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珊瑚の宝石

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「じゃ、じゃあ、シーリウデンに来たのも?」
「あぁ、過保護だと怒らないでもらいたいが」
 私の背後から、ビュンビュンと何かが振り回されるような音が聞こえる。何の音か分からないが、とりあえずそれはいい。カイレンをチラリと見ると、何事もない様に進む方向に視線を向けていた。
「まぁ怒っていませんが」
「ではさっき怒っていたのはなんだ?」
 その問いかけには答えないでおく。怒っていた理由を話すなんて無理です。いや、怒ってなんてないんだ。
 無言で進み続けると、カイレンは諦めたのか質問を重ねてくる事は無かった。よし、チュンジャオの件を整理しよう。
 チュンジャオは帝とチーヒに青い柿を出した。悪意や害意を持って出したわけではないというのは確かである。そして、先ほどシーリウデンに出向いて、柿を見て来た。全てが青い柿で、一つとして熟した柿はなかった。チュンジャオは三つの柿を取ったらしいが、もしその三つだけ熟していたのであれば、普通なら出すのをやめておくか、自分で食べて確かめてみてから出さないだろうか。外側だけ色付いていて、中まで熟していないかもしれないからだ。
 それらの事からチュンジャオが精神を病んでいる可能性を考えた。しかし、同じ侍女から見て、それはないという事だった。最近の行動でおかしい事は、なかったというのだ。
「実際の所……現時点でどうなのだ?」
 牢のある建物に入る直前、そんな風に呟いて少し硬い表情を浮かべたカイレンが、立ち止まった。
「どう、とは?」
「チュンジャオさんは、故意に青い柿を帝に出したのか?」
 ある程度カイレンの方でも、状況を把握しているだろう。柿がすべて青かったのも見ているだろうし、ある程度の事情をシーリウデンの者から聴取しているだろう。今の状況だと、故意に青い柿を出したという方が納得であった。
「カイレン様の知るチュンジャオ様はその様な事をする方で?」
「いや、ない」
 即答。つまりそれはありえないと考えた。同じ考えだったチーヒに、私の話をしたのかもしれない。シャオグーなら自分たちが気付かない何かに気付くだろう。そういう信頼感を持ってくれている。なんだか嬉しくなってしまう。
「私も故意はないと考えてます」
 少し声が弾んでしまっていた気がする。別にカイレンに信頼されていても嬉しくなんてないのだ。嬉しくなんてない。喜んでなんていない。
「さぁ、早く行きますよ」
 変な空気を出してしまっている事を、何とか誤魔化そうと声をあげた。それから足早に目の前の建物に入る。なんだか自分でも、今の自分がよくわからなくなっている。ちょっとした事でこんなに声を弾ませて。よくわからない感情が心にあった。
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