あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ

文字の大きさ
1 / 10

1話 最悪な婚約者

しおりを挟む


「この出来損ないが! 僕に感謝する気持ちがないみたいだな? 誰のおかげで君の生まれたしょぼくれた家が存続していられるのか考えたことはあるか?」

 執務室に入るなりものすごい剣幕で怒鳴りつけてきた婚約者のアルバート伯爵に、レオニーはただ頭を下げて耐えるしかなかった。

 仕事で嫌なことがあるたび、ストレスを発散したいとき……、アルバート男爵はレオニーを呼び出してはネチネチと責め立てる。

 格上の伯爵家と、没落しかけている男爵家の娘が婚約すれば自然と上下関係が出来てしまうものなのかもしれない。

 レオニーは胸中でなんとか自分を宥めながら、アルバート伯爵との結婚のために我慢していた。

「伯爵夫人になる女が、業務をこなす旦那様を支えようともしないなんてな! とんだ外れクジを引かされたもんだ」

「大変申し訳ありません」

「本当に申し訳なく思うなら少しは頭を使ったらどうなんだ? いつも謝るだけでなにひとつ改善されていないじゃないか」

 どんな理由で怒られようとひたすら頭を下げ、謝罪の言葉を口にして、アルバート伯爵の気持ちが落ち着くのを待つ。

 口ぶりはたいそうなものだが、実際に業務をこなしているのはレオニーだ。

 押しつけられた仕事を処理しきれないと断ったのに、アルバート伯爵はそのまま放置していたようだった。

「心から反省してくれよ、頼むから。そうやってふてくされてばかりじゃ何も変わらないだろう?それに、……嫌ならいつでも出て行ってくれて構わない」

 この家から追い出されたらレオニーに行くあてが無いことをよく知っていながら、アルバート伯爵はいつも決めゼリフのように言う。

 レオニーはより一層縮こまって、か細い声をあげた。

「私が至らず、申し訳ありませんでした。努力いたしますのでここに置いてください。これからより一層尽力します」
 
 アルバート伯爵にもういいと言われて顔を上げると、目の前には満足そうに勝ち誇っている表情があった。

 唇の端はほんの少しだけキュッと上がっていて、蔑むような視線はレオニーに注がれる。

「……そこまで言うなら仕方がない。今後、精一杯努力するように! もう下がっていいぞ」
 
 身体を折りたたむように深く礼をして部屋を出ようとするレオニーの耳に、いつもの甘ったるい声が聞こえてきた。

「んん~、あの人また何かやらかしたの? アルバート様のこと怒らせてばかりなのね……」

 ちらりと振り返って見ると、そこには艶々としたシルクの寝巻きを纏った女がいた。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

処理中です...