10 / 40
エキセントリック・メイドドリーム
02
しおりを挟む
「いや、理解はしていたんだ、私が次期王だと……でも」
アンデストがこちらを向いて、一度声を潜めた。口に出してしまっていいだろうか、という沈黙。それから苦笑して口を開く。
「でも……まだ先の事だろうと安心していた、覚悟を決めていなかった」
アンデストは目を伏せてしまった。混乱して当然だ。ただ親が死んだわけじゃない。王という、すべてを背負う重責までついてくるのだから。真面目だからこそ、全てが手に入るなんて楽観視はできないのだろう。
「本当は、王にはなりたくなかった……少なくとも、まだ時間があると思っていた、徐々に王になる覚悟を決めていいかと、悠長に考えていた」
アンデストが伏せていた目をこちらに向ける。
「情けないダメな人間だよ、私は」
本当は王になりたくなかった。この人が、王様を殺すわけがないのでは。一瞬そんな事を考えた私は、一旦考えるのをやめる。今はアンデストを何とかしてあげたい。
私はアンデストの頭の後ろ辺りに手を回して、自分の胸に引き寄せ優しく抱きしめる。
「ちょっ、ベル?」
慌てているアンデストに私は声をかける。
「……ちゃんと泣きましたか?」
いろいろな責務に追われて、王になる覚悟とか考えてて、きっとそんな暇はなかったのではないか。私は出来る限り優しい声で、アンデストに囁きかける。
「王の覚悟とか一旦脇に置いておきましょう、今はあなたはただのアンデストで、私はただのベル……王族と国民でもなければ、主人と使用人でもありません」
「あ……あぁ」
アンデストがゆっくりと座り込む。私もそれに合わせて膝立ちになった。
「ただの一般人だから、強くなくてもいいんですよ、泣いたって誰も失望したりしない、ね?」
「……あり……だとう……ううっ、あぁぁ……」
背中に回されたアンデストの手が、握り締められる。少し震えていた。
私とアンデストは並んで、窓の下の壁を背もたれにして座り込んでいた。アンデストが少し笑う。私は何だろうとアンデストを見た。
「恥ずかしい所を見られてしまった……でもなんだか気持ちの整理がついたよ」
「それはよかったです」
「昔、母上が亡くなった時を思い出した……あの時もここで同じように泣いたんだった、その時はベルじゃなくてエミラ様だったけど」
私がまだここに勤めていなかった時だ。エミラ様は王様の側妻だ。元メイドでメイドドリームの体現者。私はあの人が大好きだ。エミラ様と同じ行動が出来て、なんか嬉しい。
「……エミラ様の方が良かったですか?」
ふといじわるな気持ちになった私は、そんな事を口にしてみる。それを受けてアンデストは困った様に笑った。
「……そんな事は無いよ」
いまならキスしても拒否られないのでは。私の頭によこしまな考えが浮かぶ。いけない。今はそれより、アンデストの身の潔白を証明する方が先である。
「……ところで、辛いかもしれないんですが、昨夜の話を聞いてもいいでしょうか?」
アンデストがこちらを向いて、一度声を潜めた。口に出してしまっていいだろうか、という沈黙。それから苦笑して口を開く。
「でも……まだ先の事だろうと安心していた、覚悟を決めていなかった」
アンデストは目を伏せてしまった。混乱して当然だ。ただ親が死んだわけじゃない。王という、すべてを背負う重責までついてくるのだから。真面目だからこそ、全てが手に入るなんて楽観視はできないのだろう。
「本当は、王にはなりたくなかった……少なくとも、まだ時間があると思っていた、徐々に王になる覚悟を決めていいかと、悠長に考えていた」
アンデストが伏せていた目をこちらに向ける。
「情けないダメな人間だよ、私は」
本当は王になりたくなかった。この人が、王様を殺すわけがないのでは。一瞬そんな事を考えた私は、一旦考えるのをやめる。今はアンデストを何とかしてあげたい。
私はアンデストの頭の後ろ辺りに手を回して、自分の胸に引き寄せ優しく抱きしめる。
「ちょっ、ベル?」
慌てているアンデストに私は声をかける。
「……ちゃんと泣きましたか?」
いろいろな責務に追われて、王になる覚悟とか考えてて、きっとそんな暇はなかったのではないか。私は出来る限り優しい声で、アンデストに囁きかける。
「王の覚悟とか一旦脇に置いておきましょう、今はあなたはただのアンデストで、私はただのベル……王族と国民でもなければ、主人と使用人でもありません」
「あ……あぁ」
アンデストがゆっくりと座り込む。私もそれに合わせて膝立ちになった。
「ただの一般人だから、強くなくてもいいんですよ、泣いたって誰も失望したりしない、ね?」
「……あり……だとう……ううっ、あぁぁ……」
背中に回されたアンデストの手が、握り締められる。少し震えていた。
私とアンデストは並んで、窓の下の壁を背もたれにして座り込んでいた。アンデストが少し笑う。私は何だろうとアンデストを見た。
「恥ずかしい所を見られてしまった……でもなんだか気持ちの整理がついたよ」
「それはよかったです」
「昔、母上が亡くなった時を思い出した……あの時もここで同じように泣いたんだった、その時はベルじゃなくてエミラ様だったけど」
私がまだここに勤めていなかった時だ。エミラ様は王様の側妻だ。元メイドでメイドドリームの体現者。私はあの人が大好きだ。エミラ様と同じ行動が出来て、なんか嬉しい。
「……エミラ様の方が良かったですか?」
ふといじわるな気持ちになった私は、そんな事を口にしてみる。それを受けてアンデストは困った様に笑った。
「……そんな事は無いよ」
いまならキスしても拒否られないのでは。私の頭によこしまな考えが浮かぶ。いけない。今はそれより、アンデストの身の潔白を証明する方が先である。
「……ところで、辛いかもしれないんですが、昨夜の話を聞いてもいいでしょうか?」
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【外伝・完結】神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
一茅苑呼
恋愛
『神獣の花嫁シリーズ』第三作目です。
前作『〜かの者に捧ぐ〜』『〜さだめられし出逢い〜』をお読みいただかなくとも楽しんでいただけるかと思いますが、お読みいただければさらに面白い! はずです。
☆☆☆☆☆
❖百合子(ゆりこ)
大正生まれの女学生。
義兄に家族を惨殺された直後、陽ノ元に召喚された。
気難しい性格と口調で近寄りがたい。
❖黒虎(こくこ)・闘十郎(とうじゅうろう)
下総ノ国の黒い神獣。通称『コク』。
貴族=民のためと、力を奮う日々に疑問を感じている。自らの花嫁として召喚された百合子にひとめ惚れ。
※表紙絵は前作の主人公・咲耶とハクです。
黒冴様https://estar.jp/users/106303235に描いていただきました。
────あらすじ────
「私を、元の世界に戻してくれ!」
兄の凶行に我を失い、記憶を無くしてしまう百合子。
「……これで、人としてのおぬしは死んだ。この瞬間から、おぬしの神獣の花嫁としての生が始まる。
それが良いことかどうかは、わしには分からぬ」
コクは百合子を自らの花嫁とするが、それは仮初めの間柄。
彼女を元の世界に返すことを優先し、己の想いは二の次とする。
───これは、罪を背負った神獣と、その花嫁の話。
ずっとあのままでいられたら
初めての書き出し小説風
恋愛
永遠の愛なんてないのかもしれない。あの時あんな出来事が起きなかったら…
同棲して13年の結婚はしていない現在33歳の主人公「ゆうま」とパートナーである「はるか」の物語。
お互い結婚に対しても願望がなく子供もほしくない。
それでも長く一緒にいられたが、同棲10年目で「ゆうま」に起こったことがキッカケで、これまでの気持ちが変わり徐々に形が崩れていく。
またあの頃に戻れたらと苦悩しながらもさらに追い討ちをかけるように起こる普通ではない状況が、2人を引き裂いていく…
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる