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カルナの笑い声が酷く耳に張り付いた。憎しみ、怒り。これまでさんざん嫌な思いをさせられてきたのも吹き出してくる。でも、さすがに私一人じゃあ、大量の兵士をどうしようもできない。とりあえず、どこかで逃げ出すにしても、今は我慢した方がいい。
捕縛されたまま、促され、私は部屋の外に向かって歩き出した。しかし、突然、私を捕縛していた兵士がバランスを崩したように、倒れる。驚いた私は倒れた兵士に視線を移した。
「エルナ……様!」
私の視線は、倒れた兵士と一緒に倒れ込んでいた、青年とも少年とも言えるぐらいの男の子と交わる。完全に知らない兵士だ。たぶん入隊したばかりの兵士。私と同じくらいの年齢だろうか。
「逃げよう!」
男の子は、私の手を掴むと、走り出した。
「なっ、何してるの! 殺す良いチャンスを! バカ!」
後ろから、カルナのヒステリックな声が飛んでくる。もうお構いなしなのか、殺すと言ってしまっている。
「何なんだアイツ、実の姉妹にこんな」
男の子の怒った横顔が見える。走りながらだから、しっかりとは見えないけど、嫌悪感に満ちていそうだ。
「僕はサラレド」
サラレドは、私の方を見て、優しく微笑む。
「僕がエルナを守るから」
私の手を握ったサラレドの手に力が入る。
「でも」
私が言葉を発しようとした時、前から兵士がやってくる。サラレドがすぐさま、廊下を曲がり、そこにあった部屋に滑り込んだ。
「とりあえず、一旦、身を潜めようか」
そう言いながら、その場に座り込むと、息を整えるように、サラレドが大きく息を吸った。私も同じように座り込む。
「さっき何言おうとしたの?」
サラレドが私を見つめてくる。少し、恥ずかしくなって、私は身をよじった。
「さっき守るって、私の事」
「うん、エルナは僕が守る」
「でも、そんな事したら、あなたの人生、ずっと逃亡生活だよ?」
あの執念深いカルナならやりかねない。
「今ならまだ間に合うかもしれない、私を捕まえて、逃がした兵士は切り殺したとでも言って、知らないふりして突き出せば」
私の言葉にサラレドは顔を横に振る。
「そんなの嫌だ、僕はエルナが好きなんだ、エルナに人生を捧げられるなら、本望だよ」
私とつないだままだった、サラレドの手に力がこもる。それがとても嬉しくて、恥ずかしくて、言葉にできなくて、私は目をそらしながら、何も言わずに、手を握り返した。
「さぁ、とりあえず一旦、追手は撒けたし、どうにかして、見つからないようにこの城を出ないと」
サラレドが立ち上がった。
「そうだね」
私はサラレドと、今のままでいたいという気持ちを抑えつつ、立ち上がる。
捕縛されたまま、促され、私は部屋の外に向かって歩き出した。しかし、突然、私を捕縛していた兵士がバランスを崩したように、倒れる。驚いた私は倒れた兵士に視線を移した。
「エルナ……様!」
私の視線は、倒れた兵士と一緒に倒れ込んでいた、青年とも少年とも言えるぐらいの男の子と交わる。完全に知らない兵士だ。たぶん入隊したばかりの兵士。私と同じくらいの年齢だろうか。
「逃げよう!」
男の子は、私の手を掴むと、走り出した。
「なっ、何してるの! 殺す良いチャンスを! バカ!」
後ろから、カルナのヒステリックな声が飛んでくる。もうお構いなしなのか、殺すと言ってしまっている。
「何なんだアイツ、実の姉妹にこんな」
男の子の怒った横顔が見える。走りながらだから、しっかりとは見えないけど、嫌悪感に満ちていそうだ。
「僕はサラレド」
サラレドは、私の方を見て、優しく微笑む。
「僕がエルナを守るから」
私の手を握ったサラレドの手に力が入る。
「でも」
私が言葉を発しようとした時、前から兵士がやってくる。サラレドがすぐさま、廊下を曲がり、そこにあった部屋に滑り込んだ。
「とりあえず、一旦、身を潜めようか」
そう言いながら、その場に座り込むと、息を整えるように、サラレドが大きく息を吸った。私も同じように座り込む。
「さっき何言おうとしたの?」
サラレドが私を見つめてくる。少し、恥ずかしくなって、私は身をよじった。
「さっき守るって、私の事」
「うん、エルナは僕が守る」
「でも、そんな事したら、あなたの人生、ずっと逃亡生活だよ?」
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「さぁ、とりあえず一旦、追手は撒けたし、どうにかして、見つからないようにこの城を出ないと」
サラレドが立ち上がった。
「そうだね」
私はサラレドと、今のままでいたいという気持ちを抑えつつ、立ち上がる。
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