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追放された妹
しおりを挟む「……ナターシャ、大丈夫か」
父が差し伸べてきた手をつかむと、引っ張り上げてもらいながら立ちあがった。
使用人を呼びつけると、医師を呼べと命じる父をどうにか宥める。軽く手当てだけしてもらい、執務室へと移動した。
「さて、何が起こったのか聞こうではないか」
大人しくしていたティナに向かって、少し怒りを孕んだ声で父が尋ねる。
口を割らないティナに痺れをきらし、私が代わりに答えてあげた。
「まずこのケガを見てください」
スカートの裾を持ち上げて、青くなった痣を見せた。目を丸くして父が驚く。
「……ティナに蹴られてできたものです。こちらは、さきほど踏みつけられて破片が刺さったの」
「……おまえ!」
怒りでわなわなと震えだした父が、勢いよく立ちあがった。私の話はこれだけでは終わらない。
「お父様、あなたにティナを責める資格はおありでしょうか?」
「な、なんだって?」
「だってほら、ティナが泣いていじめられたと騒いだとき、それだけで何も聞かずに私が悪いと決めつけましたよね?」
力が抜けたようにへろへろと椅子に座り込むと、机の上に肘をついて手を組んだ。
「……申し訳なかった、ナターシャ。あのときはティナがまだ家に来たばかりで……」
「言い訳無用です、でも、謝って頂けたので水に流しましょう」
父は私の言葉を飲み込むように何度も頷いた。
「さきほどのロレーヌさんも以前のお父様と同じでした。ティナの言い分だけを聞いて私に婚約破棄をする、と」
「そうだったのか……。私に人を見る目が無かった、本当に申し訳ないことをした」
ティナはずっと黙ってただ話を聞くばかりだった。正気が抜けたようにどこでもないところを見つめている。
「婚約を破棄することに異論はないんだな?」
「ええ、もちろんですわ」
「それなら私にあとのことは任せなさい、余計な心配はしなくていい」
「はい。ありがとうございます」
父は視線をティナに向けると、厳しい口調でどこからが嘘なのか正直に言えと命じた。
「……嘘なんてついていません」
もう演技は通用しない。それを分かっていながら突破しようとするなんてそうとう肝が据わっている。
「言うことはないんだな? もういい、出て行け」
大粒の涙を零しながら言葉を紡ごうとするティナに、父は言った。
「……部屋からではなく、この家からだ」
「そ、んな……! お父様!」
「お前はうちの娘じゃない! とっとと出て行け!!!」
ショックを受けてただ立ちすくむしかできなくなっているティナに肩を貸してあげる。フラフラとする身体を支えると、父に挨拶をしてから執務室を出た。
「荷物は使用人たちにまとめさせるから、門まで送ってあげるわね」
そう言ったものの、面倒になってしまったので玄関扉を越えてから突き飛ばした。
膝をすりむいたらしく、こちらを睨み付けてきたが全く怖くなかった。
「平民として頑張ってくださいね」
信じられない、という表情をしたティナを確認すると扉を閉めた。
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