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みんなが息を飲んで、夜慧の言葉を待った。
「白雪姫は……自殺、殺されてなんていないわ」
「自殺? でも、あの張り紙は、なんだったの? それに殺されたとも言えるって」
矢継ぎ早に、佳乃が言葉を夜慧に投げかける。夜慧は制止する様に、手を前に出してから、口を開いた。
「今話すわ……十五年前に自殺した白雪姫について」
白雪姫こと安藤来夏は、十五年前に自殺した。そういう理由と、すごい人気のあった生徒だったせいで、いまだに、語り継がれている伝説の生徒。そして葉山愛は現在三十二歳、十五年前は高校二年生、安藤来夏と友人だった。今は結婚していて、家事の合間に、ここに来てくれたのだ。
「どうして自殺したか、わかったの?」
愛が少し震える声で言った。
「えぇ、主に愛さんの話の中から、推測できました」
「私の?」
「はい、先ほども言いましたが、十五年も前の事なので、証拠もないですし、確証もありません、いわば、私と先生が、同じ結論に至ったのが、唯一の確証ですかね」
夜慧が美穂に目配せする。
「私一人で考えた事だと、不安だった、夜慧の考えと、私の考えが一緒なら……」
夜慧が微笑んで、話を進める。
「安藤来夏さんは……ADHDだったのではないかと思います、あるいは、自閉症スペクトラム障害、つまり発達障害です」
「……なに……それ?」
愛が呟くように言った。佳乃も、いまいち、わからなかった。
「簡単に言うと、脳機能障害の一種です」
「障害? でも、そんな障害者には、見えなかった」
「少し誤解があるようなので、言いますが、障害と言っても、知的障害を伴わないことが多いです……ただ、そこが問題ですね」
目配せした夜慧の言葉を、美穂が引き継ぐように続ける。
「パッと見、普通の人と、変わらないのですよ……だから、理解されづらい、本人が苦しんでいても、周りの人にとっては、ただの『困った人、変わった人』だ、おっちょこちょい、そそっかしい、落ち着きがない、空気が読めない、思い付きで行動しやすかったり、うっかりミスが多い、実は、運動が苦手だったりもする、それらを、努力でどうする事も、出来ない」
その言葉を聞いて、愛が口を手で覆い、驚く。
「心当たりがあるようですね、まぁ、気づきませんよね、先生も、気づいたのは最近でしょう、卒業アルバムで確認したら、先生は十五年前、安藤来夏の後輩だった、その時の認識は、愛さんと同じでは?」
「そう、同じだった、教職に就いて、最近になって、発達障害という物が身近になった、勉強して、ふと、来夏先輩を思い出した……特徴が一致していると」
夜慧が、少し表情を暗くして、言った。
「来夏さんは、辛かったでしょう、最近、やっと、発達障害についてわかってきて、十五年前は名前さえなかった、自分はおかしい、でも、ただ努力が足らないだけ、と親や先生に言われ、自分が悪い、と自分を責める、なんて自分は、ダメな人間なんだろう、ポンコツなんだろう、どうして、どうして、どうして」
佳乃は愛の話を思い出した。来夏は、自己肯定が異様に低く、ネガティブだったと言っていた。
「そして、ある日、突然、糸が切れて……窓から飛び出してしまった、私が死ねば、みんなが理由を考えてくれて、わかってくれるかも、と思ってしまったのかも」
佳乃は先生に向かって、言う。
「じゃあ、毒リンゴって」
「周囲の無理解、無知……そんなところだよ」
あの張り紙の意味はこうだったのだ。
『白雪姫は周囲の無理解で殺された』
「白雪姫は……自殺、殺されてなんていないわ」
「自殺? でも、あの張り紙は、なんだったの? それに殺されたとも言えるって」
矢継ぎ早に、佳乃が言葉を夜慧に投げかける。夜慧は制止する様に、手を前に出してから、口を開いた。
「今話すわ……十五年前に自殺した白雪姫について」
白雪姫こと安藤来夏は、十五年前に自殺した。そういう理由と、すごい人気のあった生徒だったせいで、いまだに、語り継がれている伝説の生徒。そして葉山愛は現在三十二歳、十五年前は高校二年生、安藤来夏と友人だった。今は結婚していて、家事の合間に、ここに来てくれたのだ。
「どうして自殺したか、わかったの?」
愛が少し震える声で言った。
「えぇ、主に愛さんの話の中から、推測できました」
「私の?」
「はい、先ほども言いましたが、十五年も前の事なので、証拠もないですし、確証もありません、いわば、私と先生が、同じ結論に至ったのが、唯一の確証ですかね」
夜慧が美穂に目配せする。
「私一人で考えた事だと、不安だった、夜慧の考えと、私の考えが一緒なら……」
夜慧が微笑んで、話を進める。
「安藤来夏さんは……ADHDだったのではないかと思います、あるいは、自閉症スペクトラム障害、つまり発達障害です」
「……なに……それ?」
愛が呟くように言った。佳乃も、いまいち、わからなかった。
「簡単に言うと、脳機能障害の一種です」
「障害? でも、そんな障害者には、見えなかった」
「少し誤解があるようなので、言いますが、障害と言っても、知的障害を伴わないことが多いです……ただ、そこが問題ですね」
目配せした夜慧の言葉を、美穂が引き継ぐように続ける。
「パッと見、普通の人と、変わらないのですよ……だから、理解されづらい、本人が苦しんでいても、周りの人にとっては、ただの『困った人、変わった人』だ、おっちょこちょい、そそっかしい、落ち着きがない、空気が読めない、思い付きで行動しやすかったり、うっかりミスが多い、実は、運動が苦手だったりもする、それらを、努力でどうする事も、出来ない」
その言葉を聞いて、愛が口を手で覆い、驚く。
「心当たりがあるようですね、まぁ、気づきませんよね、先生も、気づいたのは最近でしょう、卒業アルバムで確認したら、先生は十五年前、安藤来夏の後輩だった、その時の認識は、愛さんと同じでは?」
「そう、同じだった、教職に就いて、最近になって、発達障害という物が身近になった、勉強して、ふと、来夏先輩を思い出した……特徴が一致していると」
夜慧が、少し表情を暗くして、言った。
「来夏さんは、辛かったでしょう、最近、やっと、発達障害についてわかってきて、十五年前は名前さえなかった、自分はおかしい、でも、ただ努力が足らないだけ、と親や先生に言われ、自分が悪い、と自分を責める、なんて自分は、ダメな人間なんだろう、ポンコツなんだろう、どうして、どうして、どうして」
佳乃は愛の話を思い出した。来夏は、自己肯定が異様に低く、ネガティブだったと言っていた。
「そして、ある日、突然、糸が切れて……窓から飛び出してしまった、私が死ねば、みんなが理由を考えてくれて、わかってくれるかも、と思ってしまったのかも」
佳乃は先生に向かって、言う。
「じゃあ、毒リンゴって」
「周囲の無理解、無知……そんなところだよ」
あの張り紙の意味はこうだったのだ。
『白雪姫は周囲の無理解で殺された』
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