正しい魔導書の使い方

嫁葉羽華流

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「誤算だった」
 昼休み、図書室にて木之絵馬は開口一番言った。

 「モトヤクン、イッショニオベントタベマショ! タベマショ! タベマシュ!」と最後にわざとらしい噛み方をされてつられた訳ではなく、その後に付き合えとサインを送られたのだ。
 なんだか緑川が赤い顔をして近くに来ようとしていたが、瀬戸によって阻まれていたが……迷惑そうに顔をゆがめていたのは結構印象的だった。あいつでもあんな顔するんだなと緑川の隠された側面を見たような気がする。
 そしてついて行ってみれば図書室。
「なんでここなんだ。見ただけで鳥肌が立ってきた……」
「静かだし、昼休みはほとんど利用されていないからだ。おまけで魔術書や魔導書の探索だ」
「まて。俺は手伝うなんて一言も……」
「貴様の意見は聞かない」
「ひでぇ!」
 一言で感想を漏らした。鬼だ、コイツ。
「相棒君に同意する訳ではないが……それはひどいぞ、魔術師君。相棒君にもおそらく人権というものが――」
 ベブズが抗議? をしてきたのでそれに乗じて俺も、
「そうだ! 人権はどうした!」
「貴様にあると思うか?」
 素早く返された。
 ……すごく冷ややかな目で木之絵馬さんがこちらを睨んでおりました。目に「とっとと来い」との意思表示がありました。怖ぇ。マジ怖ぇ。
 んで図書室には誰もいなかったので少し奥に行って話すことに。
 そして行頭へとつながるのだ。

「誤算?」
「ああ。昼間に魔人がやってくるとは思わなかった。学校内にも入って戦いを仕掛けてくるともな。下手をすれば死にかねなかった」
 木之絵馬は苦虫をかみつぶしたような顔をした。どうやら相当悔しいらしい。
「こちらの油断もあったが、お前が魔人を飛ばして来てくれたおかげで何とか死なずに済んだ。それに関しては礼を言おう」
 呆然。
 俺が少しぽかーんとしていたら木之絵馬が珍しそうな顔をして、
「どうした?」
「……いや、お前でもちゃんと礼を言うときがあるんだなぁ、と」
「確かに。無表情を絵に描いて、それを額縁に入れたようなものだからな。意外だ」
「殴り殺されたいか?」
「すんませんでした」
 と言うか木之絵馬。それってほいほい出せる代物じゃないようなって聞いたんだが。頼むからその後ろにある筋肉質の黒い腕をしまってくれ。
「私だって、感謝したときには礼を言う。と言っても、これが生まれて初めてだろうがな」
 生まれて、初めて?
 と言うことはコイツ、生まれてから一度も感謝からの礼を言ったことがないのか!?
「……余計なことで口を滑らせたな」
 木之絵馬がぷいと後ろを向いた。
「まて、まさかホントに!? ねぇ、木之絵馬さん!? 答えてくれませんか!?」
「あんまりうるさいと握り殺すぞ」
「ごめんなさい」
 またしても筋肉質の腕がこちらを向いていた。
 いくら味方とはいえ、何度もこうされていては心臓がもたない。
 そんなことを思ったとき。
 窓ガラスが割れた。
 いや、正確には割られた、と言った方が正しいだろう。
「マスター、無事ですか!?」
 夕焼け色の髪の少女によって。
 そして木之絵馬と対峙する少女。一歩踏み出せば拳は当たる位置だ。
「やはりマスターを殺す気でしたか。先日はマスターのご命令にて助けたですが、今回ばかりはその命、生きながらえているのを見過ごせないですよ」
「そうか。まぁ、貴様に借りを作っておくことは不愉快だったからな。ここで殺って借りを返す、ということにしておこうか」
 にらみ合い。一触即発のぴりぴりとした空気。
 人と、人ならざる者との一騎打ち。
「来るですよ、魔術師」
「来い、魔人」
 そして少女が踏み出そうとした――

「――――って、アホかおのれらはぁ―――――――――――――――――!」
 ごごちん。

「ぐぁ――――ちゃぁ―――――――――!」
「…………っ!」
 少女達が動くよりも早く、俺は二人の間に立って頭を打ち据えた。
 少女はその辺をぐるぐると転げ回り、木之絵馬はその場にうずくまって音を発していた。聞こえるのは呻き声だけ。
 そして。
「が……あ……あが……あがが…………」
 一番の被害者且つ功労者はうめき声を発していた。
「お疲れ、相棒」
「ジェントルな声を出して労をねぎらっても無駄だ! ……相棒君。今回の一番の被害者は僕だと思うんだが……」
「被害者じゃないな。むしろ功労者だ」
「異議あり! 撤回を要求する! 僕は一番の被害者だ!」
 訳の分からん事を言っている魔導書はさておきとして。
「お前らはアホか」
 二人の少女に向かってお説教。
「確かに仲が悪いかもしれんだろうがな、ここは曲がりなりにも図書室だ。本が破れようが燃えようが何されようが構わんよ、俺は。でもこんな所で大乱闘なんぞやったら死人が出るわ! 少なくとも一人は!」
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