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「……呆れたな。自ら生きる道を絶つとは」
馬鹿にしたような口調で少女はこちらを見た。と同じ時に背後からまたあの黒い腕を出してきた。
「最後に言い残したい事はないか?」
慈悲のつもりなのか。少女は優しい顔で俺に向かって語りかけてきた。
「……カップ麺は、伸びてるだろうな……悪いが食っててくれ」
一言、ぽつりと漏らした時と、黒い腕の拳がこちらに向かってきた瞬間は、同時だったと思う。
更に。
少女の体が、横に飛ぶのも。
また、同時だったと思う。
「あたたた~……ホント、痛かったですよ~……」
目の前に、
「でも、マスターの無事を確認して、それに敵も撃退。うん。何とかなったですね」
夕焼けと同じ色の髪を持った、
「さて……よくもマスターをいたぶってくれやがりましたですねぇ?」
よくできた人形のようにキレイな、真珠色の肌を持った、
「マスターの痛みは、私の痛み。ですから」
透き通るように、美しい声を持った少女が、俺の目の前で立ち上がったのも。
「この痛み、千倍返しにして差し上げるですよ!」
※
私の目が覚めるとき、それは頭の激痛から始まりました。
痛さに目を覚ますと、眼前には一冊の見覚えのある本が落ちていました。
私はその本に見覚えがありました。
これは、自分の主……マスターが持っている物だと言うことが。
「――ってて……ったく、あんの使えないクズめ、なんて事をしやがる……角とかが曲がってたら承知しないぞ……」
ぶつくさと文句を言っている小うるさい本でした。
「ん? ひょっとして、君は――か?」
本は私の名前らしきものを言いましたが、それが何を意味しているのか、私にはよく分かりませんでした。
ただ、頭の中に一つだけ思い浮かんだものが。
自らの主を、マスターを死守すること。
これが、私に備え付けられた唯一絶対の命令でした。
たとえ、自分が死んでも、マスターを守る。
それが、私に与えられた命令だったはず、です。
「惚けているところすまないが――、はやいとこ僕を担いで相棒君の所にひとっ飛びしてくれないかな? 使えないクズでも、僕の今回の相棒だからね」
「……分かってますよ。うるさい本ですね」
私は本を拾って、マスターの元に飛びました。
「――ふっ」
息を短く吐いて。床を、蹴ります。
そして今まさにマスターに襲いかかろうとしている敵の元へ、横蹴りをかましました。
かましたのはいいのですが……勢いがありすぎて、少し転んで、頭をぶつけてしまいました。
「あたたた~……ホント、痛かったですよ~……。でも、マスターの無事を確認して、それに敵も撃退。うん。何とかなったですね。さて……よくもマスターをいたぶってくれやがりましたねぇ? この痛み、千倍返しにして差し上げますよ!」
ビシィ! っと、私は人差し指を相手にさしました。
少し埃に覆われていてよくは見えませんが、相手はどうやら動いてはいないようです。
と、油断していた刹那。
黒い腕が、私の体をわしづかみにしました。
「……なるほど。これが魔人、か……これは少しやっかいな物に当たったか……」
埃の仲から、瓦礫を払いつつ、相手はゆっくりとこちらに向かってきました。少しだけ髪が乱れて、脇腹を押さえているところを見ると、どうやら少しはダメージがあったようです。
腕でわしづかみにしながらその術者はそんなことを言ってきました。
「よく言うですよ。これは《巨人の腕》ですね? となると、あなた相当の魔術師ですね?」
私は見透かしたように言ってのけた。
《巨人の腕》……古来より召喚されるのが難しいとされている召喚物。千の腕を持つ巨人の腕の一振りとされている。当時でも召喚して制御をするのが難しいとされており、制御しようとしてもしきれずに、町を一つ滅ぼすことも珍しくはないとされている。その上、召喚したらしたでかなりの精神力を使うので、使うにしても一瞬のみにしか使えないはず。
少なくとも、私の中にはそう記憶されていた。
それをこの若い魔術師は、自分の腕のように操っている。
腕が締め付ける力は少しずつ強くなってきている。私の体が段々と痛みを感じてきていた。
「ほう……そこまで分かっているのか……ならばいいだろう。このままつぶされろ。自らの主を呪いながら、な」
更に締め付ける力を強めてきた。けど、
「……あなたは何か、勘違いをしてやがるようですね?」
私は両腕に力を込めた。
「確かに、《巨人の腕》は召喚物の中ではかなりの上位にある物です。が」
次第に手は開かれ、いや、私が開いているのだから開いていった。
「忘れてないですか? あなたの目の前にいるのを何なのか」
そして手を一気に押し開いた。
両腕が自由になった瞬間、そこに術者である少女の隙も、また生まれた。
そこに術者のおなかに向けて拳を突き出しました。要は殴りました。
「か、はっ……!」
少し息が漏れる音がしてそれを耳で認識した後、更に回転蹴りを入れました。
術者は面白いように飛んでいき、外にある木にぶつかりました。
ややぐったりしている術者に向かってゆっくりと間を詰めていったところで、
「調子に……」
術者の方から声がしました。見ると腕がゆらゆらと漂ってます。
「のるなっ!」
腕がこちらにすごい速さで向かって来ました。速度を維持したまま、腕はこちらに向かってその拳を振り下ろして来ました。
盛大な土煙。少しだけ術者がにやついているのが見えました。
ですが。
「遅い、ですね」
私は少し後ろに下がって腕の一撃を……足のすぐそばの所でかわしていました。
術者はそれを見た途端、驚いた表情に。
それを見た後、私は腕を思いっきり蹴り飛ばしました。
腕は地面の上を二、三回ほど回転して止まり、そのまま霧散し、風にながれてどこかに消えていってしまいました。
が、そんなことはどうでもいいです。
私は術者の近くまでゆっくりと歩み寄り、首をつかみました。
「さぁて……どう料理してやろうですか……」
そう言って更に首を締め付ける力を強くする。術者の口からは、息が絶え絶えに漏れる音が聴こえてくる。
あと少しで息を止めることができる。そう思ったとき。
「いい加減に……しろっ」
ごつん。
「いっ……ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
馬鹿にしたような口調で少女はこちらを見た。と同じ時に背後からまたあの黒い腕を出してきた。
「最後に言い残したい事はないか?」
慈悲のつもりなのか。少女は優しい顔で俺に向かって語りかけてきた。
「……カップ麺は、伸びてるだろうな……悪いが食っててくれ」
一言、ぽつりと漏らした時と、黒い腕の拳がこちらに向かってきた瞬間は、同時だったと思う。
更に。
少女の体が、横に飛ぶのも。
また、同時だったと思う。
「あたたた~……ホント、痛かったですよ~……」
目の前に、
「でも、マスターの無事を確認して、それに敵も撃退。うん。何とかなったですね」
夕焼けと同じ色の髪を持った、
「さて……よくもマスターをいたぶってくれやがりましたですねぇ?」
よくできた人形のようにキレイな、真珠色の肌を持った、
「マスターの痛みは、私の痛み。ですから」
透き通るように、美しい声を持った少女が、俺の目の前で立ち上がったのも。
「この痛み、千倍返しにして差し上げるですよ!」
※
私の目が覚めるとき、それは頭の激痛から始まりました。
痛さに目を覚ますと、眼前には一冊の見覚えのある本が落ちていました。
私はその本に見覚えがありました。
これは、自分の主……マスターが持っている物だと言うことが。
「――ってて……ったく、あんの使えないクズめ、なんて事をしやがる……角とかが曲がってたら承知しないぞ……」
ぶつくさと文句を言っている小うるさい本でした。
「ん? ひょっとして、君は――か?」
本は私の名前らしきものを言いましたが、それが何を意味しているのか、私にはよく分かりませんでした。
ただ、頭の中に一つだけ思い浮かんだものが。
自らの主を、マスターを死守すること。
これが、私に備え付けられた唯一絶対の命令でした。
たとえ、自分が死んでも、マスターを守る。
それが、私に与えられた命令だったはず、です。
「惚けているところすまないが――、はやいとこ僕を担いで相棒君の所にひとっ飛びしてくれないかな? 使えないクズでも、僕の今回の相棒だからね」
「……分かってますよ。うるさい本ですね」
私は本を拾って、マスターの元に飛びました。
「――ふっ」
息を短く吐いて。床を、蹴ります。
そして今まさにマスターに襲いかかろうとしている敵の元へ、横蹴りをかましました。
かましたのはいいのですが……勢いがありすぎて、少し転んで、頭をぶつけてしまいました。
「あたたた~……ホント、痛かったですよ~……。でも、マスターの無事を確認して、それに敵も撃退。うん。何とかなったですね。さて……よくもマスターをいたぶってくれやがりましたねぇ? この痛み、千倍返しにして差し上げますよ!」
ビシィ! っと、私は人差し指を相手にさしました。
少し埃に覆われていてよくは見えませんが、相手はどうやら動いてはいないようです。
と、油断していた刹那。
黒い腕が、私の体をわしづかみにしました。
「……なるほど。これが魔人、か……これは少しやっかいな物に当たったか……」
埃の仲から、瓦礫を払いつつ、相手はゆっくりとこちらに向かってきました。少しだけ髪が乱れて、脇腹を押さえているところを見ると、どうやら少しはダメージがあったようです。
腕でわしづかみにしながらその術者はそんなことを言ってきました。
「よく言うですよ。これは《巨人の腕》ですね? となると、あなた相当の魔術師ですね?」
私は見透かしたように言ってのけた。
《巨人の腕》……古来より召喚されるのが難しいとされている召喚物。千の腕を持つ巨人の腕の一振りとされている。当時でも召喚して制御をするのが難しいとされており、制御しようとしてもしきれずに、町を一つ滅ぼすことも珍しくはないとされている。その上、召喚したらしたでかなりの精神力を使うので、使うにしても一瞬のみにしか使えないはず。
少なくとも、私の中にはそう記憶されていた。
それをこの若い魔術師は、自分の腕のように操っている。
腕が締め付ける力は少しずつ強くなってきている。私の体が段々と痛みを感じてきていた。
「ほう……そこまで分かっているのか……ならばいいだろう。このままつぶされろ。自らの主を呪いながら、な」
更に締め付ける力を強めてきた。けど、
「……あなたは何か、勘違いをしてやがるようですね?」
私は両腕に力を込めた。
「確かに、《巨人の腕》は召喚物の中ではかなりの上位にある物です。が」
次第に手は開かれ、いや、私が開いているのだから開いていった。
「忘れてないですか? あなたの目の前にいるのを何なのか」
そして手を一気に押し開いた。
両腕が自由になった瞬間、そこに術者である少女の隙も、また生まれた。
そこに術者のおなかに向けて拳を突き出しました。要は殴りました。
「か、はっ……!」
少し息が漏れる音がしてそれを耳で認識した後、更に回転蹴りを入れました。
術者は面白いように飛んでいき、外にある木にぶつかりました。
ややぐったりしている術者に向かってゆっくりと間を詰めていったところで、
「調子に……」
術者の方から声がしました。見ると腕がゆらゆらと漂ってます。
「のるなっ!」
腕がこちらにすごい速さで向かって来ました。速度を維持したまま、腕はこちらに向かってその拳を振り下ろして来ました。
盛大な土煙。少しだけ術者がにやついているのが見えました。
ですが。
「遅い、ですね」
私は少し後ろに下がって腕の一撃を……足のすぐそばの所でかわしていました。
術者はそれを見た途端、驚いた表情に。
それを見た後、私は腕を思いっきり蹴り飛ばしました。
腕は地面の上を二、三回ほど回転して止まり、そのまま霧散し、風にながれてどこかに消えていってしまいました。
が、そんなことはどうでもいいです。
私は術者の近くまでゆっくりと歩み寄り、首をつかみました。
「さぁて……どう料理してやろうですか……」
そう言って更に首を締め付ける力を強くする。術者の口からは、息が絶え絶えに漏れる音が聴こえてくる。
あと少しで息を止めることができる。そう思ったとき。
「いい加減に……しろっ」
ごつん。
「いっ……ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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