あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ

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3話 イザベラと舞踏会で

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 豪華絢爛に飾られた王宮は、招待された貴族たちで賑わっていた。

 レオニーもアルバート伯爵の婚約者として参加している。伯爵家の名を傷つけないようにと、お義母様から煌びやかなドレスを頂いた。

「痛っ……!」

 すれ違いざまに体当たりするようにぶつかられて、思わず大きな声を漏らしてしまった。

 慣れないヒール付きの靴を履いていたせいで、簡単にバランスを崩して地面に向かって倒れていく。

 どうにか立て直そうとするのもむなしく大理石の床と身体がぶつかってビタン! と派手な音が鳴り、囁くような話し声しかなかった会場に響き渡った。

「すみません……」

 周囲の人々の視線に耐えられなくて小さく呟くと、手を差し伸べてくれる人がいた。ありがたく掴まらせてもらい立ちあがる。

「ちょっと? 青いドレスの方? どちらに行かれるの?」 

 レオニーがお礼を言うと手を貸してくれたマダムが、ぶつかっていったらしい人に声をかけた。

「お怪我はないで──」
 
 尋ねようとしたレオニーの目の前にいるのはイザベラだった。顔を真っ赤にしながらこちらを睨み付けている。

 その表情を見て、イザベラはわざとぶつかってきたんだと悟った。想像以上に周囲の注目を集めてしまったせいで、恥をかかされたと思っているみたい。

「おい! 一体、どうしたんだい?」

 レオニーとイザベラが人に囲まれているのを見つけたアルバート伯爵が走りながら近付いてきた。

「大丈夫か? 何があったんだ?」

 アルバート伯爵は迷わずイザベラの傍に行くと、下から心配そうに顔を覗き込んだ。俯いているイザベラは首を横に振るばかりで何も言わない。

 大げさなアルバート伯爵のせいで、ぶつかって転んだだけなのになんだか深刻な雰囲気が漂いはじめていた。
 
「……あの、ぶつかった拍子に私が転んでしまっただけで」

 この空気をどうにかしようと、レオニーはイザベラに代わって状況を説明した。

 だが、アルバート伯爵は信じなかった。

「イザベラに何をしたんだ! どうしたらこんな顔させられるんだ!?」
 
 威圧的に詰め寄ってきてレオニーの肩を掴むと激しく前後に揺さぶった。

 いつものことだ。この人に何を言っても無駄だろうと黙っているレオニーを見て、アルバート伯爵はひとりで物語を作り上げていく。

「なんで答えない? ……答えられないのか?」

「お嬢さんが言っていたでしょう? ただぶつかって転んだだけだと」

 レオニーは背後から聞こえてきた声に振り向くと、さきほど助けてくれたマダムがいた。激昂するアルバート伯爵に対して、毅然と言い返す姿は気品の良さを感じさせる。

「だ、誰なんですかあなたは!」




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