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1話 最悪な婚約者
しおりを挟む「この出来損ないが! 僕に感謝する気持ちがないみたいだな? 誰のおかげで君の生まれたしょぼくれた家が存続していられるのか考えたことはあるか?」
執務室に入るなりものすごい剣幕で怒鳴りつけてきた婚約者のアルバート伯爵に、レオニーはただ頭を下げて耐えるしかなかった。
仕事で嫌なことがあるたび、ストレスを発散したいとき……、アルバート男爵はレオニーを呼び出してはネチネチと責め立てる。
格上の伯爵家と、没落しかけている男爵家の娘が婚約すれば自然と上下関係が出来てしまうものなのかもしれない。
レオニーは胸中でなんとか自分を宥めながら、アルバート伯爵との結婚のために我慢していた。
「伯爵夫人になる女が、業務をこなす旦那様を支えようともしないなんてな! とんだ外れクジを引かされたもんだ」
「大変申し訳ありません」
「本当に申し訳なく思うなら少しは頭を使ったらどうなんだ? いつも謝るだけでなにひとつ改善されていないじゃないか」
どんな理由で怒られようとひたすら頭を下げ、謝罪の言葉を口にして、アルバート伯爵の気持ちが落ち着くのを待つ。
口ぶりはたいそうなものだが、実際に業務をこなしているのはレオニーだ。
押しつけられた仕事を処理しきれないと断ったのに、アルバート伯爵はそのまま放置していたようだった。
「心から反省してくれよ、頼むから。そうやってふてくされてばかりじゃ何も変わらないだろう?それに、……嫌ならいつでも出て行ってくれて構わない」
この家から追い出されたらレオニーに行くあてが無いことをよく知っていながら、アルバート伯爵はいつも決めゼリフのように言う。
レオニーはより一層縮こまって、か細い声をあげた。
「私が至らず、申し訳ありませんでした。努力いたしますのでここに置いてください。これからより一層尽力します」
アルバート伯爵にもういいと言われて顔を上げると、目の前には満足そうに勝ち誇っている表情があった。
唇の端はほんの少しだけキュッと上がっていて、蔑むような視線はレオニーに注がれる。
「……そこまで言うなら仕方がない。今後、精一杯努力するように! もう下がっていいぞ」
身体を折りたたむように深く礼をして部屋を出ようとするレオニーの耳に、いつもの甘ったるい声が聞こえてきた。
「んん~、あの人また何かやらかしたの? アルバート様のこと怒らせてばかりなのね……」
ちらりと振り返って見ると、そこには艶々としたシルクの寝巻きを纏った女がいた。
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