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襲来する元婚約者
しおりを挟むティナを追放してから数日経ったある日、元婚約者のロレーヌが正装でうちへやってきた。
「どういったご用件かしら?」
「婚約破棄を取り消して欲しい、誤解してたんだ」
ロレーヌが私に向かって頭を下げてきても、何も感じない。
「“誤解”なさってたんですね」
「あぁ、そうなんだ。許してほしい」
「……お断りします」
え? という言葉と共にこちらを向いたロレーヌの顔は面白かった。少し笑いそうになってしまった。
「お父様にも既に伝えてありますし、婚約も婚約破棄も簡単にすることではありませんよね? なにより、謝ることすら出来ない方とは結婚なんてしたくありません」
「わ、わるかったよ……。あの子が泣くから本当に苦しんでいるような気がして……」
「人のせいにするな! 全部お前が決めたことだろ!」
私の汚い言葉遣いに口をあんぐりと開けたロレーヌだったが、またすぐに軽口を叩き始めた。どいつもこいつも人の話をろくに聞かない。
その後もロレーヌはくどくどとしつこく破棄を取り消すように迫ってきて、断ってもらちが明かない。仕方なく執務室へと連行する。
幸いにもその日も父は執務を行っており、ロレーヌと引き合わせることが出来た。
「やぁ、うちのナターシャが世話になったようだね。」
ティナを信じたせいで私が深く傷付いたと思っている父は、ロレーヌに微かな笑みを向けた。
歓迎されていると勘違いしたらしいロレーヌはニヤリと口の端を上げる。
「……っ、とんでもないです」
「話は全て聞いているよ、……『きみが婚約を破棄した』とお父様宛てに正式に手紙を送っておいた。ちゃんと届いてるといいんだが。」
私が父に破棄されたことを言えない、と思っていたんだろう。一気に青ざめたロレーヌの目は、キョロキョロと不自然に泳いでいた。
「そ、それは!」
「……ん、なにか間違っているかね?」
「あ、いえ、その……。もう一度機会を頂けないか……と、思いまして……」
ロレーヌはしどろもどろになって、横にいる私をぎろりと睨み付けてきたが、素知らぬ顔をした。父に分かるようにやや眉尻を下げて、私は言う。
「何度もお断りしてるのにこちらのいうことを聞いて下さらないんです、私はすぐに破棄すると同意しましたのに……」
「それとこれとは話が違う!!!」
「黙りなさいッ!」
ティナに続いてロレーヌにまで大きな声で怒鳴りつける父の血圧が心配になる。こんなに顔を真っ赤にして怒ることができる人だと、今まで知らなかった。
「婚約を破棄するなんてそんな簡単に口にできることなのか? これは家同士の問題でもあるんだぞ」
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