君だけを愛してる

粉物

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僕、桜庭歩にはもうかれこれ数年間ずっと悩んでいることがある。
いや、正確には悩んでいるというより困っている、のほうが正しいのかな。
僕が一体何をそんなに悩んでいるのかというと・・・


パンッパンッ グチュ…
「っ・・・はぁ、気持ちいい・・・ほら、もっと動いて・・・?」

この放課後の教室にふさわしくないコトをしながら色気たっぷりにイヤラシイ台詞を吐いている男、八乙女椿のことだ。

椿と俺は昔から家が近くて幼稚園時代からの付き合い、つまり幼馴染というものだった。
そして中学2年の冬に椿から告白されてから、幼馴染という肩書は恋人というものに変化した。
物心ついたときから椿に対して、ずっと密かに恋心をいだいていた俺は当時、本当に嬉しくて嬉しくてボロボロと涙を流しながら何度も頷いたことをはっきりと覚えている。
一時は自分がゲイだということを椿に知られて軽蔑されることを恐れて、少しずつ距離をおいたりして必死に押さえ込もうとした恋がまさか実るなんて思ってなかったから、思いが通じ合ったあのとき、俺たちには幸せな未来が待っていると、信じて疑わなかった。

だけど、浮かれきっていた俺に突きつけられた現実は全く違っていたんだ。



グチュ、グチュ・・・
「あぁ、もう、イキそう」

生徒が残っていない教室でセックスをしている俺の恋人、だけどその腕の中にいるのは俺ではなくて学年でも美少女と有名な女子生徒。
「恋人」であるはずの俺は教室の外で静かに佇み、その行為が終わるのをただただ待っていた。
(一緒に帰ろうって、教室で待ってるねって誘ってきたのは椿のほうなのにな・・・)
胸の奥の奥がジクジクと痛みを訴えてくるのを歯を食いしばって誤魔化すのは今回が初めてではなかった。

(あぁ、やっぱりダメだったなぁ・・・)




初めて椿の浮気に気付いたのは、付き合い始めて1ヶ月経った頃。
委員会の用事で放課後残らなければいけないから先に帰ってほしいと彼に伝え、空が紫色から藍色に色を変えだしたころに一人で帰路についていた。
毎日通り掛かる公園に差し掛かったときベンチの方から聞き覚えのある声が聞こえたから、視線を向けると、その瞬間視界に飛び込んできたのは、楽しそうに会話をする椿と、その隣に座って頬を紅く染める同じクラスの女の子の姿。
お互いに寄り掛かるようにベンチに腰掛け、密着していた手は恋人繋ぎをしていた。
それを見た瞬間頭の中が真っ白になった俺はその後どうしたのか記憶に無くて、気がつくと自分の部屋にいた。

その後、椿に浮気を問いただそうかとも思ったけど、どうしても出来なかった・・・。




椿は昔から凄くモテた。目鼻立ちは整い、優しげに垂れた目は視線があっただけで恋を錯覚するほどに色気を醸し出している。一度も染めたことのない艶のある黒髪は襟足を短めに切りそろえられていて彼の清廉さを際立たせた。
運動も勉強もトップクラスで人当たりもいい椿は、いつも人の輪の中心に居た。
対して俺は容姿が際立って整っているわけでもない。背も高くないし頭がいいわけでも運動が出来るわけでもない。人見知りでいつもクラスの隅で心を開いた友人とだけつるんでいた。

そんな俺が人気者の椿と付き合えるなんて本当に奇跡に近いことで・・・もし、浮気を問い詰めて「面倒くさいからもう別れよう」なんて言われるくらいなら、見なかったことにしようと。
俺が我慢さえしていれば彼の恋人で居続けることが出来ると、ジクジクと痛む胸を押さえながら自分自身に言い聞かせた。




浮気をしているのが勘違いかも知れないと思う程に、彼は俺を物凄く甘やかしてくれた。
朝はいつも家の前で待っててくれて二人で登校したし、放課後は用事がない限りいつも一緒に手を繋いで帰った。
休みの日一緒にどこかに遊びに出掛けて、そうでない日はどちらかの家で遊んでキスをしてセックスをして・・・。
同じベッドで目を覚ますと必ず僕を抱き締めて何度も額や唇にキスをしてくれて、一緒にいればいるほど俺の中の椿のことが好きという気持ちが溢れて溢れてどうしようもなかった。

大好き、大好き、大好き・・・ずっとお前の隣りにいたい、俺のこと捨てないで、浮気しないで、俺だけを見て。
そんな俺の願いも虚しく、彼は数えるのも放棄するほど沢山の人にその笑顔を向けた。




俺に甘い言葉を囁きながらも次々と浮気を繰り返す恋人に、俺の心は少しずつ限界を迎えていった。
だから、心が完全に壊れてしまわないように自分の中で一つだけ決めたことがあった。

『付き合いだしてから3年間経っても浮気癖が治らなければ椿に別れを伝える』

そして今日が丁度、椿に告白された日から三年。
彼に別れを告げる日。
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