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後半 結婚式で

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「おふたりとも、おめでとうございます。これはほんの些細な気持ちです」

 ラファエル伯爵とアシュリーの結婚式当日、私は約束通り招待されて会場に来ている。

 ふたりは私が作った魔道具だとも知らずに嬉しそうに顔をほころばせながら、花形のコサージュを受け取ってくれた。

「ああ、これ着けるの難しいわ」

「貸してごらん、僕がやるから」

 アシュリーの甘ったるい声にも甲斐甲斐しいラファエル伯爵にも全く腹が立たない。

 なぜならふたりにこれから復讐が出来るから。私が念を送ればコサージュは心の声を音にする装置に早変わりする。

「それでは」

 控え室を出て、ケータリングに手を伸ばした。あとで祝杯をあげるためにシャンパンを選ぶ。

 テーブルにつくと、すぐに式が始まった。
  
 高砂席に座っているふたりは、幸せでたまらないみたい。口が裂けるんじゃないかと思うくらいにんまりと笑みを浮かべている。

 そろそろいい頃合いだろう。さりげなく手のひらをふたりへ向けると、意識を集中させた。

 コサージュと念が噛み合っていくのを感覚で理解する。

「……も…………」
「……………と……」

 ノイズのようなザラザラとした音が流れはじめて、会場でキョロキョロと周りを見回す人もいる。

 音は念を送るごとに鮮明になっていった。

『本当に幸せだなぁ』
『馬鹿伯爵のおかげで将来安泰』
『早くレオン様に会いたい』

 はっきりとした音声はアシュリーの肉声と全く同じだった。久々の魔道具にしては上出来だと思う。

 言ってもいないのに自分の心の声が聞こえたアシュリーは、大きな目をぱちくりと瞬かせた。

「アシュリー!? どうしたんだい?」
『本当に美しいアシュリー……早く式を終わらせて食べてしまいたいよ』

「な、なんですって?」
『この豚野郎、気持ち悪いこと考えやがって』

 必死で首を横に振って否定するラファエル伯爵だったが、そうしている間にもアシュリーへの気持ち悪い妄想が魔道具から流れ続けた。

 アシュリーは驚いたように開いた口を手で塞いでいたが、ラファエル伯爵に対する罵倒と浮気相手の名前を呼ぶ声は止まらない。

 会場全体に聞こえるような音量で心の声だけが響いていく。肉声は会場の後ろの方にいる人まで届かないだろう。

 ラファエル伯爵の母親は顔が真っ青になっていて今にも倒れそうなほどふらついている。

 お付きの人に支えられたかと思うと、手を振り払ってアシュリーの元へずんずんと進んでいく。

 目を吊り上げた元お義母様は、予備動作もなくアシュリーの頬をフルスイングした。

 それに怒ったらしいアシュリーの親族はお義母様ではなくラファエル伯爵に殴りかかり、それを合図にしたかのように高砂席の周りでは乱闘騒ぎが始まった。

 長い手で抗戦するラファエル伯爵だったが、数の力には勝てないようでみるみるうちに顔が血で染められていく。

 会場内のざわめきは次第に大きくなり、その中でもひときわ大きいラファエル伯爵とアシュリーの心の声がいつまでも私の耳に聞こえてきていた。



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