6 / 7
6話 無理やりの発表
しおりを挟む「ようこそ、いらしてくださったんですね。嬉しいですわ」
アーリアが一生懸命掃除した大広間には招待されてやってきた人々でいっぱいになっていた。スザンネは張り切って挨拶をしている。
「無駄なことしたらただじゃおかないから。……お前はただの添え物なんだよ」
すれ違いざまにアーリアの耳元に顔を寄せたベルーザが、ニコニコとした表情を作りながら低い声で囁く。
ベルーザ以外は、穏やかな雰囲気に包まれていて、和気あいあいとした楽しい時間が流れていた。
「……アーリア様」
背後からした声に振り向くと、フォンの姿があった。先日の求婚が思い出されて頬が熱くなる。
「あら、ようこそ。楽しんでいって下さいね」
「はい……」
フォンが何か言いたそうにしていると、いきなり照明が落ちた。辺りは真っ暗になって、驚いた人たちはざわざわと騒ぎ出す。
丸いライトが大広間を駆け回り、最終的には一つの場所を照らし出した。光の中にはスザンネがいて、特設されたステージの中に立っている。
「今日は大切なご報告があり、皆様にはお集まりいただきました……」
スザンネは緊張したように息を弾ませながら、キラキラと輝かせた瞳で隣を見つめた。なにかのサプライズだと気がついた来賓たちは拍手を響かせる。
すると、光がひとつ増えた。
丸いライトの中には、いつの間にか目の前からいなくなっていたらしいフォンの姿があった。不思議そうな顔で周囲をキョロキョロと見回している。
「……私たちは結婚しますっ!」
盛大な拍手と歓声に包まれる。弾けるような笑顔のスザンネに反してフォンは冷たい表情だった。
今何が起きているのかが分かってきたらしいフォンは、盛り上がってきた空気を打ち消すように大きく手を振る。
スザンネが近付いてフォンを制止しようとするが、ふたりの様子がおかしいことは誰が見ても明白だった。
「もう正式に婚約した仲なのに!!」
「誤解だ! 間違ってる!」
真剣な剣幕のフォンに圧倒されて、緊迫した空気感が漂いはじめた。状況が変わった会場内には明かりが戻った。
「私が結婚を申し込んだのはこの方ではない。……他にいる。それなのに、誰かに手を加えられてスザンネ様と結婚を約束したことになっています」
「嘘よこんなのっ!」
悲壮感溢れるスザンネは、ベルーザに目をやった。ふたりはアイコンタクトを取ると周りにバレないようにうなずき合った。
アーリアは長年の経験から、ふたりが何か企んでいるとお見通しだった。
「フォン殿下は嘘をついています……! こんなことが出来るなんて信じられないっ」
「な、なんだって?」
259
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説

婚約者が私の妹と結婚したいと言い出したら、両親が快く応じた話
しがついつか
恋愛
「リーゼ、僕たちの婚約を解消しよう。僕はリーゼではなく、アルマを愛しているんだ」
「お姉様、ごめんなさい。でも私――私達は愛し合っているの」
父親達が友人であったため婚約を結んだリーゼ・マイヤーとダニエル・ミュラー。
ある日ダニエルに呼び出されたリーゼは、彼の口から婚約の解消と、彼女の妹のアルマと婚約を結び直すことを告げられた。
婚約者の交代は双方の両親から既に了承を得ているという。
両親も妹の味方なのだと暗い気持ちになったリーゼだったが…。

私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします
東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。
その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており…
さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

妹が私こそ当主にふさわしいと言うので、婚約者を譲って、これからは自由に生きようと思います。
雲丹はち
恋愛
「ねえ、お父さま。お姉さまより私の方が伯爵家を継ぐのにふさわしいと思うの」
妹シエラが突然、食卓の席でそんなことを言い出した。
今まで家のため、亡くなった母のためと思い耐えてきたけれど、それももう限界だ。
私、クローディア・バローは自分のために新しい人生を切り拓こうと思います。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

「そんなの聞いてない!」と元婚約者はゴネています。
音爽(ネソウ)
恋愛
「レイルア、許してくれ!俺は愛のある結婚をしたいんだ!父の……陛下にも許可は頂いている」
「はぁ」
婚約者のアシジオは流行りの恋愛歌劇に憧れて、この良縁を蹴った。
本当の身分を知らないで……。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。

義妹に婚約者を取られて、今日が最後になると覚悟を決めていたのですが、どうやら最後になったのは私ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フェリシティーは、父や義母、義妹に虐げられながら過ごしていた。
それも、今日で最後になると覚悟を決めていたのだが、どうやら最後になったのはフェリシティーではなかったようだ。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる