玉の輿がしたいだけなのに!~毎度事件が起こる上に、興味のない平民魔法師団長から溺愛されるメイドの事件手帳~

高岩唯丑

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エキセントリック・メイドドリーム

解決編09

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「何かあるなら言ってほしい、声をあげた者はどんな結果になっても僕が絶対守る、母上に何もさせないと誓う」
「トール! 私を裏切る気?!」
 金切り声のエミラがトールに迫った。トールは小さく首を横に振ると、口を開く。
「母上、何もしていないなら、何が出て来ても問題ないでしょう」
「そ、それは」
 口ごもりながら、少し後ずさるエミラ。それを見つめるトールの目はとても悔しそうだった。勇気の決断。慕っている母親を、売るような真似をしたのだ。きっととんでもない葛藤があっただろう。私は使用人たちの顔を見る。トールは勇気を出したのだ。皆も。
「……あの」
 一人の気の弱そうなメイドが、アリアンが恐々と手を挙げる。その場の視線が一斉にアリアンに集まった。そのせいでアリアンは、一瞬手を下げようとしてしまう。
「何? 何があるの?! 大丈夫だから言ってみて!」
「あなた! 分かっているの?!」
 私とエミラは、競う様に声を張り合う。何とか見えたこの光を逃す訳にいかない。そうしていると、トールがエミラの前に立ちはだかり、手を挙げたアリアンに声をかけた。
「アリアン、大丈夫、君は僕が絶対に守る」
 こういう状態じゃなければ、幸せすぎてメイド全員胸キュン死しそうなセリフである。そのセリフを投げかけられたアリアンは、顔を真っ赤にして、体をくねらせて腰砕け状態になっていた。
「はにゃぁん、トール様ぁ」
 恐怖や異常事態のこの状況より、胸キュンが上回った様だ。表情から他の部分まで、とろけたのかと思うぐらいにフニャリとする。
「今非常事態だから! 何を知っているの?! 話して!」
 私の言葉にアリアンがハッとして、緩み切っていた表情が真剣な物に変わる。
「エミラ様は短剣をいつも忍ばせてます、太ももの所にベルトで身につけているのを見た事があります」
 そんな物を身につけていたのか。私はそれなりに親しかったと思ってたけど、知らなかった。何故かちょっと悔しさを感じつつ、私はエミラに体を向ける。
「見せてもらえますか?」
「断るわ! なん……キャッ!」
 エミラの言葉が不自然に途絶えて、小さい悲鳴が続く。トールがエミラを、後ろから動けない様に掴んでいた。
「確認してほしい」
 私に真剣なまなざしを向けて、トールが言った。私はそれに頷いて見せる。
「離しなさい! トール! このままならあなたが王になれるのよ! ベル! やめて! あなたの事は許してあげる! だから……」
 これまでの言動はほとんど自白と言っていい気がするけど、私は構わずにエミラのドレスのスカートに手を突っ込む。抵抗するエミラに手こずりつつ、手に触れた硬い物を掴んだ。それを取り出す。
「……見つけた」
 つい安堵の声が、漏れてしまった。
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