くんじゃなかった。

「まだ暖房が効いてないから寒いでしょ。これ、知り合いにお土産で貰った紅茶なんだけどよかったらどうぞ。ちょっと漫画探してくるからゆっくりしててね」
「ん、ありがと」
椿が奥の部屋に引っ込むのを見届けてからもう一度周りを見渡す。確かにまだ家具はほとんどなくてだだっ広い空間・・・あ、テレビも無いんだ。
少し暖房が効いてきたが、先程公園で話していたせいで体の芯まで冷え切っていた身体を紅茶を飲んで暖める。お、意外と美味しい・・・なんていう紅茶かあとで聞いてみようかな。
あっという間にそれを飲み干すと、手持ち無沙汰な俺は先程の事を考えないように無駄にスマホを触って気を紛らわせた。


「それにしても、椿遅いなぁ・・・なんか俺眠くなってきたんだけど・・・」
部屋が広いから漫画探すのも時間がかかるのかな?でも、ほとんど物がないならすぐに・・・あれ、でもなんで実家じゃなくてわざわざこっちに、置いて、たんだ・・ろ・・・
突然襲ってきた強い眠気に抗えず、俺の記憶はそこで途絶えた。
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