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「やはり、『魔法』についての説明がよろしいでしょうか」
瓢さんは語り出した。
正確には定義はされていないが、瓢さんたち『魔術師』が呼ぶ魔法というのは「異界から物質を召還する」というものだった。
それが術者によって契約されたものであればどこにだろうと召喚――『使う』ことは可能ということだった。
「まあ、さすがに自分で確認――つまりは視認できるところでなければ、魔法も使うことはできませんが」
「いや、かなり万能だよな。そういわれれば」
自らが確認できるところであればどんなところにでも使うことはできる。つまりはそういうことではないであろうか。
瓢さんは少し肩をすくめて「代償となるものを知っていますか?」と聞いてきた。
「術者の魂……とは行きませんが、体力や気力と、実に代償は多岐にわたります」
やはり万能の力、と称されていてもその代償にはかなりのものが必要だった。
大魔術の際には人一人分の命をささげるものから、
呪う際には鶏の心臓まで。
万能を使うにはそれ相応のリスクがある。
――それ相応のものを払えば何だってできる。
ベブズが言っていたことを思い出す。
だとしたら一つ、疑問点が浮かぶ。
俺が昨夜魔人の少女を召還したとき、何を支払ったのか。
俺がそう口にしたとき、瓢さんは「ここが重要なことです」と前もって言ってきた。
「しかし、リスク無しでできる『魔法』があります」
「リスク無し?」
「はい。それを私たちはまぁ――『魔』を『導』く、と書いて、『魔導』……と呼んでいます」
魔導って、何なんだ? 魔術とはどう違うんだ?
そう言えば、ベブズのことをこいつらは魔導書と言っていた。
「『魔導』は一部しか『魔法』が使えないという制約がありますが、リスク無しでその力を働かせることができます」
じゃあ、俺が昨日召喚……したもの、っていうのはリスク無しで召喚した、って言うことなのか?
「そうなりますね。しかし、ハズレだったんでしょうか……。ここにすさまじい魔力を感じたのですが……」
「ハズレ? 魔力?」
何のことだか分からなかった。特に後者。ベブズは魂、と言っていたが。
「先ほど代償になる、と言っていた力の総称です。あなたの場合、大規模な魔術を使う際にはそれが必要になる、と言うことでは?」
……ちょっとまて。
さっき魔導にはリスクはいらない、って言ってたよな。
なのになんでリスクがいるような話になってるんだ?
「まぁ、魔導書にもよります。その人の適合率にもよりますし……とにかく、いろんな事が重なり合うのです。そこは魔術師も頑張って研究しているのですが、いかんせんサンプルとなる魔導書とその適合者が少ないのです」
あまり進んでいない、って魔法の世界もこっちと同じような感じなのか……。
進んでいるようで、進んでいない。
進んでいないようで、進んでいる。
対極的な二つだけど、イコールでもないし、イコールでもある。
矛盾する物でもあり、そうでもない。
そう思ったら少しだけ親近感が湧いた。
「そうそう。魔導には必要な物は二つあります。まず情報と魔力源となる本。所謂魔導書が必要です。それと――それに適合する人間」
「適合する人間?」
「そう。魔導書は自分を読ませる人間を選ぶのです。まぁ、木之絵馬さんみたいな人は例外ですが」
つまり俺はベブズに選ばれた、って事になるのか? でも俺の家は魔術なんかとはあんまり関わり合いは無いぞ? ただ親父が民俗学の研究でどこかにあっちこっちに出かけているだけだし。
それを言ったら瓢さんは「才能の問題です」と一言で片づけた。おざなりだ。
しかし、そこでまた一つ疑問に残ることがある。何故に木之絵馬は襲ってきたんだ? 魔導書に適応するんだったら俺の後にでも読めばいいだろうに。
木之絵馬は溜息をついてその理由を説明し始めた。
「魔導書の適合者は一人だけだ。読み手は二人もいらない。そんな例は未だかつて聞いたこともないし、見たこともない。だから私はお前にあのとき魔導書を渡せと言った。まぁ、無関係の人間を巻き込みたくはないと言うのもあったんだがな」
つん、と済まされたような顔で木之絵馬は言ってきた。
「う……で、でも、あの空気は確実にこっちの話を聞く気もなかったし、そっちの話を聞かせるつもりもなかっただろ!」
「無論だ。言ってわからないのならば、無理やりにでも奪う。まぁ、殺すつもりで奪わないと、適合した人間との連結は切れそうにもないからな」
つまりは、殺す気だった、と。
すこし背筋が冷たくなったとき、「それに」と木之絵馬は付け加えて、
「何の力も持っていないお前が持っている現時点でも、魔導書は様々なところから狙われている」
さらりと一言。
木之絵馬は何の気もなしに行った。
「狙われてるんだったら狙われてるってちゃんと言えよ!」
「普通そんなことを言って信じるやつがいるか?」
「う」
確かに。
外から見ればただの本一冊のために狙われているとは思えない。
「それに、不用意に事情を説明するわけにはいかない。再三言わせてもらうが、一般人を魔術の世界に引き入れることは好ましく無いからな」
無表情に、木之絵馬は言ってのけた。
つまりは今回は例外だ、と言うことだろうか。
入れ替わりになるように、瓢さんがさて、と手を叩き、
「本屋君。先ほど聞いたように、君が様々な方面から狙われている……これは紛う事なき事実。ですが、それはどこかの魔術団体に所属していればその命と身柄は保証します」
「あんたが言うとえらくうさん臭いな」
俺がジト目で見つめていると、瓢さんは両手を挙げて、
「やだなぁ。私は何も考えてはいませんよ。こんな弱い老人をいじめて何になるというのですか?」
嘘だ。何故かその時俺は確信できた。
「こほん……とにかく、早い話がこうです。……本屋君。私の所に来ませんか?」
瓢さんは語り出した。
正確には定義はされていないが、瓢さんたち『魔術師』が呼ぶ魔法というのは「異界から物質を召還する」というものだった。
それが術者によって契約されたものであればどこにだろうと召喚――『使う』ことは可能ということだった。
「まあ、さすがに自分で確認――つまりは視認できるところでなければ、魔法も使うことはできませんが」
「いや、かなり万能だよな。そういわれれば」
自らが確認できるところであればどんなところにでも使うことはできる。つまりはそういうことではないであろうか。
瓢さんは少し肩をすくめて「代償となるものを知っていますか?」と聞いてきた。
「術者の魂……とは行きませんが、体力や気力と、実に代償は多岐にわたります」
やはり万能の力、と称されていてもその代償にはかなりのものが必要だった。
大魔術の際には人一人分の命をささげるものから、
呪う際には鶏の心臓まで。
万能を使うにはそれ相応のリスクがある。
――それ相応のものを払えば何だってできる。
ベブズが言っていたことを思い出す。
だとしたら一つ、疑問点が浮かぶ。
俺が昨夜魔人の少女を召還したとき、何を支払ったのか。
俺がそう口にしたとき、瓢さんは「ここが重要なことです」と前もって言ってきた。
「しかし、リスク無しでできる『魔法』があります」
「リスク無し?」
「はい。それを私たちはまぁ――『魔』を『導』く、と書いて、『魔導』……と呼んでいます」
魔導って、何なんだ? 魔術とはどう違うんだ?
そう言えば、ベブズのことをこいつらは魔導書と言っていた。
「『魔導』は一部しか『魔法』が使えないという制約がありますが、リスク無しでその力を働かせることができます」
じゃあ、俺が昨日召喚……したもの、っていうのはリスク無しで召喚した、って言うことなのか?
「そうなりますね。しかし、ハズレだったんでしょうか……。ここにすさまじい魔力を感じたのですが……」
「ハズレ? 魔力?」
何のことだか分からなかった。特に後者。ベブズは魂、と言っていたが。
「先ほど代償になる、と言っていた力の総称です。あなたの場合、大規模な魔術を使う際にはそれが必要になる、と言うことでは?」
……ちょっとまて。
さっき魔導にはリスクはいらない、って言ってたよな。
なのになんでリスクがいるような話になってるんだ?
「まぁ、魔導書にもよります。その人の適合率にもよりますし……とにかく、いろんな事が重なり合うのです。そこは魔術師も頑張って研究しているのですが、いかんせんサンプルとなる魔導書とその適合者が少ないのです」
あまり進んでいない、って魔法の世界もこっちと同じような感じなのか……。
進んでいるようで、進んでいない。
進んでいないようで、進んでいる。
対極的な二つだけど、イコールでもないし、イコールでもある。
矛盾する物でもあり、そうでもない。
そう思ったら少しだけ親近感が湧いた。
「そうそう。魔導には必要な物は二つあります。まず情報と魔力源となる本。所謂魔導書が必要です。それと――それに適合する人間」
「適合する人間?」
「そう。魔導書は自分を読ませる人間を選ぶのです。まぁ、木之絵馬さんみたいな人は例外ですが」
つまり俺はベブズに選ばれた、って事になるのか? でも俺の家は魔術なんかとはあんまり関わり合いは無いぞ? ただ親父が民俗学の研究でどこかにあっちこっちに出かけているだけだし。
それを言ったら瓢さんは「才能の問題です」と一言で片づけた。おざなりだ。
しかし、そこでまた一つ疑問に残ることがある。何故に木之絵馬は襲ってきたんだ? 魔導書に適応するんだったら俺の後にでも読めばいいだろうに。
木之絵馬は溜息をついてその理由を説明し始めた。
「魔導書の適合者は一人だけだ。読み手は二人もいらない。そんな例は未だかつて聞いたこともないし、見たこともない。だから私はお前にあのとき魔導書を渡せと言った。まぁ、無関係の人間を巻き込みたくはないと言うのもあったんだがな」
つん、と済まされたような顔で木之絵馬は言ってきた。
「う……で、でも、あの空気は確実にこっちの話を聞く気もなかったし、そっちの話を聞かせるつもりもなかっただろ!」
「無論だ。言ってわからないのならば、無理やりにでも奪う。まぁ、殺すつもりで奪わないと、適合した人間との連結は切れそうにもないからな」
つまりは、殺す気だった、と。
すこし背筋が冷たくなったとき、「それに」と木之絵馬は付け加えて、
「何の力も持っていないお前が持っている現時点でも、魔導書は様々なところから狙われている」
さらりと一言。
木之絵馬は何の気もなしに行った。
「狙われてるんだったら狙われてるってちゃんと言えよ!」
「普通そんなことを言って信じるやつがいるか?」
「う」
確かに。
外から見ればただの本一冊のために狙われているとは思えない。
「それに、不用意に事情を説明するわけにはいかない。再三言わせてもらうが、一般人を魔術の世界に引き入れることは好ましく無いからな」
無表情に、木之絵馬は言ってのけた。
つまりは今回は例外だ、と言うことだろうか。
入れ替わりになるように、瓢さんがさて、と手を叩き、
「本屋君。先ほど聞いたように、君が様々な方面から狙われている……これは紛う事なき事実。ですが、それはどこかの魔術団体に所属していればその命と身柄は保証します」
「あんたが言うとえらくうさん臭いな」
俺がジト目で見つめていると、瓢さんは両手を挙げて、
「やだなぁ。私は何も考えてはいませんよ。こんな弱い老人をいじめて何になるというのですか?」
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