玉の輿がしたいだけなのに!~毎度事件が起こる上に、興味のない平民魔法師団長から溺愛されるメイドの事件手帳~

高岩唯丑

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エキセントリック・メイドドリーム

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「父上には感謝していた、僕は人の上に立つ器じゃない、国を動かすなんてとても……皆からは外に追いやられた哀れな王子に見えたかもしれないけど、違うんだ……僕は今の立場に満足している」
 王城の使用人以外の仕事には関心がなかったせいで、どういう役職があるのかよくわからないけど、植物か何かを研究する所の、所長をしていたはずだ。エミラ様が花が好きで、その影響でそういう仕事をしているとか。少なくとも要職ではないはず。そこに満足しているという事だ。
 トールは王様を恨んでなんていない。この姿を見ればそれが分かる。トールはきっと犯人じゃない。
「ありがとうございました、アリース様に私の印象ではトール様は犯人ではないと伝えます」
「……ありがとう」
 トールが俯き気味にそう言った。心の中ではほくそ笑んでいるなんて思えない。トールは本当に王様の死を悼んでいるし、自分の立場に満足していたのだ。
 私が部屋を出るために、トールに一度頭を下げる。するとトールが思い出したように声をあげた。
「あっ、アップルパイ美味しかった、ありがとう」
「いえ、大したことじゃないですよ」
 トールは微笑んでいた。アップルパイの効果は少しくらいあったようで私は安心しながら、トールの部屋を後にした。


 私は廊下を歩きながら、頭を捻る。アンデストもトールも、王様が殺された刻限は一人だった。でも王様を殺しているようには思えない。演技でないのなら、王様に恨みも無ければ怒りもなかった。むしろ王様という立場を嫌がっている。容疑者と目されていたけど、二人とも実際は殺す動機が無かったという事だ。
「じゃあ、セブリアン様が?」
 確認する様に、私は声に出してみた。なんか違う気がする。セブリアンが王様を殺したところで、王様になるのはアンデストだ。殺すならまずアンデストの方だろう。少なくともセブリアンは合理的で頭が良い。王様はそのうち死ぬのだから、そんな危険は冒さない気がする。
 だけど私の中では、セブリアンが犯人であればと思っている。セブリアンとはあまり仲良くなっていない。あの人間は隙がない。全然揺るがないから、脈無しだと思っている。アンデストやトールが犯人ではないと思いたくて、結構最低な事を考えているな、私って。
「とりあえず、セブリアン様にも話を聞きにいかないと」
 勝手な自分の願望で、犯人と決めつけるのはさすがにいけない。私は、セブリアンの自室に向かって歩き始めた。
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