玉の輿がしたいだけなのに!~毎度事件が起こる上に、興味のない平民魔法師団長から溺愛されるメイドの事件手帳~

高岩唯丑

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エキセントリック・メイドドリーム

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 私はその声に即座に反応する。大好きな人間の声には、体がそう言う反応を示すのだ。
「エミラ様!」
 私の声は嬉しさで弾んだ。別に久しぶりに会ったとかではないのだけど、テンションが感動の再会の様になってしまう。いつもこうしているのだ。私はエミラに抱き着いた。
「こらこら、誰かに見られたらどうするの」
 エミラは咎める事を言いつつも、嬉しそうにそう口を開く。嫌がっていない様でよかった。私達は少しだけ戯れた後、離れて恭しく頭を下げる。
「申し訳ありません、足がもつれてしまって、受け止めていただいて感謝いたします、エミラ様」
「ふふふ、苦しゅうない、面を上げよ」
「ははっ」
 私は堪え切れなくなって声をあげて笑う。エミラも同じように笑ったけど、すぐに口の前に人差し指を立てた。それから二人は声を抑えて、クスクスと笑う。
 エミラも、落ち込んでいるんじゃないかと思っていた。でも大丈夫そうだ。冗談を言い合える位には、元気があるらしかった。やっぱり強い人間だ。
「安心しました……落ち込んでいるかと心配していたんです」
「あぁ、うん」
 私の言葉に対して、エミラは一瞬顔を曇らせる。でもすぐに笑顔を見せて口を開いた。
「落ち込んでいない訳じゃないよ、でも私がしっかりしないといけないし」
 しっかりしないといけない。そう言ったエミラの瞳には何かを決意したような、強い光が灯っていた。王様が亡くなり、すでに正妻も亡くなっている状態の現状では、エミラが王子たちの母親だ。トール以外にとっては義母ではあるけど、そんなの関係なく母親であろうとしているかもしれない。やっぱり強い人間だ。
 私はその強さに憧れていた。私も強くなりたい。
「ところで、セブリアンがどこに行ったか知らない?」
 いつもの笑顔に戻ったエミラが、思いついたように聞いてくる。今日はセブリアンとは全く接点がない。
「わかりません……すみません」
「あっ、いいのいいの、ちょっと気になった事あっただけだから……ところで、頼みがあるんだけど」
 何かを隠す様に、話を変えるエミラ。私はどうしたんだろうと思いながら、言葉の続きを待つ。
「トールが落ち込んでるから、何か元気の出る物を持っていってほしいの、今自室にいるはずだから」
 そこまで言ったエミラがイタズラっぽく微笑んで、続ける。
「お母さんより、若い女の子の方が元気が出るでしょ」
 なんとなくエミラの意図をくみ取る。私にチャンスをくれようとしているらしかった。こういう時優しくされると、コロリといく物だ。私はニヤリと笑って「承りました」と答える。
「うん、一回分くらいの時間はどこかで潰してくるから、気にしなくていいよ」
 意味ありげに、一回分という言葉を強調して言うエミラ。親としてどうなんだろうと思うけど、チャンスをくれたのだからありがたく受け取ろう。
「じゃあ、健闘を祈る」
 芝居がかった動きでエミラがそう言うと、その場を離れていった。私は急いで準備をするため、キッチンに向かって走り出す。
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